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華国宮廷譚 〜今日から始まる病弱皇女の女官生活〜  作者: ぬぁ。


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2.カビ臭い部屋の理由

 

 目を覚ました後。


 私はしばらく天井を見上げていた。




 ウーユエに転生した。


 その事実はどうやら、夢ではないらしい。




 ……うん。


 まあ、それはいい。


 いや良くはないけど、今は置いておく。




 今の問題は、この部屋だ。




「……カビ臭ぁ」


 もう一度呟く。




 うん。


 間違いない。


 これは完全にカビ。




 湿気。


 換気不足。


 そして日光不足。




 看護学生としての知識が、頭の中でカチカチと組み立てられていく。




 病人の部屋としては――




 最悪。




 そう結論が出た頃、控えめなノックが聞こえた。


「ウーユエ様……?」


 静かな声。


 私はゆっくり顔を向ける。


 扉の隙間から、一人の女性が入ってきた。




 長い黒髪。


 整った顔立ち。


 落ち着いた動き。


 そして、どこか厳しい雰囲気。




 ああ。


 この人は知っている。




「ファジョン」


 私が呟くと、女性はわずかに目を見開いた。




「……お目覚めでしたか」




 静かに頭を下げる。




 この人は……、ファジョン。




 ウーユエ付きの女官。




 そして――


 物語の最後までウーユエに仕える、ただ一人の人。




 私はしばらく彼女を見つめてから、言った。


「窓、開けて」


 ファジョンは一瞬、動きを止めた。


「……窓、ですか?」


「うん」


「ですが、医師の指示で」


「光を入れるな、でしょ?」


 ファジョンは黙った。


 どうやら図星らしい。





 私は小さく息を吐いた。


「それ、逆」


「……逆?」


「病人の部屋はね」




 私はゆっくり身体を起こす。


 まだ身体は重い。


 少し動くだけで、胸が苦しい。




 ああ、なるほど。


 確かにこれは病弱だ。




 でも……、この部屋の環境なら、そりゃ病気にもなる。


 私は部屋をぐるりと見回した。




 閉め切られた窓。


 重い布のカーテン。


 湿った空気。




「病人の部屋は」


 私はファジョンを見て言う。




「空気が一番大事」




 ファジョンは何も言わない。


 ただ真剣に聞いている。




 私は少し楽しくなってきた。


 なんだか看護実習の説明みたいだ。




「空気、光、清潔」


 指を一本ずつ立てる。


「これが基本」


「……基本」


「うん」


 私はにやりと笑った。





「ナイチンゲールって人が言ってた」


 ファジョンは当然ながら首をかしげた。




「誰ですか?」


「えーと……」


 ちょっと困る。




 この世界にはいない。




「……すごい看護師」


「看護師?」


「人を元気にする人」




 ファジョンは少し考えたあと、ゆっくり頷いた。


「……医師とは違うのですか」




「違う」


 私は胸を張る。




「私、それになる予定だった」


 ファジョンは、ほんの少しだけ目を丸くした。


 私は笑う。


 なんだか楽しい。




「だから知ってる」


「この部屋」


 私は周囲を指差した。




「病気を作る部屋」




 ファジョンの眉がわずかに動く。




 怒ったわけではない。


 ただ、考えている顔だ。




 私は続けた。




「光は体にいい」


「空気は体を助ける」


「あと、湿気」


 私は鼻をひくひくさせる。


「カビ」


 ファジョンは部屋を見回した。




 確かに――


 よく見ると、梁の隅にうっすら黒いものがある。




「……」


 しばらく沈黙。


 そして、ファジョンは静かに言った。


「窓を開けます」


 私は満足して頷いた。




 窓が開く。


 きしむ音。




 そして――




 光。


 風。


 新しい空気が、部屋に流れ込んだ。




「……あー」


 私は思わず息を吐いた。




 生き返る。


 本当に。




 空気って大事。




 ファジョンは私を見た。




 少し不思議そうに。


 そして――




 ほんの少しだけ。


 笑った。




「ウーユエ様は」


「面白いことをおっしゃいます」


 私は肩をすくめる。


「でしょ」


 そして言った。




「この部屋、改革するよ」


 私はにやりと笑った。




「健康な部屋にする」





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