1.転生
「……うそでしょ」
思わず呟く。
いや、待って。
待って待って待って。
ちょっと落ち着こう。
深呼吸。
一回状況整理。
まず、私はさっきまで看護学生だった。
国家試験が終わって、春から大学病院勤務予定。
つまり、普通に日本で生きていた。
それなのに。
今ここにいる。
知らない部屋。
子供の身体。
そして――
恋愛歴史ドラマの世界。
「いやいやいや」
頭を抱える。
いや、待って。
転生って何。
そんなファンタジーある?
……あるのか。
だって今まさに体験してるし。
問題はそこじゃない。
問題は。
「ウーユエって……」
暴君エンの姉。
そして。
物語開始一話で死ぬ人。
私は天井を見上げた。
そう。
ウーユエは病弱な皇女だ。
いつも薬を飲んでいて、ほとんど寝込んでいる。
そして。
ある日、体調が急変して――
死ぬ。
原因は。
毒。
じわじわ身体を弱らせる毒を、薬に混ぜられていた。
そしてそれをやったのは……
「……皇后」
実母。
胸の奥が冷たくなる。
いやいやいやいや。
ちょっと待って。
つまり私、このままだと……
死ぬじゃん。
「いや無理」
思わず口から出た。
無理。
だって私、看護師になる予定だったんだよ?
人の命助ける側なんだけど?
なのに。
自分が毒殺される未来確定って何それ。
しかも。
ウーユエが死ぬことで。
エンは壊れる。
唯一心を許していた姉を失って。
優しかった皇子は……
暴君になる。
そして物語は――
悲劇へ向かって進んでいく。
宮廷の陰謀。
反乱。
裏切り。
最後は……
燃える宮殿。
エンと……
ヒロインの桜花雪が……
一緒に死ぬ。
「……いやいやいや」
私は布団の上で膝を抱えた。
推しが死ぬ未来とか、無理なんだけど。
リュウレツも死ぬし。
エンも死ぬし。
カセツも死ぬし。
誰も幸せにならないやつじゃん。
そんなの、絶対嫌。
しばらく黙り込む。
頭の中で、ぐるぐる考える。
私はこの世界を知っている。
未来も知っている。
つまり――
死亡フラグも――
全部知ってる。
だったら……
「……回避すればいいんじゃない?」
ぽつりと呟いた。
まず――
私は死なない。
毒なんて飲まない。
そして――
エンを闇落ちさせない。
それから――
リュウレツも守る。
あと――
カセツも。
ついでに――
この国も。
私は小さく拳を握った。
よし。
決めた。
「私」
ぽつりと呟く。
「暴君なんて生まれない未来にしてやる」
だって――
推しが死ぬ物語なんて。
絶対に認めない。
――こうして私は。
悲劇の物語の最初の犠牲者。
皇女ウーユエとして――
死亡フラグ回避生活を始めることになった。




