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業(ごふ)

〈舗道濡れ敗北者たちの春遠し 涙次〉



【ⅰ】


* 果野睦夢、** 元魔界軍の「ジャンヌ・ダルク」、***「オールド・ウェイヴ【魔】」コミューンの熱い聲援に依つて、蘇生させられた。「オールド・ウェイヴ【魔】」逹には現在、強力なリーダーシップを取れる者がゐなく、果野に寄せられた期待は大きなものであつた。だが彼女は、そんな魔界情勢には知らぬ顔で、自分が人間界でだうやつて生き延びるか、にしか興味がなかつたのは、また一つの皮肉である。



* 前シリーズ第196話參照。

** 當該シリーズ第28話參照。

*** 當該シリーズ第44話參照。



【ⅱ】


彼女は以前の生でさうしてゐたやうに、西船橋の裏街で、身を鬻いで露命を繋いでゐた。皮肉、と云へば彼女の、抱いた男逹は総魔界墜ち、と云ふ特性に變はりがなかつたのは、【魔】逹には好都合だつた事も挙げられた。で、こゝに、* 故買屋Xと云ふ男がゐる。彼は妻を持たず、惡党らしくその場劃りの契りで自分の慾望を叶へてゐた。** 仕事上の相棒、怪盗もぐら國王に於ける朱那のやうに、愛する人を持つてゐなかつた事が、今回の事件を引き起こす。



* 前シリーズ第2話參照。

** 當該シリーズ第41話參照。



【ⅲ】


故買屋Xは偶然にも果野の身を買つた。勿論、一夜劃りの仲であつた彼らは、次の朝儚い愛情を棄て去つた。だが、故買屋、彼は運命の定めるところに依り、自分の業を引き被らなければならなかつた。云ふ迄もなく、彼は魔界墜ちしたのである。これは果野の狙つた事ではないのだが、彼女の「身を鬻ぐ」行爲を止める者、即ち眞實の愛を以て彼女を包む者の不在に依る處業である。故買屋、刹那の愛のせゐで、一生を棒に振るところだつたのだが-



【ⅳ】


何が倖ひするかは分からない。故買屋、カンテラの「定期検診」で、その身に溜まつた【魔】の埃を拂つてゐたのだ。まづは番犬タロウの洗禮を受けたが、タロウは敏感に果野の影を察知して、盛大に吠え立てた。カンテラ、「またぞろ【魔】の塵拂ひをするのか...」と浮かぬ顔。いゝ加減故買屋の尻拭ひ役はご免蒙りたいカンテラではあつたが、決まつた料金を貰つてゐる身である、仕方なしにその【魔】は一體何者なのか、「診断」した。



【ⅴ】


カンテラには果野の面影が、うつすらとではあるが、見えた。「またしても『蘇生』か。一體いつになつたら、この鼬ごつこを已められるんだ-」。然し愚痴つてばかりではゐられない。果野に會ひ、彼女を三度斬らねばならない。じろさん「取り敢へずまた西船橋まで行つてみやう」-カンテラ「あのコ、まだ西船にゐるかね」-「第六感つて奴さ。下手な鉄砲でも、まづ撃つてみないとね」。其処で二人は、じろさんの愛車トヨタ・コロナ2000GTに同乘し、西船橋まで行つてみたのである。



※※※※


〈些末事をそ知らぬ顔で振り切つて今日も行くのさ漆黑の夜を 平手みき〉



【ⅵ】


果野は果たして、其処にゐた。裏通りに寄る邊なく佇む、賣笑婦の生命を手に掛けるのは、カンテラ、正直氣が進まなかつた。カンテラとて、仕事をイチ拔けしてしまひたい氣分は何処かに持つてゐる。それで、じろさん「仕方ないな。カンさんあんまり無理するな」と、果野をこの世から消し去る役を買つて出たのである。



【ⅶ】


だが、「オールド・ウェイヴ【魔】」逹の怨念にも似た「思ひ」が、じろさんの「古式拳法」の邪魔をした。じろさん、彼もまたカンテラのやうに、仕事が莫迦らしくなつてしまつたのである。これこそ斬魔屋に纏はり付く業、と云へばそれ迄なのであるが- さて、さうすると、誰が決着を付けるのかは迷宮入り。厭世観に捉はれたカンテラとじろさん。事態はまさしく「分からなくなつて來た」。



【ⅷ】


この當坐の「イチ拔け病」、罹患するとなかなか治らない。だが、君繪がそんな二人を千里眼で観察してゐた。(パパ、おぢいちやん、騙されちや駄目よ。その女を斃さなければ、故買屋さんみたいな男逹が、世に溢れ返つてしまふわ。さうなれば後は増殖一方よ!!)。君繪はテレパシーで、まるで催眠狀態にあるかのやうな(或ひは本當に催眠術に掛かつてゐた、のかも知れない)、カンテラ・じろさんコンビに發破を掛けた。



【ⅸ】


やうやくのお目醒め。じろさん果野の周囲に群がり始めた、彼女の熱心な「ファン」逹を掌底で撃退。カンテラ、「再び三度、面倒を掛けるな。しええええええいつ!!」と果野を斬つた。



【ⅹ】


と云ふ譯で、故買屋が人間界に留まる事は、決定したのだつた。カンテラ、「故買屋、今回の仕事料は髙価いぞ。尻の毛まで毟つてやるからな、待つてろ」と、内心思つてゐたとか。



【xi】


もぐら國王、「もしもこんな騒ぎがまた起こるやうだつたら、あんたとは永久に縁を切るぞ」-故買屋、踏んだり蹴つたりである。まあ当面のお灸は据へられたと見て良かつた。故買屋、「俺の品定めが甘かつたんだ。堪忍してくれ...」カンテラとしては、「女を買ふ惡癖」は已めにして貰ひたかつたのだが。「検診」をする方の身にもなつてみろ- 世に、無くて七癖と云ふ。そんな惡癖さへもがその内に入るのかは、誰も知らない。お仕舞ひ。



※※※※


〈LINEやれと云ふ/云はぬ人春の雨 涙次〉



PS: 果野の身の上を哀れに思つたカンテラ、彼女の遺骸を荼毘に附し、「開發センター」庭の墓處に埋葬する事に決めた。彼女、無事冥府に辿り着く事が出來たゞらうか。カンテラ、ぼおつとそれを思ふ日が續いた。


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