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呪われ豹王の専属魔法使い  作者: しゃり猫
二章_首都学園編
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01_懐疑なる洗礼



 一晩を馬車で過ごし、ようやく一行は首都にたどり着いた。


 途中、ほとんど休みなく通しで駆け抜けた馬たちはさぞかし疲れているだろう。そう思ったジルだったが、ふと窓の外を通り過ぎる他の馬車たちが、一頭も馬を引き連れていないことに気づいた。


「……ねえ、どうしてあの馬車には馬がいないの?」

 不思議に思い尋ねると、ノアは窓の外を眺めたまま答えた。


「魔法で動いているんだ。今の時代、馬を使うのは長距離移動や儀礼の時くらいだな。『馬車』という名前は昔の名残だ」

「じゃあ、首都では馬に引かれたこの馬車は目立っちゃうね」

「いや、この馬車にもいないぞ。最初はいたが」

 どうやら途中で魔法に切り替えていたらしい。ジルはちっとも気づいていなかった。


 首都の活気は、ジルの想像を遥かに超えていた。所狭しと建物が立ち並び、多種多様な人々が行き交っている。途中、視界に飛び込んできた広大な公園を見て、ジルはここが首都の名所の一つ「セントラルパーク」であることに気づき、胸が高鳴った。


「もうすぐ着くぞ」

 ノアの言葉に、一気に緊張が走る。ついに、王宮にたどり着くのだ。


 眼前に現れたのは、壮大で荘厳な白亜の城だった。ジルは言葉を失い、ただ口をぽかんと開けるしかなかった。門番が動くよりも早く、正門が魔法で自動的に開かれ、馬車を招き入れる。


 整備された前庭を走る間、ジルの顔色からみるみる赤みが引いていくのをノアは気づいていたが、彼は何も言わずに前を見据えていた。


 城の大玄関の前で馬車が止まる。ノアが先に降り、ヘルナの館が入っているカバンを慣れた手つきで受け取った。彼は車内に残るジルに手を差し出し、低く、重みのある声で告げた。


「ジル。覚悟を持てよ」

 ジルは喉を鳴らして頷いた。気後れしていたら何も始まらない。ここは気概を見せねばならないのだ。ジルは震える足を叱りつけ、白亜の城へと足を踏み出した。




     ※




「彼女――ジリアン・ノウルズを、大魔女ヘルナの代行として王宮に迎え入れる」


 王宮の大広間にノアの声が響き渡った瞬間、凍り付いたような静寂の後、爆発的なざわざわとした驚きの声が上がった。広間に集められた貴族たちの視線が、一斉にジルに突き刺さる。



「……魔力が微塵も感じられない。泥人形でも連れてきたのか?」

「ただの平民ではないか。陛下は何を考えておいでだ」


 隠そうともしない蔑みの声が聞こえてくる。当然だ。ここにいるのは高い魔法力を持つ貴族ばかり。ジルに魔法力がさっぱり無いことは、彼らには一目瞭然だった。


(……負けない。ここで目を伏せたら終わりだもの)


 ジルは内心の震えを隠し、あえて余裕を演じるように口元に微かな笑みを浮かべた。何も喋らず、ただ凛として立つ。それが今彼女にできる最大の「ハッタリ」だった。


「恐れながら、豹王陛下」

 孔雀のように派手な、赤と緑の服を着た巨漢が前に進み出た。ノアの視線が鋭く険しくなる。彼がこの男をひどく嫌っているのは明らかだった。


「代行と言われますが、当の大魔女本人はいかようにされたのでしょうか」

「ヘルナとは連絡を取り合える状況にあるが、姿を見せることはないだろう」

 ノアの冷淡な回答に、男は納得いかないように頬を揺らした。


「しかし、それでは筋が……!」

「元より隠居に近い身だ。詳細は私が知っていればいい。……貴公が口を出すことではない」


 有無を言わせぬ拒絶。ノアは決して、誰の意見も平等に聞く聖人君子ではないのだ。彼は明らかに、目の前の貴族たちを敵として警戒していた。


 その時、一人の男が静かに前へ出た。銀髪の壮年の男性。厳しい表情に宿る圧倒的な知性と威厳。先ほどの男とは比較にならないほどの重圧に、広間の空気が変わる。


「豹王陛下」

「ロズリー」


(じゃあ、この人が……バーノット・ロズリー公爵……)


 王族に匹敵する影響力を持つ、セラフィス国公爵家の一角。ロズリー卿は、ジルの魂の奥底まで覗き込もうとするような、静かな圧を伴う視線で彼女をじっと見つめてきた。ジルは逃げずに見返した。不思議と恐れはなかった。


「大魔女が姿を見せぬ理由は良いでしょう。しかし、この『魔力なき少女』が代行である理由は納得しがたい」

「彼女に魔力が『ほぼ』ないのは事実だ。だがヘルナは、彼女の中には王家の人間に匹敵する膨大な魔力が封じられていると言っている」


 広間が再び沸騰した。「王家に匹敵?」「封印だと?」と疑念が飛び交う。


「そんな状態で、いかにして代行を務めると?」

「彼女はヘルナが認めた唯一の弟子だ。代行指名もヘルナ自身の申し出である。まだ日が浅く、今すぐ大魔女として振る舞うことはできんが、前途有望なのは間違いない」


 ロズリー卿は納得した様子はなかったが、それ以上は追及せず、最後にもう一度だけジルの顔をじっと見つめてから引き下がった。ジルは最後まで笑みを絶やさなかった。何か口にすれば、この「大魔女の弟子」という化けの皮が剥がれてしまう気がしたからだ。




     ※





「姉に紹介する」

 ノアの後に続き、長い回廊を歩く。すれ違う召使たちが深々と頭を下げる。


「……広すぎるわね、このお城」

 ジルは少しうんざりしながら、小声でノアに話しかけた。


「とりあえず、お披露目は終わったな。……合格だ、ジル。よくあの視線に耐えた」

「心臓が止まるかと思った。……ねえ、本当にあの『封印された魔力』っていうハッタリ、突き通せるの?」


 歩きながらの問いに、ノアは周囲を警戒しながら声を潜めた。


「お前の『浄化』の力は、それだけの価値がある。だが、今それをバラせば、あいつらに利用されるだけだ。今は『無魔力の弟子』という謎を盾にするしかない」

「ヘルナ様も、随分と思い切った提案をしてくれたものね……」


 馬車の中で話し合った計画を思い出す。危険を避けるための「弟子」という立場。ノアはジルの浄化の力が必要で、ジルには圧倒的に魔法の知識が足りない。


「真実を語る必要はないと言っただろう。あいつらの中には、先代を唆して私腹を肥やしていた連中も多い。誰が敵か味方か、見極めるまではその『笑み』を忘れるな」


 ノアの嫌悪感に満ちた言葉に、ジルは改めて自分が戦場にいることを悟った。

 ふと窓の外を見ると、遠くに温室が見えた。




(……落ち着いたら、あそこに行ってみたい。少しでも自然に触れないと、息が詰まりそうだわ)




 ジルは自然豊かな学び舎を思い出しながら、少しだけ歩調を速めた。




更新情報はXにて(@sharineko01)

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