傲慢のクソ貴族VSオレたちの【師匠】
♢オーストリア王国 王都♢
「申し訳ありません、ヴァルハイト様。入学の許可はできません」
「は?」
騎士学校の受付にて、オレは門前払いされた。
推薦状も、入学願いも、貴族の証も、入学金も、必要なものは全て揃えたのに、なぜ……?
「おい、彼は必要なものを全て揃えているはずだぞ。なぜろくに書類に目も通さないで拒むんだ?」
オレの隣にいるライラが受付係に尋ねる。
彼女は、既に手続きを済ませて入学許可を受け取った。さすが【勇者】だ、信頼されている。
「ええと、ですね……」
受付係が言い淀んでいると、高貴な貴族がこちらに歩み寄ってきた。
「どうしたのだね?我が聞いてやろうではないか」
白いカツラをかぶった小太りの中年貴族だ。
「あなたは……?」
「ヌフフ……我の名を知らぬとは、騎士の卵として失格ではないか」
オレとライラを見下した貴族は、胸元に手を添えて名乗りをあげた。
「我は、ザクセン地方を治める大貴族にして、王国軍を率いる司令官【ベネジット13世】である!ひれ伏せい!」
「「は……はっ!ベネジット様!」」
オレとライラは困惑しながらも声を揃え、敬意を表してひざまずいた。
「ベネジット様、初めてお目にかかります。オレは、ヴァルハイト・フォン・ノヴァシュタインと申します。入学届けを提出させていただいたのですが……」
「おお、なんと!貴君は、勇者ではないか!」
ベネジット13世の興味は、オレではなく、【勇者】ライラに向けられた。
「初めまして、ベネジット様。第18代勇者のライラ・フォン・イスカリオーテと申します」
「勇者の家系は美人揃いだな!羨ましい限りだ」
「あなた様のような方からお褒めの言葉をいただけるとは……喜びの極みであります」
ベネジット13世は、その丸っこい鼻を指で擦りながら、オレのほうを向いた。
彼の笑みは、一気に険しい表情へと変貌した。
「……で、君はヴァルハイトと言ったか?どれ、その書類を見せなさい」
言われるがまま、オレはベネジット13世に書類を手渡した。
片眼鏡を左目にかけたベネジット13世は、書類を見た瞬間、その太い眉をひそめた。
「……ムムム、貴様は貴族だが、没落した家の生まれではないか!」
強く握られ、くしゃくしゃになった書類が、オレの胸に押し付けられて返却された。
「お前さんのような品位のない貴族はお呼びではないぞ。去れ、去れ」
「し、しかし!オレは、入学の条件を満たしているはずです!必要なものは全てそろえており――」
「我がダメだと言ったらダメなのだ!分かったら、さっさと去りなさい!」
まるで【ハエ】を払うかのようにオレを遠ざけようとするベネジット13世。
彼は勇者ライラの腰に手を回し「今後、我の部隊に入る気はないか?」と、出世話を持ち掛けていた。
……完全に【勇者ひいき】である。
(はぁ……オレは没落貴族の身。騎士には相応しくないということか)
かつては広大な領地を持っていたが、現在は屋敷の修繕もまともにできないほどに没落したのが、オレの家系【ノヴァシュタイン家】だった。
長旅用の馬車も確保できなかったから、商人の馬車に相乗りさせてもらっていた。剣も安物だから、先の魔物との戦いで刃こぼれしている。
オレは壁に寄りかかり、絶望した。騎士になるという夢は目の前なのに……
そんなオレの肩に、血管が浮き出た手が添えられた。
「どうしたのかね、青年よ?そんな大きなため息をついて」
オレの肩に手を添えたのは、腰の曲がった老人だった。目尻が垂れていて、物腰も語り口も穏やかだった。
「ワシは、この騎士学校の学長【ハンニバル】じゃよ」
「あ、あの……学長、その、騎士学校に入学するための手続きに参りました。しかし……」
説明するオレの声を遮るように、ベネジット13世が声を大にした。
「学長、この青年は没落貴族なのです。誉れ高き騎士学校には、没落の貴族など入学させるべきではありません!」
没落の貴族は入学するべきでないと主張するベネジット13世。
しかし、騎士学校を管理・運営する立場にある学長は、その主張に疑問を呈した。
「ふむ、学則によれば、貴族の身であれば入学の許可が下りるはずなんじゃが……」
没落の身であろうと、高貴であろうと、【貴族】であれば騎士になれる。学長の主張は、オレの主張と同じだった。
書類はしっかり読み込むタイプのオレが、その事実を見逃すはずがない。
「ワシの騎士学校では、国家と国王陛下に忠義を尽くす【優秀な生徒】を受け入れております、ベネジット大公」
「は……はぁ」
「これ以上、ワシの学校運営方針に口を出さないでいただきたいのですが」
学長は、言葉を詰まらせるベネジット13世にハッキリと言った。
二人は、同じ軍の関係者でありながら、対立関係にありそうな感じがする。
「ムムム……貴様、口を慎みたまえ。我は、軍全体を取り仕切っているのだぞ。どちらが立場が上か、火を見るよりも明らかだろう?」
「さあ、ヴァルハイトくん。さっそく入学の手続きを済ませるのじゃ。ワシに付いて来なさい」
学長ハンニバルは、ベネジット13世の抗議に耳を貸さず、オレの背中を押して事務室へ。
勇者ライラも「よかったな、ヴァルハイト」と言って、オレに味方してくれた。
「ベネジット13世……あの男は傲慢が過ぎる。まともに取り合っていたら、ワシなんかあっという間に【墓場行き】じゃよ。フォッフォフォ」
学長ハンニバルは冗談を言って、白い口髭を撫でて笑った。
「ありがとうございました、ハンニバル学長!」
オレは改めて、入学許可を出して下さった学長ハンニバルに深い感謝を示した。
「学長……あなたを師匠と呼ばせてください!!!」
「お、落ち着きなさい、ヴァルハイトくん……」
歓喜のあまり、オレは声を大にして、学長ハンニバルに詰め寄っていた。
「……ワシは、師匠と呼ばれるほどの人間ではないが、まあよい。好きに呼ぶがよい」
「では、ワタシにも【師匠】と呼ばせてください!」
勇者ライラも、ハンニバル学長を「師匠」と呼んだ。
「まさか、勇者様から師匠と呼ばれる日がくるとは思わなかったのう……フォッフォフォ」
学長改め、【ハンニバル師匠】は、顔のシワを寄せて朗らかな笑みを浮かべた。
「君たちがここに向かう途中、魔獣リヴァイアサンと戦い、街を守ったことを知っておるぞ」
「ご存知だったのですか?」
「うむ。そんな優秀な君たちに、ぜひとも騎士を目指してもらいたいと思ったのじゃよ」
すべて、ハンニバル師匠にはお見通しらしい。
本当に、師匠には感謝してもしきれない。
「ヴァルハイトくん、ライラくん。立派な騎士になることを期待しておるぞ。日々、剣の技を高め、騎士道精神を磨くことに邁進したまえ」
「はっ、よろしくお願いいたします!」
「よろしくお願いいたします、師匠!」
こうして、オレとライラは騎士学校への入学を果たし、騎士への道を歩み始めた。




