神隠しの村ロレーヌ
ハノーファー市からはるか400km。僕たちは【ロレーヌ村】に到着した。
馬車の長旅でお尻と腰が痛い……
僕たちノア・ナイトメアは、この村の調査と、一か月間の防衛を村長から依頼されている。
どうやらこの村では近年、母子の連れ去り事件が起こっているらしい……
(この村、僕の故郷に似てる……)
森の中にポツンとあって、木組みの家屋が立ち並び、切り開かれた土地には畑や鶏の飼育場が広がっている。
牧歌的で田舎らしいその景色は、僕の故郷の村とよく似ていた。
(姉さん……会いたいな)
故郷と姉さんのことを思い出した。涙は、ぐっとこらえる。
僕たちが乗る馬車が村の中に進んだ。
相変わらずの愛妻家で、目立って、外見が恐ろしい悪魔ヴァルハイトは、村の外で待機だ。
「皆様、よくいらしてくださいました。ワシはこの村の村長【アドラー】であります」
村長が僕たちを出迎えた。
陽気なマーレは「ちわーっす、村長さん」と、声高に挨拶した。
「村長直々にお出迎えしてくださったこと、感謝申し上げます。私どもは、村で起こっている【母子の連れ去り事件】の調査、および村の防衛に参りました、悪魔狩りのノア・ナイトメアです」
エーリカは丁寧に挨拶して、依頼書を村長に手渡した。
「村の者たちには、すでに説明済みです。一か月間、よろしくお願いいたします、ノア・ナイトメアの皆様方」
「一つお聞きしたいのですが、なぜ、私どもに依頼を?」
エーリカが尋ねる。
村長は、長く白い顎ひげを撫でながら答えた。
「最近頻発している母子の誘拐事件が、悪魔によるものである可能性が高いと考えたためです。悪魔狩りを専門とするノア・ナイトメアのみなさんが適任でしょう」
「なるほど。承知いたしました」
エーリカと村長さんのやり取りがスムーズに行われた。
僕たちは1ヶ月間、この村護り、母子連れ去り事件の調査を行う。
続いて僕たちは、村長さんの案内で、村の中にある空き小屋へ。
「皆さまの仮のご住まいはこちらです」
「恐れ入ります」
村長に小屋を貸してもらった。
二組のベッドが整えられていて、窓からは畑と森の木々、それから村の家々を臨む、景色も清潔感も整った家だ。簡素だが、机や木製のクローゼットもある。
「アタシとアレスが同じベッドを使えば、みんなベッドで寝られるわね」
マーレは、僕と添い寝したがっている。
「二人で寝るには狭くない?」
「大丈夫、大丈夫。アレスは小柄だし、二人でぴったりくっ付いて寝れば問題ナッシング♪」
マーレはさっそく、ベッドにダイブした。
エーリカから「ベッドが壊れるからやめなさい」と、静かに叱責された。
「私が床で寝る。それですべて解決でしょう」
「エーリカちゃん、それじゃ心だけじゃなくて、体まで冷たくなっちゃうわよ」
マーレは暗に、エーリカの心が冷たいと言っている。
まあ、エーリカの心が冷めているのは周知の事実だが、マーレが陽気すぎる感も否めない。
エーリカはいつもの無表情で「余計なお世話よ」と言って、部屋を出る。
「ああ、それから……皆さま、ここから北に位置する森に入る際は、十分に注意してください」
村長が、調査を始めようとした僕たちを呼び止めた。
エーリカは「なぜでしょうか?」と疑問を投げかけた。
「ここから北に広がるのはアルデンヌという森であり、通称【迷いの森】です。オオカミや魔獣が住まい、立ち入った人が行方不明となることがある危険な森であります」
「なるほど。留意いたします」
エーリカは再び、丁寧に礼をした。
迷いの森……母子の連れ去り事件と何か関連はあるのだろうか?




