33 ホセ…⑥
ホセが前のめりに…ミカドはそれとなく耳を…そしてエニアはザハグランロッテに絡む。
「いいかお前ら。子供の居場所が分からないなら、奴らに案内させればいいんだよ、奴等は知ってるんだから」
ロスはザハグランロッテにお茶を淹れながら、当然の事を教えてやった。
そんなに難しくない話だし、落ち着いて冷静に考えればミカドなら気づきそうなものだと思いながら。
…まぁ、それだけ切羽詰まってたんだろうな。
「いや…いやいやいやいや!!ロス兄!流石に俺達だってひっ捕まえて聞き出そうって案は考えたよ!?」
…ふぅん。…考えたのに工夫はしなかったのか
「でも、ミカドが騒ぎが大きくなって子供に危害がっ…て……!」
ホセは少し憤慨気味にやらなかった理由をロスに説明し、ロスは全く興味なさそうに先を促した。
「なるほど……それで?」
ホセの理由は全て、ミカドが考えてみんなに行動してもらった結果だ。
それに対してあまりにも軽く、そして否定的なロスの態度はミカドの神経を逆撫でた。
「聞いたって素直に答えるはず無い…!ロスさんは何でこんな……!?」
「まさか…!? 向こうの奴を拉致…!?」
「馬鹿ッ!ミカドの馬鹿ッ!!お前は俺を何だと思ってるんだ!? ち、違うからねザハグランロッテちゃん!」
「なんだ…違うんだ…?」
ロスの余裕だった顔に焦りが浮かび、ミカドは苛立った気持ちが少しだけ晴れた。
「うん…?でも…違うんなら案内なんて…どうやって??」
「そりゃお前簡単だよ。正面からカチコミすればいい」
「え…? カチコミ…??」
ロスの言う『簡単』と『カチコミ』という言葉が、ミカドの中で上手く結び付かない。
何だかミカドは頭が混乱してきた。
「なぁミカド、カチコミって何だ?」
「え? ああ…カチコミは敵に、この場合、地のマフィアかギルドになるのかな…? まぁ、殴り込みに行くってことで…」
一般的に、人に説明すると自分の考えも整理されて理解が深まる場合が多い。
なのに、ホセに説明していてミカドの理解は深まるどころかどんどん混乱していく。
それに合わせてミカドの自信もどんどん無くなっていく。
…これ…合ってるのか?
「なんだよ!殴り込みか!!そいつは単純で簡単でいいな!流石はロス兄だぜ!!じゃあ早速行こうぜ!」
ホセは当然のようにミカドの不安を読み取れない。
直ぐにでも駆け出しそうな雰囲気だった。
ミカドはホセの袖を掴んで止め、解けない疑問をロスに向けた。
「待ってホセ。 えっと…それで?ロスさん…カチコミと案内に関係あるの? 逆に隠そうとしたり…難しくない?」
…表立って対立なんてしたら、案内なんてしてくれないだろうし、そもそも絶対教えてくれないだろ?…協力してくれる可能性のある奴まで敵になるんじゃ……。
悪い影響しか無さそうなカチコミに、ミカドは疑念が強くなる。
「だから良いんだよ」
確信を持った目、それに自信の有る声だった。
ゴクリと喉を鳴らし、ミカドはロスの言葉を待つ。
もう小さな反抗心で粗を探す気持ちは綺麗に消え去っていた。
「カチコミの目的が分かれば、奴らはその情報を当事者に伝えに行くだろ? 子供を匿ってる奴とか、場所とかさ…」
「……あ、あぁそうか…そうだよな」
言われてみれば簡単な事だった。
小難しい事なんて何一つ無かった。
とてもシンプルで、それでいて恐らくそうなるイメージが見えた。
…俺はどうしてこんな簡単な作戦を思いつかなかったんだろう。
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「うん…ここで間違いなさそうだ」
地のギルドから出た人物を追ってきたミカドは、少し大きめの屋敷に辿り着いた。
着くなりドアをガンガン叩き、焦っているのが遠目のミカドにも丸わかりだった。
出入り口のドアが開き、男が慌てた様子で話をしながら中に入って行った。
誰も居なくなり、ミカドは辺りが急に静かになったように感じた。
…もう少し様子を見た方がいいのかな?
物陰に身を潜め、ミカドはどうするべきか悩んだ。
すると建物の中から3人の男が出てきた。
…あいつら武装してる。…そうか、入り口を守るのか。…これはもう…当たりだろう。
「子供はあそこに違いない……行こうナナ。皆に早く知らせないと」
…作戦は上手く行くと思ってたけど…こんなにロスさんの言う通りに進むなんて……。
「この簡単さまで予想してたのかな…」
そうなりそうな気はしていた。
けれど、こうもあっさりロスの思惑通り物事が進むのが、ミカドは少し面白くなかった。
「いや、面白くないだけで、子供が見つけられそうなのは喜んでるよ。ごめんよナナ、これはちょっと嫉妬してるだけだからさ…」
ミカドの頭にヘクターの爺さんが思い浮かぶ。
心配し過ぎて弱って…更に倒れてしまった。
「俺は小さな嫉妬なんかで間違えたりしないよ。……うん、ありがとうナナ」
「早く戻って伝えないと…ホセもだけど、エニアが暴走するかもしれない」
…俺とナナと違って、みんな地のマフィアと、いつまでやり合えば良いのか分からない……。
…そうだよねナナ。うん、先が見えないと疲れも倍増するよね……。
「だから早く戻ってやらないとな…」
ようやく手に入れた成果を胸に、ミカドは来た道を急いで戻って行った。
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地のギルドに近付くと、喧騒が大きくなっていく。
怒号も鳴り響き、これは誰が聞いても喧嘩…いや抗争だと分かるだろう。
「こんだけ五月蝿いって事は、みんなまだ大丈夫そうだな」
ナナを撫でながら、ミカドは先を急ぐ。
……くそ…それにしても人が多いな!
騒ぎを聞きつけた住民たちが野次馬しに来たのだろう。
人垣が出来上がっていた。
「おら!やれっ!水の野郎共に負けんなぁ!!恥だぞっ!恥っ!」
…そうか…この人達、全員地の縄張りの人だから…。
住民まで含めて、周りの全てが敵なのだと、ミカドはこの時初めて気が付いた。
…どうりで!!…ロスさんがここに来たがらなかった理由がこれかよ……!
のらりくらりと言い訳をしながら、別の事をしようとするロスの姿が思い出され、ミカドは思わず歯噛みした。
…やっぱり俺は、あの人の全部は信用できない!
「す、すいません!ちょっと、と…通して…!」
人の壁を掻き分けて、内側に入って見るとホセたちと地のマフィアが殴り合いの喧嘩をしていた。
両方とも、頭に血が登って目がやばい事になっている。
「タイマンだオラァ!!俺に掛かってくる奴は出て来いやッ!!」
「おおっ!!いいぞ、やっちまえ!」
野次馬が野次だけで楽しそうにしているのは、双方が武器を使用していないからだろう。
この辺りも、ロスから口を酸っぱくして忠告されていたことだった。
『いいか、武器を使って相手に血が流れたら向こうも引けなくなる。拳なら悔しがる程度で済む』
『それに、何だかんだでみんな怖いと思ってるからな。武器無しの提案があれば喜んで乗ってくるさ』
『野次馬を巻き込んで喧嘩をエンタメにするんだ。地と水の力比べにすれば事後処理だって説教くらいで済むだろ』
「ホセッ!」
ミカドの呼び掛けに、ホセがピクリと反応を見せた。
特に合図もなく、段々と…自然にホセ達は追い詰められて行く。
「くそ!覚えてろよ!!俺達は絶対に諦めねぇからなぁッ!!」
「負け犬がほざっ………ぼふぉ…ッ!??!」
ホセの捨て台詞を合図にユーゴ達は逃げ始めた。
それを見た地のマフィアが、ドヤ顔で勝ち誇った態度を見せようとした瞬間。
エニアが思い切り男の一人を蹴り飛ばしたのだった。
予定外の出来事にミカドは唖然としたが、ホセの動きは早かった。
「おっお、お、お…ひ、引け!お、お前ら引け…! ほら!?エニアも!早く!!」
逃げ始めたホセ達を、地のマフィアは追い打ち出来ないでいた。
なぜならエニアが今も戦闘態勢のまま嗤っていたからだ。
野次馬の壁も、引き始めたホセ達を避けるように広がっていった。
所詮は野次馬で、自分たちに被害が及ぶのは嫌なのだろう。
ミカドは、エニアの最後の一発が強すぎたと思い、懐からポーションを取り出すと地のマフィアに向かって転がるように投げ渡した。
「ポーションだ。さっき飛んだ奴に飲ましてやって、悪かったね」
…これで少しでも悪感情が無くなればいいけど。…これで良いんだよな?
ここに居ないロスに確認し、ミカドは今後の事を考えた。
…まだ子供を助けていないし、助けた後に粘着されても困る。…ロスさんの言う通りに動くけど……。
…違う結果になったら怒ってやる。
こういう時、ロスを信用しきっていない弊害がミカドの負担を大きくする。
ホセならロスを信じてストレスゼロで済んだだろう。
心労の溜まる役割は必然的にミカドの役割になっている。
ロスもミカドにしか頼まない。
…損な役回りだよな。
逃げながら、背後では勝鬨が聞こえてくる。
近くにはエニアの不満そうな顔があり、ホセは悔しそうな顔をしている。
「なぁ、目的は地の奴等を叩きのめして勝つ事じゃないだろ…?」
そう言ってはみたものの、納得した反応は得られなかった。
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地の縄張りから引き上げてミカド達は水の縄張りまで戻ってきた。
引き上げ始めた直後は悔しい顔をしていた奴等も、時間が経つにつれて本来の目的を思い出し、表情が明るくなっていた。
ひと目を避け、水の縄張りの外れでミカドから結果の報告を聞くことにした。
そわそわしたホセが、もう我慢できないといった感じでミカドに詰め寄った。
「それで? 場所は分かったのか!?」
演技の負けとはいえ、悔しい思いをしたのだ。
『それに見合う結果』を欲しがっている…それをミカドは全員の視線から、ひしひしと感じた。
「奴らが…向かったのは…、一か所だけだった。たぶんそこに居るんだと思う…警備が厚くなったから、子供は生きてると考えて大丈夫だと思う」
ミカドの言葉にどよめきが起こった。
移動で上がっていた息が落ち着き、周囲を見る余裕ができると、ミカドは誰も彼もが泥まみれで汚れている事に気が付いた。
汗で髪の毛は顔に引っ付き、土もあちこちに付着している。
全員、なかなか激しく戦ったようだ。
「さすがロス兄だ!」
ホセがここに居ないロスを褒め称え、エニアが何故かドヤ顔を見せている。
自分くらいはみんなの頑張りを労うべきだと、ミカドは口を開いた。
「いや…俺はみんなが頑張ってくれたおかげだと思ってるよ」
「それで?俺達はこれからどうする?」
ミカドの労いはあっさり流され、半グレのまとめ役になったユーゴが代表して問い掛けてきた。
「この先の作戦も聞いてある。…5時間後だ…きっちり5時間後に、俺達全員で特攻する」
「5時間後か…それって何か意味はあるのか?」
「ロス兄が言うには、どうせ勝ったと思って宴会でも始めるから、酔い潰れる頃に行けば簡単に勝てるってさ!ロス兄が言うんだから間違いねぇよ!」
「…間違いない」
ホセとエニアの2人が、作戦を盲信している様で、ミカドは逆に不安になった。
もちろん口には出せないので、その分の不安まで更に大きくなっていく。
「ユーゴの気持ちは分かるけどさ…他に案は無いんだ。やるしかない…」
ユーゴの心情を読み取ったミカドが慰めの言葉をユーゴに寄越す。
そして、続くミカドの言葉で…ユーゴの覚悟が決まった。
「今だから言うけど、ユーゴがボコボコにされたのって、ロスさんの作戦だからね。最終的な結果はユーゴも知ってるだろ? 」
「あれを…!?」
何でも無いことのように出してきたロスの姿を思い出し、ユーゴは自分の時と重ねていた。
「あの男が?…あんな軽い感じで作戦を立てて、俺は死ぬかと思う目にあったのか……」
「 あの人は…何ていうか、そういうのに長けてるんだよ…」
「マジかよ…」
カルルを騙そうとした時の事を思い出し、腹立たしさと底知れなさがユーゴに甦っていた。
自分が悪い側だが、それでもやはり腹が立った。
「まあでも…それなら。俺は異論ねぇよ…従わなかった方がやべぇ事になりそうだしな」
「時間もあるし、一度戻ろう。ユーゴ、場所を教えるから何人か残して交代で見張りをさせておいてくれ」
「分かった。…でも、俺も残るわ」
「そう?別に構わないけど」
ミカドの指示を了承したユーゴは少し考えてから自分も見張りをすると申し出た。
結局、半グレ達はその場に全員残る事になったらしい。
「俺たちはロス兄に報告しねぇとな!」
ホセの見立てでは今の所、順調だと思っている。
…このまま一気に解決だろ!!
そう思ったホセだが、自分の感じ方に自信がないのでミカドの様子を窺った…しかし、何も読み取れなかった。
…うーん。…違うのか…??
もやもやしながら、ホセが宿屋に着いたのは20時頃だった。




