33 ホセ…⑤
「あん…?…ん…?これ…知り合い??」
…こいつ!?
…ロス兄に向かって生意気な!!
声を掛けてきたのがロス兄だと分かった瞬間、ホセはユーゴの言動に苛ついた。
…その人はあれだぞ…あれ…!
…その…そ…凄いんだぞ…!!
行き詰まった状況のせいかロスの姿がいつもより輝いて見える。
…あぁ!これで爺さんにも良い報告ができるかもしれない!
そう思いながらホセがロスに話し掛けようとしたら、同じ視界に入っていたユーゴの顔面がエニアによって握られた。
「あ…いや待っ…!待っ…!!あた、痛い!いた、いたい!!」
…よ、よし…見なかったことにしよう!
「ロス兄ー!もう俺!!いくら考えても分かんなくってよぉ…!」
エニアに頭を掴まれて藻掻いているユーゴを尻目に、ホセは良い顔をされないかもしれないと思いながら窮状を訴えた。
「うん?考えて…ホセが…?えぇ!?」
「ふふっ…」
「え?ロス兄は何でそんな不思議そうな顔して驚いてんの?え?え??」
「そうか…ホセがなぁ。ミカド、ホセの知恵が要るほど状況が悪いのか?」
いつも物事を先回りして考えているようなロスが、キョトンとしているのが腑に落ちなかった。
…ていうか、ミカドは何で笑ってんだ?
…笑うような余裕は無いはずだろ!?
「おいミカド!お前なんで笑ってんだ!心配じゃねえのか!?」
…なんだミカドの奴!
…余裕かましやがって!!
「はぁ…その感じだとまだ子供の件で手こずってんのか?」
「まぁ、そうだね。こっちの縄張りにはたぶん居ないから、地の縄張りだと思うんだけど…場所が…」
…俺の話は!?
スルッと流され、話はミカドによって先に進められていく。
まるで雑に扱われているみたいだ。
「あの…ロスさん、何か案だけでも…」
ミカドも言いづらいのだろう、口が物凄く重たそうだった。
…ミカドが助けを求めた?
…でも、ロス兄は嫌がるんじゃ。
頭の中で嫌な顔をするロスが浮かんでホセの顔は強張った。
顔の筋肉が緊張し、頬がピクッピクッと勝手に動いてしまう。
「あー案か…案ねぇ…。んー、まあ無いこともない」
期待はしていた。
けれど、同じくらい期待していなかったホセは、ロスがこの短時間で案を思いついている事にかなり驚いた。
……!?…マジかよ…!?
…流石ロス兄!…けど…本当に…?
色々と浮かんでくる疑問、信じられないといった驚きの気持ちは、ホセの鼓動が速くなるという形で表れる。
「こいつ…なんだか生意気ね。お前のペットかしら?」
「…ふふっ。ザハさんは冗談が上手。私はペットなんか要らない。私がロスさんに可愛がってもらうんだから」
…な、なんかあっちはあっちで盛り上がってんな……。
…ザハ姉の嫌味に正面から受けて立つエニア…どっちも怖い……。
声が出せないように、エニアがしれっとユーゴの首を絞めているのが更に怖い。
…あっ…こいつ目を。
ミカドがユーゴをチラリと見て直ぐに視線をそらしていた。
「それでロスさんの案って…?」
…あ、ミカドがユーゴを見捨てた。
…ほら、あのユーゴの絶望した顔見ろよ…俺は見てらんねぇぞ……。
「その前にさ、こっちもちょっと状況が変わっちゃってさ、その…トラブルっていうか…。そっちのトラブルが終わったら、お前ら直ぐに街を出られる?」
…??
「トラブル?トラブルって?ロス兄が?」
「んーあぁ…まぁ、話すと長くなるから、それはまた今度でいいだろ?」
…また今度?
…今度か…別にいいよな?
「直ぐに街を出られないなら?」
…直ぐに街を出られない?
…何で??
ミカドとロス兄の話について行けないホセは、忙しなく二人の顔をキョロキョロと見るしかできない。
「直ぐに出られないなら、今考えてる策は使えない。…別の案は無いし…お手上げかな?」
…?…ミカドは何でこっち見てんの?
ロスの言葉を聞いたミカドは、ホセをジッと見て動かない。
…何かリアクションすれば良いのか?
…何かミカドが真面目だし…こういう時は雰囲気が大事なんだよな。
…なら俺も真剣に!
ホセは真剣な顔を作ってコクリと頷いた。
「俺はいいぜ!」
…とは言ったけど…何が良いんだ…?
…まぁ、分かったふりで良いか…。
答えを聞いたミカドは満足そうに頷いた。
どうやら合っていたらしい…正解っぽくてホセはホッとした。
ミカドが今度はエニアの方をじっと見て固まった。
…あぁ…分かる…。
…声掛けづらいよな……。
ミカドの緊張を感じながら、自分に火の粉が掛からないようにホセは息を殺して少し下がった。
「はぁ…お前らの仲間だろ…」
「…………」
「いや…だってよぉ…」
ロスのツッコミに、ミカドが無言なので仕方なくホセは口を開いたが、ロスから残念そうな目を向けられた。
…いい訳したいけどさ!
…エニアには無理だって!!
「おーいエニアちゃん?ちょっといいかな?」
「…ん、どうしたの?」
ロスに呼ばれ、エニアはユーゴからパッと手を離した。
ユーゴは掴まれていた顔を覆いながら、痛みでそのまま地面に蹲った。
「ふん、無様ね」
ホセは、見下ろしながらユーゴをこき下ろすザハグランロッテを見て思った。
「まるでザハ姉がやったみたいだな…」
「なに…?」
ザハグランロッテから不意に咎められ、体がビクッと反応した。
…怖っ !?…めっちゃ睨まれた…!
本能的に目を背けたホセの目に、今度はエニアとロスのやり取りが目に入る。
「…ロスさん、私に何か用??」
…嬉しそうな顔してんなぁ。
…あれほどじゃ無かったけど、一時期は俺に少し気を許していたんだよな…怖っ!
過去を思い出し、興味がロスに移って本当に良かったとホセは思った。
…あれ…本当に見た目ほど良い物じゃないからなぁ…。
過去を少し思い出すと、恐怖で心に怖気が蘇ってくる。
…やめだ止めっ…!!
…トラウマを思い出しても意味がない!
ホセが無意味な事を考えている間にも、話の展開は止まらずに進んで行く。
「エニアにも聞いておきたいんだけど、 この問題が終わったら…直ぐに街を出ようと思うんだ。 それは平気?」
「…私は別にいいよ」
「そっか、有難う。 なら…」
ロス兄がミカドを見た。
「うん。 分かった、俺達も出よう」
こうして街を出る事がバタバタと決まった。
そんな中、ザハ姉が気に食わない表情をしている事に俺は密かに気が付いていた。




