33 ホセ…④
あれから明け方まで見張り続けたホセたちは疲労困憊でヘトヘトになっていた。
疲れと眠気でふらふらになり、文字通り足元も覚束ない感じで歩いていた。
「結局…何にも分かんなかったな…」
そんな状態で、意味の無いこの呟きだ。
ミカドもエニアも、ホセの呟きに何も反応を返さない。
…何だよ、何か反応してくれても良いだろ…つっても、そりゃ疲れるよなぁ。
…俺だって疲れたし。
…一晩中見張っても、な〜んも地のギルドに怪しい動きが無いんだもんなぁ。
…成果ゼロかよ。
…はぁ…これ、ヘクターの爺さんになんて言えばいいんだ…?
…爺さん奴らのギルドは怪しくなかったぜ!?…とか?
「ダメだな…絶対言えねぇ…」
「………何が?」
…やべ。
ホセが無意識に出した声にミカドが反応した。
「い、いや!………いや…はぁ…爺さんに何て言えばいいかなって思ったら…さ…」
…あークソ!
…いや、マジで何て言えばいいんだよ!
…絶対に期待してるだろ…!
爺さんの気持ちを考えれば考えるほど足が重くなる気がした。
「正直に言うしか無いだろうな」
…そりゃそうだけど!
「でもよぉ…」
どうしても気が重いのだ。
言い訳したい気持ちばかりが溢れてくる。
「諦めるのか?」
「そんなわけねぇだろが!?」
…ミカドのやつ!
…何言ってやがる!
…諦めるだあ?…ふざけんな!!
怒りが込み上げて顔が熱くなってきた。
「それを爺さんに言えば大丈夫だろ…」
ミカドに言われてハッとした。
さっきまでの落ち込み、逃げ腰だった気持ちは完全に消えていた。
そして、また新しく小さな逃げ腰も生まれていた。
「…私は眠たい。お風呂に入りたい。ロスさんに癒やされたい」
「なんだよ…そりゃ。こっちは真剣に悩んで頭抱えてるってのに!」
ミカドの言葉に感心し、エニアの言葉に脱力した。
…でも確かに疲れたし、俺も…ふわぁあぁあ……少しゆっくりしたいなぁ。
「じゃあ、風呂入ってから帰るか。爺さんには……昼から話すとしよう」
疲れはピークを迎えていて、怒りで元気になった気力も一瞬でしぼんでいた。
ミカドもエニアも言葉少なく…ホセ達は軽く風呂を済ませて宿屋に戻った。
「ん…?あれ、ユーゴか…?」
少し遠目に見える素行の悪そうな男が、ここから見ても落ち着かない様子でウロウロしている。
…あーユーゴにも話さなきゃな。
…でも今はちょっと……。
俺達が近付くと、ユーゴも気が付いてこちらに寄ってきた。
「あ、どう…」
「悪いユーゴ。ちょっと疲れたから先に寝かせてくれ。昼には起きるから」
「え…?でも…、あ、あぁ…分かった……」
喋らせると休めなくなるかもしれないと思ったホセは、ユーゴの言葉を遮って、自分の要求を先に通した。
…子供が見つかってたら良し。
…見つかってなくても状況は変わらないし。
…ユーゴの話は後で聞いても悪くなってないらろ。
どっちにしても今は動けないと思った。
眠気はピークに差し掛かっていた。
…あ〜アクビ止まんねぇ。
戸惑うユーゴの横を通り過ぎてホセ達は各自の部屋に別れた。
…それにしても眠ぃ。
…こんなに眠いと何もかもがどうでもよくなるな。
…だめだ…それは良くないぞ……!
ホセは全て投げ出したい気持ちを堪えながら、代わりに部屋のベッドに体を投げ出した。
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「はぁ…!?爺さんが倒れた!?」
目覚めたホセたちは、ユーゴから耳を疑いたくなる事実を聞かされた。
あまりにも予想外の事に、ホセは聞き間違いを願ったり、自分の耳を疑いたくなった。
ホセの脳裏に嫌な映像が浮かび上がる。
…なんで!?…どうしてだよ!?
「そ、それで!?どうなんだ!?無事なのか!?」
…いや、倒れてんのに大丈夫もクソもないだろ俺!…落ち着け…俺!
「分かんねぇよ…熱があって、元気が無いんだ。ただの風邪かもしれねぇけど…爺さん結構歳だし…」
…くそ!…どうする!?
…爺さんに説明するのか!?…でも弱ってんだよな…!?
…何て説明すりゃ良いんだ…!?
「くそ…せめて進展でもあれば…」
「ホセ!とりあえず爺さんの顔…様子を見に行こう!!」
「そそ、そうだよな!?爺さん…!」
ミカドに促され、ホセ達はヘクターの爺さんに会いに向かった。
…くそ!…俺のせいだ!…俺が悠長にしてたから!!
…どうする、どうする、どうするよ!!
…何も良い報告が出来ねぇまま?
…や、止めろ馬鹿!…変なこと考えるな!!…絶対に大丈夫だ……!!!
…俺…まだ何も!…なんて言えば…。
何も進展が無いという事は、伝える事も何も無いということだ。
全く頭が働かない。
ふとエニアの様子が気になった。
いつもなら何か、からかいの言葉でも投げつけてくるのに何も無い。
「…………」
神妙な表情をしたエニアに、ホセは事態の深刻さを感じた。
エニアでさえ、からかう状況じゃないと思っているのだ。
…くそ…どうするも何も……正直に言うしかない…ちくしょう、気が…重いなぁ……。
まるで底なし沼に気分がハマって沈み込んでいくようだった。
このまま爺さんの所に辿り着かなければ良いのに…そんな願望さえ頭を支配し始めている。
「あ、ウィッス!ん〜??お前ら…何
やってんの…?」
「なんだテメーはッ!」
「はぁ?なな…何だ…?て、てめぇこそ誰…だ?」
場の空気にそぐわない軽薄な感じの声が聞こえ、ホセはピクリと反応して顔を上げた。
目の前でユーゴが声を怒らせ、軽薄な声の主に突っ掛かって行く。
「何気安く声かけてんだ!!」
…気安くか、気安くって何だろう?
…今はユーゴも余裕ないんだな。
…気が立ってんだろ…相手も気の毒に…でも…誰だろ?
…声を掛けてくるんだから顔くらい知ってる奴か…??
時間が無いと思っているにも関わらず、ホセは足を止めていた。
無意識にヘクターの爺さんに会う事から気持ちが逃げているのだ。
…こんなに気安い?んだから知ってる奴じゃないとおかしいよな?
…何度か顔を会わせたり、話したりしたりとか?
どんな相手なのか確認だけしておこうと、ホセは声の主を見た。
…あ!!
「ロス兄!ロス兄じゃんか!?どこ行ってたんだよ!!」
声の主は、ホセたちが今一番会いたかった人物だった。




