33 ホセ…③
夜になり、ホセたちは宿屋を出て地の縄張りを目指して出発した。
…宿屋で、ロス兄と話せないかと思ったのに全然帰ってこなかったな。
…やっぱり不安だし、相談したかったなぁ…。
「…ロスさん」
…うわ…エニアの奴、機嫌悪いなぁ。
…ザハ姉と二人でいるだろうから、たぶんそれが気に入らないんだろうな。
…嫌だ嫌だ、こういう時は関わらないのが一番だよな。
ホセはエニアから視線をそらしてミカドに話しかけた。
「ミカド、道は任せても大丈夫か?」
「あぁ、問題無い」
…夜は暗くて良く見えないけど、ミカドと仲良しのナナ蛇には関係無いからな。
…ミカドが言うには色が見えるとか言ってたっけ?
…ナナ蛇の実力は俺もずっと目にしてきたからな…。
…うん…間違いない。
…今回も頼りになるに違いない!
「よろしくな!」
…ナナ蛇にお願いすると、ミカドの顔が微妙に嫌そうな顔に変化した。
…ロス兄もそうだけど、ミカドの奴…独占欲が強過ぎねぇか?
ホセは何だか微妙に引いた気持ちになりながら、ユーゴに教わったギルドの場所に向かって歩き続けた。
…まだ酒場も開いてるし、外も結構人がいるな。
ホセたちは、目立たない様に暗がりを選びながら歩いている。
通行人が見れば少し違和感を感じるだろうが印象には残りにくいだろう。
「…あれ?」
…うん?
声に釣られて顔を向けると、正面に薄っすら見える灯りを指差しながらエニアが目を細めていた。
…エニアって目、悪かったっけ?
…あ…あの建物が目的地か?
「着いたのかな?」
「たぶん…」
ミカドに問いかけたが、ミカドの返事も鈍い。
…そりゃそうか。
…俺もミカドもエニアも、地のギルドに来たこと無いし、見たことも無いもんな。
「うーん。こっからじゃ看板の字が読めねぇなぁ」
ホセは見えにくい看板の文字をなんとか読もうと試みる。
…あーなるほど、これは。
気が付けばホセも目を細めていた。
エニアが目を細めた理由が分かり、なんだかホセはスッキリした。
「…ちょっと見てくる」
…うん…え…?いや…え、???
「!?ちょ!っ待って待って!?お、お、俺が行くからエニアはここに居て!?」
ミカドが焦っている。
ホセはエニアから飛び出した言葉が頭に馴染まず呆けていた…。
…どういう事だ?
ホセの頭の中を大きなクエスチョンマークがゆっくりと動いていた。
その疑問は何も解決する気配がない。
考えが追いつかないまま、ホセは頭にクエスチョンを浮かべて焦るミカドをボーッと見ることになった。
「…いや、大丈夫。任せて」
「い、いやいやいやいやいや!お、女の子が一人で歩いてるとか危ないから!」
…何やってんだこいつ等?
なおも自分が行こうとするエニアをミカドは必死の形相で抑えようとしている。
やり取りを眺めるだけだったホセも、ようやく理解が追い付いてきた。
…いやいや!エニアが行ったらトラブル起こすだろ!!
…無い無い、エニアはダメだろ!
こちらをチラリと見たミカドと目が合った。
…うん…?…加勢しろってことか?
…そうだな、よし、任せろ!!
ホセはコクンと頷いてミカドの気持ちを汲み取った。
「え、エニア?ミカドの言うとおりだぜ!なんつーの?その、可愛い女の子に危険な事させるなんて男の恥っつーかなんつーか…」
止められて不満気だったエニアだが『可愛い』という言葉が効いたのだろうか、少し機嫌が良くなった…気がした。
…このまま押し切れる…か?
ホセは不安を隠し、自信満々にエニアに畳み掛ける。
「そう!だからここは俺に任せろ!俺が上手くやってやる!エニアだとトラブル起こすからな!」
…よし、言ってやったぜミカド!
…これでエニアは勝手に動いて迷惑を掛けたりしないだろ!
…いい仕事しただろ?
満足したホセはドヤ顔をミカドに向けた。
…あれ?…なんかミカド…プルプル震えてる?……もしかして、敵か!?
ホセは即座に周囲に視線を走らせ、警戒し、ミカドが何に警戒しているのか読み取ろうと再度顔を見た。
……あれ…?
…ミカド…なんかこっち見てる?
ただこちらを見ているのではない。
怒りの形相でホセを見据えていた。
「お前もトラブル起こすだろうがッ!どっちも黙ってここで待ってろッ!」
…え、えぇ…?…お、怒られた……?
…何で…?…俺がトラブルを??
「…ふふ。怒られてやんの」
「いや!え、えぇ…?」
…おかしい。
…エニアも怒られたよな…?
ドヤ顔のエニアには納得できなかったが、それよりもミカドの顔が怖い。
…ま、まあいい、今は…大人しくしていよっと。
「おい、エニアのせいで怒られたじゃねぇか…!」
小さな声で文句を言ったら、またミカドに睨まれた。
…なんだよ聞こえてんのかよ。
エニアの方は澄ました顔をしながら我関せずという態度を見せつけてくる。
「ちょっと行ってくる。………いいか、動かずにジッとしてろよ!」
「お、おう?わ、分かってるよ!」
普段より強い口調のミカドにたじろいでしまう。
…そんなにダメか?
…俺…ミカドに信用されていないのか?
それが思ったよりもショックで、ホセは偵察に向かうミカドの背中を呆然と見送った。
建物の陰に身を潜め、ミカドの戻りを警戒しながら待つ。
「なんだか嫌な予感がするぜ…」
「…そうね」
トラブルが起こる。
何か確信めいたものを感じ、呟いた言葉にエニアも同調した。
外は着いてから更に暗くなっていて、完全に夜…と言ってもおかしくない時間になっていた。
緊張感が高まり、ホセの頬を汗が伝う。
時間が経つのが遅く感じ、ミカドが無事なのか不安がどんどん大きくなった。
二人のトラブルメイカーとしての第六感がビンビン反応していたのだ。
「何か起きる気がする」
「…警戒しよう」
…やっぱり俺も見に行った方がいいんじゃないか?
小さかった心配が膨れ上がり、体が自然に動き始めたとき、戻って来るミカドの姿が見えた。
「お待たせ、やっぱりあれが地のギルドだったよ」
ごくごく普通な感じのミカドに、ついさっき口走った言葉が恥ずかしさを帯びる。
「…なんだよ」
物言いたげなエニアの顔が妙にイラッとする。
「…ふっ…なんだか嫌な予感がするぜ……ブフッ!」
…こいつ!
…自分だって『…そうね』とか言ってたじゃねぇか!
ケタケタと笑い転げるエニアに腹が立つが、言い返しても睨み付けられるのがオチなので我慢した。
「それで?子供はいそうだった?」
「いや、それは全然分からなかった…外から見ても普通だったし」
…そうか……ならどうする?
…中を調べる…?…でも、危ないよな…。
…俺じゃ良い考えは浮かばないのか?
…ミカドは?
…ミカドもダメそうだな。
自分に良い考えが浮かばなくてもミカドならと期待したが顔を見た瞬間ダメそうなのが分かった。
「…どうするの?」
「うん…どうしようか」
「「「…………」」」
誰も答えられなかった。
「もうちょい様子見てみようぜ!あいつら何かボロ出すかもしんないし!」
「………まぁ、他に案も無いし」
…よっしゃ…!
ミカドの賛同を得て、ホセは俄然元気になった。
…絶対に子供…マルスだっけ?…を、見付けてやる…!!
…爺さん、絶対に連れて帰るからな!
…待っててくれよ!!
ホセは意気込んでギルドの入り口を睨みつけた。




