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31 ゼルバとフライト…②


激しい風と共に飛ばされてくる握り拳ほどの大きさの建材。

それは先の尖った木材だったり砕けたレンガだ。


それが物凄いスピードでぶつかれば、物だろうが人だろうが当たればただでは済まない。



「ガンガンッ!ゴウッガキュキシャアアンッ!ガンガンガンガガンガンンッ!!」


そんな即死級の凶器が無数に風に飛ばされてカフェ『木かげ』に向かって放たれている。

それも…途切れることなくずっとだ。


普通に考えれば全滅の条件しか無いにも関わらず、店の中の誰も傷ついていなかった。

それは通常ではあり得ない…明らかに異常な事だった。


誰も傷つかない理由…凶器の建材が目の前で半透明の何かにぶつかり、防がれる。

その光景を、ロスはただ呆然と眺めていた。



本物だ…本物の…こいつは強者だ…。


「はははっ!なあ、あんた!こいつ、直ぐに始末するから、そしたら仲良くしてくれるか!?」


ロスにとっては絶望的な状況で、ゼルバは何でも無いかのような態度でザハグランロッテへの軽いアプローチを続けていた。



「だ、黙りなさい!お前みたいな奴に興味はないのよ!失せなさい!」


多少の動揺は見られるが、この状況でもキリッとした態度を崩さないザハグランロッテにロスの胸は熱くなった。


そしてロスはゼルバの力に嫉妬した。

自分には無い力だ。

この男がいなければ彼女はどうなっていたか分からない。


自分の無力を呪いながら、飛来物でぐちゃぐちゃになる彼女が脳裏に浮かび上がる。

ロスは不甲斐なさで打ちのめされそうだった。


店の客はあまりの衝撃で、悲鳴どころか声も出せなくなっている。



凶器と化した建材は、ゼルバが両手を広げて何かで防いでいるようだ。

広げられた手から、薄く透過された膜が張られ、信じられない事に、その膜が飛んでくる建材を全て防いでいる。


余裕な態度から推測するなら、強度に不備は無いのだろう。



これで破られるなら死ぬほど馬鹿にしてやる……!!


表通りの向こう側では、大きな黒い魔物が翼を広げ、咆哮しながら周囲の健物…だけでなく、人も巻き上げ、断続的にこちらへ吹き飛ばしている。


潰れる人の血や内臓は、非現実的な光景として只々恐怖を増幅させた。

このゼルバという男は、その最中にザハグランロッテを口説いているのだ。



魔獣はゼルバの防壁を破ろうと試みているのだろう。

周囲の風も、恐らく魔獣による魔法のようなものと思われた。



「グルルルルッ!!グアッ!」


魔獣が起こしたであろう風が止み、暴れまわっていた建材が勢いを失い地面に落ちていく。

黒い魔獣は、真っ赤に裂けた口から尚も怖気を誘う音を鳴らし、周囲をぐるりと見回した。


そして不意に視線を下に向け、口を開く。

魔物の先に、ガタガタと震えながら後ずさろうともがいている男がいた。


足から血を流し、思うように動けないのが分かる。

魔物の口が男に近づき、これから起こる事を誰もが想像した。



マズい……!


「ザハグランロッテちゃん!!」


ロスは名前を叫ばずにはいられなかった。

特に考えも無く叫んだロスの声は、彼女を魔獣の捕食映像から逸らすことに成功した。



「グルァッ…!」


ロスの視線は啄まれる瞬間の男を捉えて離せなくなった。

それはあまりにも無慈悲で残酷な光景だが、自然の中では当たり前の摂理だ。



「お、おま…どこ、どこに居たのよッ!!」


呆然としながら捕食に目が釘付けにされていたロスを、ザハグランロッテの声が引き戻した。


「え!?あ、え、?こ、こっち!こっちに、!?」


ゼルバに対して先程まで凛としていた態度が嘘のように動揺したザハグランロッテが目の前にいた。


彼女の動揺した声が、仕草が、ロスの庇護欲を猛烈に刺激する。

しかし、ロスも普段の落ち着きはとてもじゃないが保てていない。


次の行動に対する正解がまったく分からないのだ。

あるのは彼女を不安から守りたいという非力な思いだけだ。



「お、あお落ち着いて!落ち着いたら大丈夫だから!冷静に…!そう!冷静に!!」


くそ…!

ダメだ…俺が全然冷静じゃねぇ…!



「こ、こっち!」


何も思い浮かばないまま、ロスは震える手を彼女に伸ばし、有無を言わさず彼女を引き寄せた。


絶対に見せられない…!!


そう思った。

完全にスプラッターな映像が目の前で繰り広げられている。



「ヒッ!た…助け、ホゴッ!ハッ…は…ぁ……」


「ゴリュッ!プシッ…ゴ、ゴリュ」


不穏すぎる音が響きそこかしこで「ひっ…!」「ふぁ…っ!」等と声にならない悲鳴が聞こえ、何人も「オエッ…」と吐き気を催していた。



「ど、ど、ど、ど、どうなってるのよ!!」


「だだ、大丈夫だよ!大丈夫!!」


もうとにかく音が酷い。

聞いているだけで肺の中を直接撫でくりまわされているかの様にゾクゾクしっぱなしである。


あまりの怖さに声も普通に出せないのだ。



「ロ、ロロロ、ロスさーん!!」

「ロ、ロス!!どうなってる!?」

店の奥からカルルとマスターまで出てきてパニックに拍車を掛けてくる。


「いや!俺に聞かれても!!ていうかこっち来ちゃ駄目だ!」


…状況なんか分かりっこない状況なんだよ!!

表は危ない!店の中でパニックが起きればここもどうなるか分からないぞ!?


くそ…!

どうすりゃいいんだよ…!?



ロスの力量でどうにかできる範囲など大きく超える状況で、ゼルバとフライトの2人だけは動揺が見られなかった。



「おーし!そろそろやるか!フライト、こっちは任せたぞ!」


ロスの葛藤は蚊帳の外に置かれ、ゼルバとフライトの2人は、状況を完璧にコントロールしながら前に進めていく。


気安い様子で防御膜を解いたゼルバが、カフェ『木かげ』を後にして、ヒョイヒョイと瓦礫を避けながら表通りに向かって行った。



「「お、、おい、どこ行くんだよ!」」


守られていた客の誰かがゼルバに悲痛な文句を言った。

当然、ゼルバはそんな声に反応しない。



な、何なんだよ…あいつ…!


強者の余裕な態度を続けるゼルバに、ロスは嫉妬し、益々気に食わなくなっていた。



「み、みなさん!大丈夫ですから!あの男に任せておけば大丈夫ですからね!」


この場を急に任されたフライトと呼ばれたゼルバの仲間らしき男は、カフェの客を安心させようと声を上げた。


この男も強そうなのだが、先程のゼルバよりは弱いと誰もが思った。


それは先程の2人のやり取りから…そして一度完璧に守りきったゼルバの実績で評価された第三者の勝手な順位付けだ。



今は稼ぎ時でカフェの客は数が多い。

客は敵とは違う。


しかし、順位付けを済ませた客はフライトと呼ばれた男よりゼルバに守らせようと身勝手な事を言い始めた。


客をはっ倒すわけにはいかないので、フライトも言う事を聞かせるしかない。


この男の言葉でみんなが落ち着くだろうか……と、ロスが考えていると、案の定、客の一人が一歩前に出て抗議を始めた。



「だ、大丈夫って!?い、いいいま、ひ、ひひ人が、た、食べられたじゃない!?」


確かに……。


ロスは先程の光景…ゼルバが足を引きずる男を見捨て魔物に食わせる場面を思い出していた。


見捨てた理由については検討がつくけど…これはまずいだろ……。


ロスはパニックが起きる気配を察してマスターへと近寄った。

客に聞こえないように声を落として自分の考えを提案する。



「マスター!客を裏口から外に出そう!店の中で客がパニックになったら手に負えないぞ!」


問題を解決する力がロスには無い。

歯がゆい気持ちに蓋をして、ロスは自分にできて自分にメリットのある行動を起こそうと考えていた。


パニックが起きた場面、ザハグランロッテが巻き込まれる場面がロスの脳裏に浮かんでいた。



…ザハグランロッテちゃんと、カルルと、マスター、それだけ助けられれば良い。

それ以外は全部切り捨てる。

客を追い出せば動きやすい……!


客の事などどうでもいい。

外に出してしまえばその後どうなろうと知った事ではないと思った。


本音を隠し、ロスは自分に都合の良い状況を作ろうと試みる。


……動け動け!

ビビってる暇があったら状況を把握して少しでも優位に持っていけ!

関係無い奴に気を取られるな、切り捨てろ!

強い奴なら利用しろ……!



「わ、分かった!でもどうやって!?」


「大丈夫!ま、任せろ!」


自分に都合しか考えてない事など説明できないし説明する時間も惜しい。

ロスはとにかく行動する事を優先した。


数秒先に何が起きるか分からない…!

動くならとにかく早く……!



安全を確保しろ…!


ロスはザハグランロッテとカルルを店の壁側に移動させ、追い出す客とぶつからない様にしてから客に近づいた。



裏口近くの客の袖を引っ張りながら人差し指を口に当て、ジェスチャーで『静かに』という意図を伝える。


「あっち…裏から外に出て」


ロスは客に裏口のある方を指差した。

するとその先で、マスターが手招きして誘導をサポートしてくれた。


礼を言うでもなく静かに、急いで裏口に客を向わせるが、客はやはりパニック状態なのだろう、足がもつれそうになっている。



…こうやって1人、2人と裏口から出していれば、表の魔獣に気を取られている客も、そのうち気づいて勝手に動くはずだ……。


そう思っていたが、誰も彼も外の濃い非日常に視線を奪われていた。


『早く店から出ていけよ』

というロスの心の声は届かない。

今もまだ、無駄にキャンキャン吠える客に、ロスはうんざりする。



「ちょっと!あの怪物は何なのよ!?どうして!?あんた達が呼んだんでしょ!!」


客がフライトに向かって大声で絡んでいる。

言い掛かりと思ったが、気になる単語が頭の中で疑問となった。


あんた達が呼んだ………?


絡んでいる女性客の一言がロスの耳に引っ掛かる。


確かに…あいつ…イビル種が飛んで来るって、分かってたような感じだった…。



「何してるのよ」


「あ、ごめんごめん」


ぼーっと考えていたらザハグランロッテに咎められた。

ロスは気を取り直して誘導を再開する。


客を半分ほど外に出しても、まだ誰もロスの動きには気が付いていない。

次々と袖を引いては客を裏口に誘導しているが、面倒でイライラする作業だった。


誘導中、何度かフライトと目が合った。

フライトは、恐らくロスの動きに気が付いている。


何となくフライトとアイコンタクトをしながら避難誘導を進め、残りは絡んでいる客とフライト、それからロスたちカフェの関係者だけになった。



「さあ、貴女も裏口から!」


様子を見ていたフライトは、詰め寄る女性客に突然避難を呼びかけた。

本当はだいぶ苛ついていたのだろう。


フライトは慇懃に振る舞いながら背後の裏口に向かうよう促した。



「えっ!?あ!そ、そうね!?早く言いなさいよ!!」


頭に血が昇っていた客は、外に出られると知って感謝では無く文句を言い残した。

ドタドタとその場から立ち去って行く最後の女性客を見ながら、ロスはようやく小さな一息をついた。



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■内容はほぼ同じですが、性的描写を省いていないバージョンです


【R18】因果の否定、混沌の世界でハッピーエンドを渇望する物語



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