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30 すれ違う想い…③


『バチッ』とロスの目が覚めた。


イテテ…体が…そうか、床…。

起き抜けの一瞬。

ロスは自分の状況を把握しようと頭をフル回転させる。


…俺、ザハグランロッテちゃんにあれだけの粗相をしたのに…寝たの?

信じられん…そんなに酔ってたのか……?


辺りを見れば、まだ夜の帳は下りたままだった。


まだ暗い…夜中だよな……?




「コツ…コツ…コツ…コツ」


こんな時間に足音……?


廊下を歩く音が聞こえる。

恐らく夜中と思われる時間の足音を、ロスは脳天気に問題無いとは思えない。


ベッドにはザハグランロッテが寝ていて、襲われれば万全でない彼女が危険に晒される。


駄目だ、そんな事は許さない……。


そうはいっても、今から彼女を起こして逃げるのは時間的に不可能だ。


ロスは腰を低くし、ザハグランロッテが寝るベッドを背にして身構えた。

隠していたナイフを握りこみ、襲撃に備える。



入ってきたら躊躇なく殺る…。


足音がどんどん近付き…それに従いロスの緊張もどんどん大きくなっている。


地の奴らか…?


狙われていると知っている今。

ロスの警戒心は酔っていても高い。

何があっても直ぐに対処できるように覚悟も決めていた。


後ろで聞こえるザハグランロッテの寝息を、ロスは尊く感じた。


寝息も可愛いなぁ…。


いざとなれば可愛い寝息を立てている彼女を叩き起して逃げなければならないだろう。

足音を注意深く聞き、限られた状況から少しでも何か情報を得ようとロスは耳を澄ませた。



「コツ…コツ…コツ…コツ」


音が軽い?割と小柄なのか……?


足音はザハグランロッテの部屋を通り過ぎ、隣の部屋…つまりロスの部屋の前で止まった。


俺の部屋かよ……!



「ガチャガチャ…」


ノックの音はしなかった。

ただドアノブを回す音だけが聞こえた。


部屋の鍵は当然掛けてある。

だから入るには壊すかピッキングで鍵を開けるしかない。


部屋には何も無いけど……。


「コツ…コツ…」


諦めたのかまた足音が聞こえ始めた。


…襲撃にしては音を立て過ぎじゃ?

いや、仕事が雑な奴ってだけの可能性もある…。


このまま去りそうだけど…と、思いながら、警戒を解かず、ロスは足音の主に細心の注意を払い続ける。


すると今度はザハグランロッテの部屋の前で足音がピタリと止まった。

ロスは緊張が高まり、心臓の鼓動が早くなる。



…くるか…?

入って来たら先制攻撃するぞ……!!


覚悟を決めて相手の出方を待つ。


「……………………」


しかし、今度はドアノブが回される事はなかった。

しばらくドアの前で止まっていた足音の主は、ドアを離れ一階に降りて行った。


…ふ…うぅ……。

これは心臓に悪いな…襲撃者だったのか?このまま外に出るのか…?

窓から顔が見えるかな……。



ノックも無しにドアノブを捻る輩だ。

襲撃者だった可能性は高い。

今後のために、できるなら顔を確認しておきたかった。


ロスはカーテンに手を添えて小さな隙間を作り出した。

カーテンが揺れないように気を付けながらこっそり外を覗き込む。


『ビクッ!!!!』


外を覗き込んだ瞬間、ロスは襲撃者と目があった気がした。


…あ、あれ、エニアじゃねぇか!?

な、なになに…!?何しに来たの!?

怖いんだけど…!え!?いま何時だっけ…!?


予想外の襲撃者にロスは冷や汗が噴き出した。



…エニアの夜這い?

いやいや、まさか…エニアの好意はただのお遊び…ままごとだぞ……。

本気にするようなものじゃないだろ…。



人が持ってるおもちゃが欲しい。

エニアの好意は、その類だとロスは考えている。


だから、自分が勘違いして本気で相手にしたり、エニアが本気だと勘違いしないようにロスは注意しているのだ。



も、もういないよな……?


ロスはカーテンの隙間から外を覗き込み、誰もいないのを見てホッとした。

ホッとしたが、まだ落ち着いているとは言えなかった。



…ちょっと整理すれば落ち着くか……?

え…と…時間は…たぶん夜中だよな…。

2回目の確認だけど…こういうのが大事なんだよな……。


今はとにかく落ち着きたい。

ロスは壁を背にして座り込んだ。


…時間は真夜中。

ここはザハグランロッテちゃんの部屋。

俺はザハグランロッテちゃんに激怒されてる最中で……。


考えていたら凹んできた…。

エニアはいったい何しに来たんだ……??


ロスはエニアの訪問理由を考えてみるが、これだという理由が思い当たらない。



…ミカド達と何か揉めたとか?

可能性としてはあり得るな…。

ただ、こんな夜中に突撃してくるかな?

腹が立ってたらあり得なくも無い…か……?


……理由が分からない。

いや…元々分からない子だったな。

そうか!考えても無駄なんだから考えたら駄目じゃん……!!


でも…もしかしたら……。


ミカドの軽蔑した目を思い出して、ロスはエニアが怒っている可能性もあるなと思った。




ロスの中でエニア、ミカド、ホセ、この3人とホセの引き入れた半グレ共との間には、明確に重要度や優先度に差がある。


というか、比較にもならない。



今回の引き入れは、ホセがきっかけを作り、ミカドは問題を知りつつ黙認、エニアは我関せずといったところだろう。


つまり、エニアには責める部分があまり見当たらない。


正直言えば暴走した仲間がいるなら止めてほしかったけれど、これはエニアの性格なので責められない。


固有の性格は根深い癖の様なものなので、変えようとすると本人に大きなストレスになる。



ストレスを強要しても良い事にならないからな……。


だからロスは、ホセが空気を読まずに起こした問題だろうと、空気が読めない性格を責めたりしない。



いや、そんな事…今はどうでも良い!

エニアが何か困ってる…とか?

もしそうなら…。


…もっと関与した方がいいかもしれない。

原因の分からない事が重なるほど、いきなり手に負えなくなったりして怖いからな……。


ロスは寝息を立てて寝ているザハグランロッテをジッと見ながらそう考えた。




ザハグランロッテちゃんは…俺が首を突っ込むのを嫌がるよな…でも…。


少し前に、ロスはミカドたち3人を自分の仲間として認めた。

仲間だから、可能な限り見捨てず、手を貸したり助けたりしようとは思っている。


これ迄の反応を見る限り、彼女はそれを嫌がるだろう。

だが、ミカドたち抜きで他の街に行き、ザハグランロッテの魔物化を止めるのは無理だろう。



ザハグランロッテちゃん…可愛く寝てるな…。


この時期は夜中でも寝苦しいくらいに暑い。

にも関わらず額に汗を浮かばせながら熟睡できているのは体力が回復し、元気を取り戻そうとする力が働いているのだろう。


今もロスは、ザハグランロッテの事が心配で堪らない。

が、今後を考えるとミカド達が抱える問題も放置はできなかった。



…エニアに直接聞いてみないとダメか。


距離感の近いエニアにタジタジのロスは、意識して距離を取るようにしているのだが…。


勘違いしなくても、あれだけ好意を寄せられれば、欲に体が動きそうになる。

今ほど知らない間柄なら一夜の遊び相手として手を出したかもしれない。


しかし、情が湧けば話は変わる。

情が深くなればなるほど適当な対応はできなくなる。


もちろんロスが一番深く情を寄せるのはザハグランロッテだ。

次いでエニア、ホセ、ミカドの順だろう。


ミカドよりホセの方が上なのはあれだ…『ダメな子ほど可愛い』……というやつだ。



「はぁ…」


自分さえ良ければ済んだあの頃とは違うんだよな……。


ザハグランロッテを助け、ミカドを助け、ホセとエニアを助けた。


人助けには自己肯定感を高める麻薬のような作用があるようだ。




ミカドの軽蔑した顔が思い浮かんだ。


…分かってる…俺だって分かってるよ。

助けるのが人としての道理って思ってるんだろ?


でもな…俺が助けて来た理由はただの偽善で……俺には大勢に偽善を振りまいて貫く力なんか無いんだよ……。


ここにはいない…軽蔑した顔のミカドにロスは言い訳をする。


ミカド達の問題に介入しようという考えが頭から離れない。

その…傾きつつある考えに不安を覚えながらロスは眠りについた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「い…いて…っ、テテ…」


体に走る痛みでロスは目を覚ました。

一瞬ここがどこか分からなかったが、声をかけられてロスは全て思い出した。



「ふん。いい気味ね」


いつもの澄まし顔が上からロスを見下ろしている。

それとも見下しているのだろうか。



「おはよう。朝からザハグランロッテちゃんの可愛い声と顔が見られるなんて、今日は幸先の良い日だなぁ」


「ふん!…それで?」


主語も何も無いザハグランロッテの問いかけに、ロスは柔らかな表情のまま答える。



「見た感じザハグランロッテちゃんの体調も良さそうで俺は嬉しい。安心した。今日から休んだ分も働かないと…」



「そう。あの小娘に…」


…あの小娘…カルルの事…!?

いやいや、カルルの話題はもう出さないつもりだったのに……。


時間を置いた効果は薄く、彼女はまだ機嫌を損ねたままのようだ。


「ざ、ザハグランロッテちゃん…仕事!仕事に行くだけの話だったよね!ね…?」


またへそを曲げられては適わない。

ロスは焦り気味に弁明する。



「ふん。どうだか」


「まぁまぁ…そうだ!まだ時間も早いし何か美味しい物でも食べに行かない?」


「そうやってお前が誤魔化そうとしても、私は忘れないわよ」



ロスのご機嫌取りに、彼女は乗る気は無い様だ。

しかし、口調が少し柔らかく変化したように感じた。



「たしか…大通りにパン屋があったよね。焼きたてのパンとかどう?コーヒーにも合うし…あぁ、俺…コーヒー飲みたいなぁ」


話題に出したコーヒーという響きを聞いて、ロスはコーヒーを飲みたくて仕方なくなった。


そういえばここ何日か飲めてなかったな……。


ロスは大のコーヒー好きだった。

コーヒーの為だけの魔法の収納袋を持つくらいのコーヒーが好きなのだ。


彼女に提案した大通りのパン屋なら、コーヒーとも確実に合うだろう。

澄ました顔のまま「まあ、いいわ」とロスの提案を受け入れたザハグランロッテにも感謝だ。


コーヒーを飲めるのも嬉しいけど、何より…。

今日はあまり怒ってないみたいだ…。



「よーし!じゃあ行こうか!」


気を良くしたロスは笑顔で元気よく立ち上がると、ベッドに座るザハグランロッテに手を差し出した。


ザハグランロッテは少し勿体ぶったあと、嘆息しながらロスの手を取った。


……仕切り直せたのかな?


少し不安を残したまま、ロスは今日もザハグランロッテと一緒にいられることを喜んだ。




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■内容はほぼ同じですが、性的描写を省いていないバージョンです


【R18】因果の否定、混沌の世界でハッピーエンドを渇望する物語



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