30 すれ違う想い…①
30 すれ違う想い
8月上旬
時刻は午後5時を過ぎてなお、明々と太陽が地上を照らし続けている。
ザハグランロッテから追い出されたロスは、宿屋からは出ていたけれど、彼女のそばから離れる気にはなれなかった。
…もしかしたらザハグランロッテちゃんが出てきたり、呼ばれるかも知れないし……。
都合の良い願望が、ロスをザハグランロッテに縛り付けている。
行く所も無く、ザハグランロッテの役にも立てない。
出来る事といえば見張りくらいしか思い付かなかった。
結局、ロスは所在なさげに宿屋の出入り口前を行ったり来たり、女々しくウロウロするだけになっている。
「あー失敗したなぁ…」
…あの時…ザハグランロッテちゃん、絶対俺が部屋から出るのが気に入らない感じだったよな。
なのに出て行けって…。
今回の対応は流石に難し過ぎやしないか…?
怒ってたから自分の望みと行動が一致してなかったんかな……。
「今頃また怒ってるんだろうなぁ…」
自分で追い出しておいて、ロスが部屋から出ていった事を、恐らく彼女は不満に思っているだろうと思った。
「あーくそっ!」
思い出したロスはあの時の自分に腹が立って頭をグシャグシャとかき乱した。
俺が調子に乗ってたんだ……。
調子に乗って彼女を怒らせた。
そう考えるとロスは後悔しか湧いてこなかった。
…今後はザハグランロッテちゃんの前でカルルの話は無しだな…。
あの時、カルルの名前が出るまでは、結構機嫌も良かったはずだ……。
途中まで良かっただけに、尚更失敗が痛かった。
…もしかしてザハグランロッテちゃんって人嫌いなのかな。
いや、好きには見えないけどさ…。
あーもう…!
何やってんだよ俺は…!
ロスの頭はザハグランロッテとの事が原因で、ぐちゃぐちゃになっている。
「でも…怒れるくらい元気になったのは良かったな…」
失敗に気分が下がるロスだったが、唯一ザハグランロッテの回復がとても喜ばしい事だった。
このまま元気になって欲しいなぁ…。
俺もしっかりしないとな……!
これ以上ああだこうだと一人で考えていても彼女の機嫌は直らないだろう。
だからロスは気持ちを切り替えて別の問題について考える事にした。
「どうせ近くにいると思うんだけど…あ、やっぱりいるな…」
辺りをキョロキョロしていたロスは目的の人物を見つけ、しばらくジッと見つめた。
すると相手もこちらに気が付いたのだろう、目があった。
不機嫌そうにロスを見返しているのはミカドだ。
やはり何か問題が起きているのだろう。
…やれやれ。
今度は何の問題だ?
ホセが見つかってないとか焦ってたから行方不明か……?
解決したり、首を突っ込むつもりは無いが、状況は把握しておきたいとロスは考えていた。
ロスは、ミカドに近付きながら気安く声をかける。
「なぁミカド。何か問題か?」
「いや、大丈夫…自分たちで対処できるし」
『自分たちで対処できる』
…それって問題は発生していて解決していないという事だろ。
俺を頼らないのはこの前の判断が問題に発展したからだろう……?
これはつまり…ムキになってるのか…?
「あのなミカド、失敗はまぁ誰でもするさ。けど、俺だってトラブルがあるなら聞いておかないと火の粉が掛かった時に対応できないだろ?」
想像だが、起こっている問題は恐らくミカドがホセを止めずに地の縄張りから半グレを引き入れたのが原因だ。
責任はミカドにあると言いたいが、ミカド、ホセ、エニアの中に明確な序列は無い。
ミカドがまとめ役に適しているというだけなのだ。
「…子供が攫われた…かもしれないんだ……」
悔しそうなミカドを見ながらロスは声を荒げて驚いた。
「子供…!?そんな奴まで引き入れてんのか!?」
とんでも無い話だと思った。
「いや、引き入れたのはホセで…子供連れだっただけ…。もう結構歳の爺さんをホセが入れてたんだ。でも、俺の知らないうちにだから」
…爺さんに、子供連れか。
ホセの事だ、どうせ情に絆されたんだろう…。
「攫ったのが子供なら、恐らく何か要求してくるんじゃないか?問題はその要求だな…」
「やっぱりそうだよね!」
どうやらミカドも同じ事を考えていたらしい。
ただ、自信がなかったところにロスが同じ考えなのが分かってホッとしたようだ。
「でもなぁ…俺は大した力も無い小悪党のおっさんだし?どうするかなぁ…」
…いい機会だ。
ここでミカド達の勘違いを少し改めておこう。
俺は大して力も無い少し小賢しいだけのオッサンですよ……とな。
ミカドはともかく、ホセとエニアは俺の事を過大評価している節があるからな…。
…それだけなら別にいいが、過大評価のままだと手に余るトラブルを次々と持ち込まれる可能性がある……。
それはヤバイだろ…。
「もしかしたら助けられないかもなぁ…」
どうだ…?
俺の気持ちが少しは伝わったか…?
「もしかして…助ける気が無いの?……がっかりした。もういい…」
『問題起こすなよ』
そう伝えようとしたロスだったが、返ってきた言葉は予想と違い、ナイフの様な切れ味であっさりとロスの心を抉っていった。
いや…いやいやいやいや………。
去っていく後ろ姿にミカドの感情は読み取れない。
無感情に歩いているように見える。
…勝手な事言いやがって。
あいつ…俺、ミカドの不信感に今日は軽蔑を加えたかもしれないな……。
「いや…あれは軽蔑した目だった…ザハグランロッテちゃんに続いてミカドへの対応まで間違えたか…」
ミカドの歩く後ろ姿は、もう自分に期待していない。
そんな雰囲気だとロスは感じた。
…あぁーストレスが溜まるなぁ!!
ザハグランロッテちゃんに構いたい…!
でも、無理だ、ストレスがぁ……。
ミカドに乱された心を落ち着かせ、鎮めたかったロスだが、タイミング悪く、今は彼女の機嫌を損ねている。
「はぁ…踏んだり蹴ったりだな…」
失敗が続いたロスは肩を落として哀愁を漂わせた。




