29 ザハグランロッテの目覚め…➃
無駄に怒らせちゃったなぁ……。
教わった店は、カルルから聞いた通りのお店で、病み上がりのザハグランロッテに最適だとロスは思ったのだ。
カルルの名前を出しただけであんなにも気分を害するのは、ロスの予想とだいぶ違った。
ロスのイメージではせいぜい嫌味を言われて場が和む…その程度だと思っていた。
体調が万全じゃ無かったからか……?
どっちにしても、もう失敗してしまったし…少し時間を置くのが正解かもな…。
相手の機嫌が悪いとき、対応する人や時間、場所を変えるのは定石である。
それより…全然万全じゃ無かったし…外に出るのはまだ早かったかな……。
機嫌の問題とは別の心配…風邪は良くなった様に感じたが、ロスの感じ方と彼女の完治は別問題で、体調の見立ても甘かった。
ダメダメじゃないか……。
失敗をゼロにしたいと願っているが、それが無理なのはロスも理解している。
心配で、様子を見ていたいと思うロスは、部屋に残りたいと思ったが…。
…必要な食事は取ったし。
ここから悪化するのは考えにくいし、治すにはよく寝るのが一番の薬だろうな。
俺がここにいても出来る事は無いのか……。
出来る事が無い。
それはロスの不安と不満を掻き立てた。
…失敗は多い癖に、ザハグランロッテちゃんの役には全然立てないな……くそ…。
彼女が寝てる間、役立たずの自分は離れても大丈夫…離れていた方が良いだろうとロスは判断した。
早く元気になって欲しいと思いながら、ロスが部屋のドアノブに手を伸ばした瞬間……。
「どこに行くのよ!」
今日一番の声量でザハグランロッテに咎められた。
びっくりしたロスは、咄嗟に彼女に言い訳をしようと振り返った。
「いや、コーヒーでも飲も…」
言い訳の途中、ロスは言葉を続けられなくなった。
「えっ…??」
ザハグランロッテの歪んだ顔がロスの動きの全てを止めた。
その表情が何を意味するのかロスは分からない。
…ざ、ザハグランロッテちゃん……?
ロスの心が大きく揺さぶられ、どうすればいいのか分からなくて動けない。
体が強ばり、頭も上手く動かなかった。
そうこうしているうちに、いつの間にかザハグランロッテの顔は見慣れた表情に戻っていた。
勘違い…だった…?
顔を歪ませ、とても辛そうに見えたザハグランロッテが、今はいつもの澄まし顔だ。
いつもの顔…?
この僅かな時間で、ロスは自分の見間違い、勘違いだったような気がしてくる。
「ふん。いつまでそうしてるのよ。さっさと何処にでも好きに行けばいいわ」
さも興味無さそうにそう言った彼女の真意が気になってロスは動けない。
どうでも良いと思っていたらあんな顔をしたりしないだろう。
参ったな……。
ロスはザハグランロッテの本音と建前の板挟みになった気分だった。
ロス的にどちらの意見も無視したくなかった。
「え、あ…いや…でも…」
どうする…?
何が正解なんだ…?
ロスはどうするべきか決められない。
決めあぐねてオロオロしている。
「お前…!何処かに行けって言ってるのよ!!」
「いや…うん、ごめん」
ここで部屋を出るのはダメなのは分かっていた。
分かってはいたが、怒鳴られてどうすればいいか分からない。
答えを出せないまま、仕方なく…ザハグランロッテを置いてすごすごと部屋を出るはめになった。
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…やっぱり部屋から出たのは間違いだよな。
間違いなのは分かってるけど…はぁ…完全に裏目に出たよ……。
ロスはザハグランロッテを怒らせ、そこから更に怒らせた。
怒らせたのは仕方ない、でもその後が更に悪かったと、ロスは反省した。
…見透かされたんだろうな。
無意識だったけど、頭の中で彼女の怒りを手のひらで転がしていさめようとしていた。
ミスった…。
気づかないうちにザハグランロッテちゃんを舐めてたんだ…怒られて当然だ……。
自分の浅はかな言動に、ロスは激しい自己嫌悪に襲われた。
…離れるのは不正解だろうけど、今はこんな屑が近くにいるのも間違ってるよな…。
宿屋に居れば不意に顔を合わせるかもしれないし……。
彼女と顔を会わさずに時間を置くため、ロスは苦渋の決断で宿屋の外に出る事にした。




