27継続する圧力…①
8月上旬
水のギルドから戻りながら、ロスはミカドに小言を繰り返した。
「あのさぁ、頼むからホセとエニアの行動はお前がきちんとコントロールしてくれよ?」
ミカドには新たな問題が起きないように、トラブルメーカーの管理を念押ししておく。
「ごめん、今回は…急ぎすぎた…と、思ってる。焦る必要が無かったのも分かってる」
「本当に頼むぞ……?マジで…」
「……………。」
反省を口にするミカドだが、その反省は結果に対するもので、本心とは違うような気がした。
ギルドを巻き込んで、何も知らない俺とザハグランロッテちゃんにも迷惑をかけた…。
普通は反省するよな……?
相談もなく、巻き添えで周りに被害を撒き散らした事を思えば、自分の判断が間違っていたと、ミカドなら分かってくれるはず…。
だよな…?
ロスはそう思っているが、少し俯いたミカドは無言のままだった。
他人の本心って目に見えないからなぁ…。
分からないから、分からない部分は想像するしかない…厄介だとしても。
想像が間違っていれば不和を生むし、落胆したり喧嘩になる事もある。
勘違いによる争いほど不毛な事はない。
ザハグランロッテの魔物化を防ぐと決めた時、ロスはミカド達を仲間として認識を改めた。
何かあれば即見捨てる対象から、許容出来る限り受け入れて許す相手へと変わった。
だから、間違いや失敗しても許容はする。
だけど次に活かしてほしいと思っている。
自分が仲間を作るなんてな……。
不思議な感覚だった。
店に着くと、ホセとエニアは暇そうにだらけていたが、ロスはそんな事では怒らなかった。
「悪い、待たせたか?」
「んや?さっき着いたとこ」
問題を起こした張本人なのに、能天気過ぎてホセが羨ましくなる。
言っても分からないだろうから、言わないが、本当はちょっと怒鳴りたいくらいなのだ。
「はぁ…とりあえず入ろうか…」
ホセを見てると、気が抜けて溜息が出るな…。
ギルドでの内容を、店の前で話すわけにもいかないので、続きは中に入ってからだ。
ロスが扉を開けると美味しそうな匂いが店の中から流れ出てきた。
嫌な気持ちが食欲に置き換わり、少し気分が上向いた。
気分が上向けば考え方にも変化が現れる。
……そうだよな。
どうせもう直ぐここを離れるんだ。
怒って詰めるより、一緒に反省して、今後の事を話してみよう……。
そう自分を戒めて、店の敷居を跨いだ。
中に入ると厳つく頑固そうな怒鳴り声が奥から響いてきた。
「まだ開店時間じゃ…って、なんだお前か……」
奥からひょっこり顔を覗かせたマスターがロスの姿を見た途端に気を抜いたのが分かった。
これで店主なんだもんな……。
およそ接客業に向かなそうなマスターに、ロスは当たり前のように要件を伝える。
「マスター、今日は奥の個室使わしてくんない?」
奥の個室とは『木かげ』の関係者だけが使う身内用の部屋で、賄いを食べたり休憩に使ったりする小部屋の事だ。
そこなら他人の目や耳を気にしなくても済む上に、マスターは水の組合員でもある。
つまり、ここは地のマフィアから見て、かなり狙いにくい場所のはずなのだ。
いまの状況で落ち着いて話をするなら、宿屋よりうってつけの場所だろう。
「個室?構わねぇが配膳はしねぇからな!自分で取りに来いよ!?」
元々そのつもりだったロスはマスターの要求を問題無いと受け入れた。
むしろその方がやりやすい……。
「勿論。料理も適当に作らせて貰うから、マスターは何も気にしないで大丈夫だよ」
小部屋には囲炉裏があり、火を使う事ができる。
食材さえ有れば、部屋の中で簡単な料理も可能というわけだ。
奥の個室に入ったロスはマスターが厨房に戻ったのを確認し、とりあえず本題から入ってみることにした。
「さて、今回の事で俺達は狙われる身となったわけだけど…」
「は…?狙われるって…!何で!?」
ホセのうるさい反応を流し、ロスはザハグランロッテに飲み物を出した。
ロスの動きを、エニアの視線が抜け目なく追いかけている。
その様子を見たロスは、エニアは今回の件にも興味を持っていない事を把握した。
「まず…面倒事が増えて、街中でもかなり危険になった。外を歩く時は、拉致や闇討ち、それから暗殺にも気を付けてほしい」
「暗殺…?え?何…?いまそんな大事になってんの、?、??」
暗殺は脅しだが、ロスの注意喚起にホセはキョトンとした反応を見せている。
「ああ、大事になってる。実感は無いかもしれないが、今回の件はそれくらい相手が怒る行動なんだ」
ここでロスは全員の顔を見た。
ザハグランロッテちゃんは俺が守るから問題なし…。
ミカドは少し驚いている…俺の警戒が想像よりだいぶ高かったか…?
ホセは…理解できてないな…。
エニアは、、、興味無し…。
「詳しい話は省くけど、要は飼ってた奴隷を俺達が奪ったのと同じなんだよ」
都合よく低賃金で犯罪までやらせて金を集めさせてたんだ…。
そんなの奴隷と変わらない…。
「ロスさん私の飲み物は?」
大事な話をしているのだが、エニアはまるで興味を示さない。
ザハグランロッテには用意されて、自分には待っても用意されない飲み物。
エニアは話の内容よりもそちらの方に我慢ができなくなったようだ。
「エニアちゃん、今は大事な話をして…あ、い、いや、そうだね!直ぐに用意するよ!うっかりしてたなぁ…はは」
威厳を出そうと強気な態度を取ろうとしたロスだったが、エニアの目が据わっているのに気付き、あっさりと恐怖に屈した。
ザハグランロッテの様子も気になったが、そっちはそっちで怖い。
なのでロスは彼女を見ることができなかった。
何か、俺の負担だけ大きくない……?
「と、とにかく!これ以上、地の縄張りの奴らを引き抜かない事!それと面倒はホセとミカド、それからエニアでみること!」
あいかわらず、ロスは引き抜いた奴らと会う気は無かった。
自分と距離を置いておくことで、冷淡な決定を下せるようにするためだ。
「分かったけど、俺たち狙われてるんだよな?どうするりゃ良いんだ?」
分からないなりに、ホセは一生懸命頭を捻っている。
馬鹿だし頭の成長は望めないが、ロスはホセのこういう姿勢が嫌いではない。
「そうだな…基本、単独行動はしない事。人のいない場所には行かない事。なるべく水の派閥の縄張りから出ない事」
「それから、地の派閥の縄張りに近付かない事。これだけ気を付ければ…まぁ、大丈夫じゃないか?」
自分が狙われそうな場面を想像しながら、ロスは気を付ける事を挙げていった。
後はこれを伝えておかないとな……。
「俺達はもうすぐこの街を出るだろ?だからホセが引き抜いた奴らと、俺は今更顔を会わせる気は無いんだ」
情が移る…とは思わないけど。
関わらない方が良いのは間違い無い。
「冷たく言うけど、俺は、ザハグランロッテちゃん、それからミカドにホセ、エニアちゃんだけ守れたらそれで良いと思ってる」
と言っても、俺はお前らと違って戦闘では役に立たないだろうけどね……。
俺は仲間にさえ危害が無ければそれで良い…。
だからさ…頼むからちゃんと仲間だと思わせてくれよ……?
じゃないとイザとなれば見捨てるぞ。
「ここにいる仲間でさえ、俺の能力じゃキャパオーバーになるんだよ。だから、仕方ないと思ってほしい」
これは本当の事…。
ちょっと、こいつ等…俺の能力を過大に見てる気がするからな…。
そろそろ、ちゃんとショボいって言っておかないとな……。
本当は助ける側じゃなくて、俺は助けられる側にいたいんだから。
「ロスさんの言いたい事は分かった」
ミカドはそう答えたが、納得していないのか、それとも何かを疑っているのか、信用していない感じに見える。
良い反応だ…。
疑うくらい慎重でいてくれないと、大事なことを任せられないからな。
比較対象である問題児のホセをチラリと見ると、こちらに気づいておずおずと口を開いた。
「話は終わった?そろそろ酒とか…?」
空気を読めないホセが様子を窺いながら恐る恐る提案する。
珍しいな…ホセが空気を読もうとするなんて…。
それだけ反省してるって事か…?
態度の理由が分からなかったロスは『反省しているのだろう』と思うことにした。
少しでも分かってくれたなら…。
普段元気が良いだけに、しょげた様子を見せるホセを見て、少し言い過ぎたかなと感じた…。
いや、絶対に言いすぎて無いな…。
「まぁ…飲み過ぎなければ…」
安全と言い切れないロスは、酒で不覚を取らないか心配して言葉を濁したが…。
「よっしゃ!さぁさぁ!みんなお通夜は終わりだぜ!!ここからはパーッと騒ごうぜぇ!!」
「お、おい…飲み過ぎはダメだからな?」
いきなり調子を取り戻したホセに、心配していたロスは思わず面食らいながらもなんとか注意を促した。
ホセは『お通夜は終わり』と言ったけれど、油断すればお通夜をするハメになる。
分かってないんだろうなぁ…ホセだし…。
「ホセに期待しすぎたのか…。まぁ、いいか。ザハグランロッテちゃんも少し飲む?……?」
調子を上げたホセによって場が和み、酒を飲む流れに変わりかけていた。
ロスは怖くて向けないようにしていた目をザハグランロッテに向けた。
ザハグランロッテちゃんは自分に関係ないことは嫌がるからなぁ……あれ…?
なんか様子が…。
「ザハグランロッテちゃん…?」




