26 確執と仲間…①
8月上旬
カルルの問題を解決してからしばらく経ったある日、またしてもホセが店に現れた。
「またお前か…」
トラブルメーカーの登場に、ロスのテンションは分かりやすく落ちた。
あからさまに嫌そうな顔をしても、当然ホセに効果など無い。
「あのさ!ロス兄聞いてくれよ!ユーゴの知り合いがこの辺を歩いてたらしくてさ!」
こちらの都合など一切気にせず…いや、気づかずに、ホセは話し始めた。
相っ変わらず空気の読めない奴だな…!
聞きたくない!聞きたくない無いぞ!!
一方的に話し始めるホセに、ロスは慌ててストップをかける。
「待て待て!ホセ!!俺は聞きたくない!何にも聞きたくないからな!だからお前もその口を閉じろ!」
この時点で、ロスは既に嫌な雰囲気を感じて体に拒絶反応を感じていた。
駄目だこいつ…!
絶対にまた面倒な事だ…!!
ただの予感がホセというスパイスが加わるだけで確信に変わる。
例え只の買い物であっても、途中でホセが絡めば途端に面倒事になる…そんな感じだ。
「いや、それがさぁ。ユーゴって実は地の派閥にこっそり入ってたらしいんだよ!?」
「はぁ…?お前は何を…」
『今更』そう続けようとしたロスの言葉を遮って、ホセは話し続ける。
「そんでさ!ユーゴの知り合い?そいつも水の派閥に入りたいらしいんだよ!」
あー!これ以上はダメだ…絶っ対に面倒になるやつだ!!
ロスの本能がそう告げていた。
ホセは悪い奴ではないが、こういう事を悪気も無く持ち込む残念な奴なのだ。
もうすぐ目的の収納袋だって買えるんだぞ…!?
今から新しく面倒を抱え込むとか…ありえないだろ…!!
い、嫌だ!何も…か、考えたくない!!
ロスの頭が勝手に思考し、起こりそうなトラブルを想像しそうになっている。
『何も考えたく無い』と悶絶していても、ホセの口は止まらない。
頼むホセ…!
少しは考えてくれー!!
「そいつ、特に問題も起こしてないし、水の派閥に入れたら良いんじゃねぇのってユーゴに言ったんだよ」
あーーッ!お前…!なに余計なことを…!?
『地のマフィア……』
遠ざけたはずの面倒がロスの頭をもたげ始めた。
い、いやだ…これ以上、考えたく無い……。
息苦しさが増した…ホセが現れてからずーっと浅く速くなっていた呼吸が一瞬止まり、ロスは考える事を放棄した。
「ユーゴから色々聞いたんけど、地のマフィアってやる事が酷いんだぜ?そんな所にいるより絶対こっちの方がいいっしょ!」
ははっ。これは問題になる…。
自分以外の行動で、また自分が面倒に巻き込まれる。
その理不尽さから逃れようと無意識に頭が真っ白になっていく。
だ、駄目だ…!
逃げたらザハグランロッテちゃんに迷惑が掛かる……!!
ロスは『今からでもそいつを追い出せ』と言いたい気持ちを必死に堪えた。
一方のホセは、ぶん殴ってやりたくなるくらいキラキラした目をしている。
「こっから離れる前に少しでも助けてやりたいよな!もちろんロス兄には迷惑かけないようにちゃんと言ってあるから安心してくれよな!」
お前は…!
既に迷惑かけてんだよ…!!
次から次に『おまいう』発言が続き、もうどうすればいいか分からない。
「ミ、ミカドは?ミカドは何も言わなかったのか?」
ミカドなら止めたはず。
止めなかったなら何か理由とかメリットがあるんだよな…!?
ホセと違ってミカドは人の前に出たがらないが、あの3人の中ではリーダー的なポジションにいる。
いつもならホセの行動を止めるか、ロスに前もって相談しにくるはずなのだ。
「ミカドなら稼ぎが増えるからって喜んでたけど?」
はあ…どういう事だ……?
いや…そうか…そうだな。
ミカドは蛇ちゃんを早く人に戻したいと思ってるもんな……。
だからって……。
早く他の街に行きたくてってのは、ちょっと目が曇ってるんじゃないの…?
俺だって早く出発したいのに…。
遅れたのは自分のせいでもあったので、ロスはあまり文句も言えなかった。
とにかく『収納袋』を早く購入するのが面倒から逃げる一番の方法だろう。
ミカドは何でそんなに焦ってるんだ?
若いから辛抱できない…とか?
いや、一方的に決めつけて責めるのは止めておこう……。
そういえば…俺、ミカドに白金貨の2枚…回収したって言ったっけな…?
金貨5枚分、購入資金が減ってるのは知ってるはずだよな……?
一度…ミカドと話しておいた方が良さそうだな…それよりコイツが先だ……。
ロスは、いま以上に面倒や問題が大きくならないように、ホセには釘を刺しておこうと考えた。
「はぁ…あのなホセ、済んだことはしょうがない。だけど…これ以上は増やすなよ!」
「え?いや、だけどロス兄。もう声かけちゃったし、他にもだいぶ集まってんだけど……?」
「……ッ!??!?…嘘だろぉ……」
ホセの言葉にロスは絶句した。
みるみる元気の無くなっていくロスを見て、ホセはようやく自分の行動が喜ばれていないと気が付いた。
「で、でも大丈夫!ロス兄の事はみんな名前しか知らないし、面倒は俺が見てるし!あぁ!でもみんなロス兄の言う事を聞くようにちゃんと言ってあるから!」
ユーゴの時に顔も名前も出さなかったのは、地のマフィアとトラブルになったとき、ザハグランロッテに危害が及ばない様に保険をかけたからだ。
つまり彼女に危害が及ぶなら、仲間として認めたはずの今でさえ、ロスはミカド達を切り捨てるつもりだった。
トカゲの尻尾のように、容赦無くだ。
ユーゴの件だけなら問題無かった…。
でも……。
今回の事は地のマフィアも見逃さないだろう…。
それに…ホセは信用できない。
俺の名前は知られたと考えた方がいいな…。
ユーゴの件は水の派閥の住人への危害という反撃する口実がこちらにはあった。
ユーゴ自身も奴等にとって処分対象だったから離脱を見逃されたのだろう。
口実があったユーゴだけならまだしも、理由もなく他の奴まで派閥に入れるなんて、悪質な引き抜きと思われる…。
「ロスさん。手が空いたらギルドに来るようにってさ」
遅れてひょっこり現れたミカドが、何でも無いようにそう言った。
ロスはそれを聞いて「あぁ…やっぱりか…」と思い、気分が更に落ち込んだ。
「わかった…。あの、お前らさ?これ以上、地の派閥と関わるなよ…」
想定外の事態に、ロスは対策が思い付かなかった。
頭の混乱を収められず逃避を始める。
あぁ…ザハグランロッテちゃん。
ザハグランロッテちゃんの所に行きたい…会いたい…お世話したい。
ロスは、気を落ち着かせたいと思ったが彼女の側にはいつの間にかエニアがいた。
これ以上の気疲れは流石に勘弁してほしいと思ったロスはザハグランロッテのお世話を諦めた。
悪い流れだ…何にもうまく行く気がしない…。




