25の4 カルルの憂鬱…④
あんなに逃げたくて逃げられなかった地の派閥から、俺は何となく流されて抜け出した。
………え?ええ??
軽いパニックだ。
こんなに簡単に抜けられるものなのか?
いや、俺は首輪を付けられてんだ。
地のクソ野郎共が何も無しに見逃すはずがねぇ。
こいつ等はクソ野郎共に潰される。
そしたら俺はどうなる??
戻っても死ぬまで使い潰されて終わるだろう。
今回みたいに手を出したら終わりの奴に突っ込まされるかもしれねぇ…。
このまま水の派閥で……俺は本当に正規のギルド員として?
その場合も、問題は地のマフィア…。
答えが出なくて悩んでいると『ホセ』だったか?男が近付いてきた。
イカれた女じゃなくてホッとしちまうな…。
「おい。お前、名前はユーゴって言ったよな!?……えと…ミカド!何だっけ!?」
話しかけてきたくせに、内容を覚えていないらしい。
こいつは強いのか分からねぇが、弱くは無いんだろう。
もちろん今の俺に確かめる度胸は無い。
「…ほら、これで後始末を付けてこいってさ」
『ミカド』と呼ばれた男がホセの代わりに要件を伝えてきた。
渡された小袋を見ると金貨が5枚入っている。
「これは…?」
「さあ?俺が聞いたのは、ユーゴにその金貨渡して後始末を付けさせて来いってこと」
後始末というのは地のマフィアの事だろう。
ホセとミカドが知らされてないのは俺が知ってるからか…。
後始末…簡単じゃねぇな。
結局俺に死ねって事かよ……。
「残った2枚は生活に必要なものを揃えるのに使っていいらしいよ。それから『今回の事は見逃してやる』って伝えれば良いらしい」
「何だよそれ…そんなこと言ったら俺はボコボコにされちまうだろ……」
ボコボコで済めばいいが、最悪殺されんだろ。
その程度の扱いでも仕方ねぇけどよ…。
「それなら大丈夫だよ。あの人がそう言ってたからね。凄い悪い顔してたし聞きたくないと思ったから俺は根拠を知らないけど」
「そのまま伝えれば大丈夫だと……?」
「そのはずだけど、信じられなかったら好きにすれば良いと思うよ」
そんなもん信じられねぇよ。
かといって反抗しようにも俺に案はねぇし…それに、こいつ等に悪い印象を与えるかもしれねぇ。
なんだよ、俺に選ぶ権利なんかねぇじゃねぇか。
「これは貸付か…?」
この金貨で後始末…残った2枚って言ったな?
俺の価値が金貨3枚……。
どこまで考えてんだ??
「金は働きで返せって言ってたけど、具体的に何を期待してるか分からないな。でも、俺達も何も要求されてないし、多分何もないよ」
得体の知れない相手の指示だ。
正直不安だ…。
今回の件、黒幕の手のひらで踊らされたんだよな……。
俺が買わされた白金貨5枚のポーション代は、あの家族におっ被せた負債と相殺された。
俺の負債は何故か許されてるが…。
元々無かった権利と借金が相殺されただけ。
誰も損をしてねぇ……。
唯一気になるのは、無くなった白金貨2枚はどこに行ったのかという事。
あれが無くなっても納得できるのか…?
いや、あれは黒幕の手にあんのか…?
じゃあこの金貨は…?
この金貨だけはマイナスになってるんじゃねぇのか??
温情……?いや、そんな甘い相手じゃねぇ!
何かで帳尻を合わせてんだろう。
チラリと黒幕の存在が思い浮かんだが、ユーゴは関わりたくないと思い、考える事を止めた。
その後、ユーゴは地のマフィアと完全に決別する事を決め、一度地の縄張りに戻る事にした。
「俺は地のクソ野郎共と縁を切ってくる」
「分かった、伝えておくよ」
そう言って少年はどこかに行ってしまった。
ユーゴの見立てでは、この少年少女のパーティは蛇を巻いた少年がリーダーのはずだ。
ホセと呼ばれる少年はリーダーに必要な資質を欠いているし、エニアと呼ばれる少女はサイコパスだ。
まともなのは蛇を巻いたこのミカドと呼ばれている少年だけだ。
相談か…やはり黒幕が上なのか…。
3人の様子から、黒幕が慕われているのは分かる。
おそらく自分と違い、使われていても悪い扱いは受けていないのだろう。
けど…この戦闘能力のパーティを従えてんだよな…?
黒幕の強さは一体どのくらいあるのだろうかとユーゴは恐ろしくなる。
見てみたいような、見たくないような…。
恐らく色々な意味が含まれている。
黒幕は、自分の価値が多くても金貨3枚しかない事を見抜いている。
他にも知られている…?
顔すら分からない相手だと、不気味で余計に大きく感じるな…。
黒幕の底知れない力に、改めてユーゴは心が冷えた気がした。
「そういう事で、とりあえず金貨3枚を手付けで受け取りました。あと、背後に誰かいます。正直、かなり危ない奴だと思いましたね」
今までに無いくらいスラスラと言葉が出てきて、地のマフィア相手でも普通に喋る事が出来た。
イカれた女に与えられた恐怖が大き過ぎたのかもしれない。
地のクソ野郎が、俺の欠けた耳たぶ、痛々しく無くなった横髪を見ながら話を聞いている。
「奴らのボスから伝言が…『今回の事は見逃してやる』そう伝えろと、意味は分かりません」
本当に分からないから聞いてくんなよ?
聞きたいなら直接行って自分で聞いてくれ。
「分かった…良いだろう。まぁ、水の派閥とやり合うよりはマシか…。それで?お前は幾らの値が付けられたんだ?」
俺は金貨3枚をクソ野郎に手渡した。
「くはは!なるほど、金貨3枚か!お前…安く見積もられてるな、ふふ」
「え?それは…」
「金貨3枚はお前の適正相場だ。それ以上でもそれ以下でもない。つまり、そいつに引き抜く強い意思は無いってことさ」
ユーゴは、残った金貨2枚を初めて意識した。
クソ野郎は俺がまだ2枚持っていることを知らない。
この2枚は俺の価値を多く見積もってくれたのか?
地のマフィアは金貨3枚。
黒幕は金貨5枚。
そういう事なのか……?
「まあ…良いだろう。そろそろお前の身バレが近そうだったからな。処分する予定だったんだ、あいつ等に金貨3枚で売るのも悪くない」
地のマフィアからすれば金貨3枚は端金だが、何一つ損の無い収入である。
奴隷に落としても金貨3枚。
水の派閥に売っても金貨3枚。
そういう事だ。
「もしも黒幕に会ったら忠告しとけ。今回はこっちが予定を狂わされた。面白かったが、次はこうは行かねえぞってな」
その言葉は、地のマフィアが今回の出来事を負けとして捉えたという事だった。




