25の4 カルルの憂鬱…②
『嘘だ!』
頭が拒否反応を起こしている。
現実に現実感が追いつかない。
あれ…?あれ…!?
俺の金…!俺の金は…!?
服を弄り、視線を歩いてきた道に走らせながら、俺は金の入った小袋を探した。
無い…。
無いだと…!?
少しずつ、それが勘違いでは無い…そんな実感が襲い掛かってくる。
ついさっきまで普通だった暑い空気と風景が、急に色と温度を失って単色に見え始める。
なんだ…?
落としたのか…?
上手く考える事ができない。
頭が呆然とし、深く考える気力を奪われる。
浮かび上がった簡単な可能性を、ユーゴは昆虫のように実行に移した。
歩いて来た道を引き返しながら、地面をぼんやり眺める。
こんな探し方で見つかるわけが無いとユーゴはきちんと理解して…理解、させられている。
手遅れだ…。
俺が落としたんだとしたら、誰かに拾われていて終わりだ。
あんな大金、誰だって自分のモノにするだろ…。
失敗した。
浮かれていたんだ…くそ!
大金が転がり込んで、糞共…地のマフィアを欺けると思って俺は調子に乗って…!!
スられた…??
可能性はある…。
自分が気が付かないほどの巧者にやられたのかも知れない。
そんな事あるか…?
このタイミングで…?
いや、そんな技を持つ奴ならあり得る。
地のマフィア……?
ユーゴはバッと周囲に目をやった。
あの糞ども、俺を見張ってたのか?
……あり得る。
俺は金を…白金貨を狙ってた。
糞どもなら俺から奪って、失敗だと抜かすのも普通にあり得やがる!!
気持ちが急速に落ち込んでいく。
先程までの高揚感がすっかり影を潜め、代わりに焦燥感で吐きそうになった。
あと2ヶ月…。
どうする…?どうしたらいい…?地のマフィアが何も無しで2ヶ月も待つか…?
いや…糞共はそんなに気が長くない。
どう考えても俺が先に処分される…!
あの家族は白金貨2枚を支払った。
2ヶ月待てば約束の白金貨5枚も支払う可能性が高い…!
でもそれをあいつらが信用するのか…?
俺は金を受け取っちまった。
そのせいであの家族を今すぐ奴隷に落とす口実が無くなっちまった。
くそ…!
金…俺の金はどこに…!!
無くなったお金を諦められないユーゴは、頭の中でお金を求めていた。
どうすれば…。
もう嫌だ…。
金…金…金金かねかね…!!
「おっ?見ーつけた!」
何だ…?俺に…??
……他に人はいねぇな。
なら俺のことか…何のようだ?
俺はいまそれどころじゃねぇんだよ。
「あんたに、ちょっと話があるから付いてきてもらおーか」
何だ…?まだガキじゃねぇか。
俺に、舐めた態度取りやがって…教育されたことねぇのか??
普通なら、こんな舐めた態度を取れば痛い目に遭うのは経験しているはずだ…にも関わらず、礼儀を欠いた態度。
ユーゴは警戒する。
普通では無い。
ガキが俺に何の用だ…?
周りは誰もいねぇが…誰かと間違えてんのか?それとも実は他にいんのか?
もう一度自分周りを確認してみる。
やっぱ、誰もいねぇな……。
「いやいや、オッサンに言ってんだけよ。もしもーし!!聞こえてますかぁ?あれ…もしかして馬鹿?……なぁミカド、合ってんの??」
オッサン…。
確かにガキから見りゃ、俺はオッサンだろうけどよ。
何でこんなに調子に乗れる?
普通じゃねぇ。
警戒しろ…舐められんじゃねぇぞ…!!
少し後ろに、蛇を巻き付けた少年、それと…見るからに可愛い少女もいる。
何なんだこいつらは…?
この女は…高く売れそうだな…。
それに…蛇?…へんな奴…。
全員若い…売れば金になるな…。
人数の差がやっかいだ…それにこの余裕…。
今は必死こく元気がねぇ…白金貨…。
頭の中を白金貨が占めている。
「俺はテメェ等の様なガキに用は無いんだよ。今は気分が悪い…ぶっ殺す前に失せろ!」
ガキ共の目的は何だ?金か?
金…ハッ、金なんかねぇよ…無くなっちまったからな…。
「オッサンの都合なんかどうでもいいんだよ!いいからついて来いよ!」
調子に乗りやがって。
いや…タイミング的に、もしかしたらこいつ等が俺の金を…?
そう考えたら真偽はともかく、急に腹が立ってきた。
「礼儀を知らない糞ガキが…!」
もういい!こいつ等から金をむしり取って売り飛ばしてやる…!!
こいつ等が水の派閥の奴らでも知らん!!
ぶっ潰してやる!!
ユーゴは全ての苛立ちをこの3人にぶつける事にした。
「俺が付いていく理由がねぇだろうが。まぁ、いい…でも俺も忙しいからな。手短にしろよ」
お前らが絡んできたんだ。
痛い目に会うのは自業自得だぜ。
俺の無くした金の代わりにしてやる!
ユーゴの視線が女の品定めを始めた。
年齢は15歳〜16歳位か…。
少女は可憐で、世間知らずっぽく見える。
今の状況にも興味無い感じで、暑いのだろう…手で顔を扇いでいる。
汗ばんだ顔はあどけないが、身体はもう育って大人と変わらない。
この女を俺がしゃぶり尽くしてやる。
落としてから売れば…いい金になる…。
損失も埋まる、いやお釣りが出るかも……。
それに、こいつ等…俺の金を持ってる可能性がある。
それも取り戻せば…滾ってきたぜ…。
暗かった気分が上向いてきた。
ガキの後を歩きながら、俺が狸の皮算用を楽しんでいたら突然立ち止まりやがった。
着いたのは路地裏、といっても人通りが無いだけで、すぐ側は大通りだ。
監禁される恐れは無さそうだ。
俺の都合に合わせてくれて助かるぜ。
「オッサンさぁ、お金。持ってるだろ?」
唐突に言われた言葉に、ユーゴは首を傾げた。
「白金貨で2枚。持ってるだろ?」
んん…?こいつ等が盗ったんじゃ無いのか…??
タイミング的に、白金貨を盗ったのはこの3人組かもしれないと思ったユーゴだが、どうやら違うらしい。
ただ、自分が白金貨を2枚持っていると知っているあたり、無関係では無く、奪うつもりではあったのだろう。
あの夫婦が雇った奴か…?
地のマフィアが飼ってる半グレか??
まぁいい、やる事は変わらん…!
「残念だったな。金は持ってない」
「は?持ってない!?なんで!?」
俺もピンチだけどよ、お前らの狙いが潰れるのはスッとするぜ。
そのまま全部ぶっ潰して地獄に落としてやる!!
「嘘だろオッサン…」
多少は荒事に慣れているようだが、頭は良くねぇみたいだな。
それに思ったよりも素直で扱いやすそうだ。
素直に言うこと聞くなら最悪は勘弁してやるか…?
「俺が聞きたいくらいだ。お前らじゃないなら、スリだろう…。ここはそういう場所だしな」
これは情けない話だ、俺は油断して損をしてるからな。
油断で全てを失う…そういうものだ。
俺が油断してやらかしたように、お前らも『これから』やらかすんだけどよ…。
「おいミカド。金持ってないってよ?どうする?流石にただボコボコにするんじゃ俺も気が引けるんだけど!」
頭の悪そうな少年がコソコソ仲間の少年と相談を始めた。
失礼で糞ムカつく内容が丸聞こえだが、俺は聞こえていないフリをした。
「はぁ…関係ないだろ?こいつがカルルさんを困らせたのは間違いないんだから」
そうか…やっぱりあの女の知り合いか。
俺が白金貨を持っているのを知ってるだけなら強盗かと思ったが…。
あの女か?…旦那?それとも首突っ込んだお節介野郎でもいんのか?
こんな奴らに舐められているのかと思うと情けなくて涙が出てくるぜ…。
それと同時に、カルル達親子に抱いていた罪悪感が完全に無くなっていく。
おかげで気兼ねなくやれそうだ…。
俺は少女に狙いを付けて歩き出した。




