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25の2 カルルの憂鬱…③

俺は水の縄張りに移動し、自分の不幸を擦り付けるターゲットを探していた。

奴隷なら内郭に売るのが一番稼ぎになるって聞いているが…。


『金になりそうな奴を狙えよ?』という言葉が頭から離れねぇ。

何気ない言葉すら奴等が使えば反吐が出る意味に変わりやがる。


やっぱり女か子供…だよな…。


内郭の人間は娯楽に飢えている。

労働力の男より、女や子供の方が受けが良い。


狙いは…。

人の良さそうな…幸せそうな奴…。


余裕がある人間が良い。

人ってのは余裕が無いと幸せは感じられねぇように出来てるからな。

幸せな奴を見つければ、そこには富がある。


限界まで不幸せな奴に残っているのは出涸らしのような富だけだ。

少しでも幸せなら、そこからマイナスまで搾り取れる。


最低だが…俺はやるしかねぇんだ…。


考えれば考えるほど、心が殺伐とする。

感情が死に、全てがどうでも良くなった目が…一組の親子で止まった。



「シャルルー今日は何が食べたいー?お母さん今日はシャルルの好きなもの作ろうと思ってるんだぁ」


「えっ! 本当!? やったー! シャルルねぇ?お母さん大好きー!! うんとねー、シャルルはねぇーえぇっとぉ…」


よし、コイツ等にしよう…。

俺は親子を見て即決めた。


この親子は見るからに幸せだ。

子供がいて…この感じ、旦那もいるだろう。

引っ張れる金も多いかもしれねぇ…。


できれば…。

奴隷にまで堕ちない奴がいい…。


分かってる…俺のこの考えは優しさじゃねぇ。

ただ、自分の罪悪感を少しでも軽くしたい屑の思考だ。


俺は普通の通行人を装って母娘に近づいていく。

悪く思われて当然だ。

屑の俺は、瓶を割るタイミングを子供の直ぐ近くで静かに見計らっている。


俺は屑だ…奴等と同じ。

屑なんだから屑らしくしろ…。



「シャルルは、うーん…何にしよっかなー!あははっ!あはははっ!!」


楽しくて仕方が無ぇんだろうな。

ガキがはしゃぎ回って動きが大きくなってる。

考えるな…やらなきゃ殺られるのは俺だ。


楽しくて幸せのすぐ側に地獄があるなんて…思いもしないだろうな…。



いまだ…!


俺はガキに軽くぶつかった後、大袈裟に…よろめきながら確実に瓶が割れるよう、勢いを付けて地面に投げ落とした。


『バリンッ!』

「ああっ!?」


ガラス瓶の割れる音と、俺のわざとらしい声があたりに響いた。

悪いのは俺の方だ。


初めから見てる奴がいたら…。

そう思うと焦りが出る。

誰かに介入されると失敗するかも知れねぇ。


焦りを抑えながら地面を確認する。

瓶に入っていた液体と割れた瓶のガラス片が、地面に撒き散らされていた。


問題ねぇな…ここまでは上々だ。

問題はここから…ここからこの親子を地獄に引きずり落とす…。


俺は地面に視線を落とし、ワナワナと体を震わせてショックと怒りの演出を試みるが…。

思ったよりも難しい。

こんな出来で騙せるのか?


失敗した場合のリスクが頭をもたげやがる。

雑な演技だろうが、ショックを受けている自分を演出しねぇと次の手が打てねぇ。


「す、すみません!ほら、シャルルも謝って!」


母親の女がペコペコと頭を下げてきた。


下手くそな演技が見破られなかったみたいだ。

正直かなりホッとした。

謝ってくる奴ならターゲットとしても間違ってなさそうだ。


既に不幸な奴だとこうはならねぇ。

白金貨5枚と聞いた瞬間にこっちを殺す覚悟まで決めるだろうからな。



ふう…やるぞ……。


「す……すみませんで、済むわけないだろうがッ!! どうしてくれる! これは蒸留ポーションなんだぞ!」


瓶が割れた時に見えた液体…やっぱ水にしか見えなかったけどな。

あいつ等、水を白金貨5枚に換えようとか…クズにしたって限度超えてんだろ…。


演技だけで騙して信じさせるのは、思ったより難しいんだな…。

失敗が恐くて大袈裟にアピールしてみたが…自分の演技がわざとらしくて逆にヒヤヒヤしたぜ。


というか、こんなので信じるのかよ…?



「じょ、蒸留ポーション!?」


「ふふぇ…うわぁぁーん!」


よ、よし。

これは続行…と見て良いだろ!


いける!

このまま騙しきってやる!!

母親の驚きを見て、俺は自信を持った。


その驚いた母親の横では無責任な子供が泣き喚いていた。

自分の泣かせた子供の声が、俺の罪悪感を刺激するのが鬱陶しかった。


うるせぇな!

俺が悪いのは分かってんだよ!!

黙れよ!!!!


「おいクソガキッ! お前のせいだろうが! なに泣いてやがる!!」


居心地の悪さにムカムカし、自分が諸悪の根源にも関わらず、声を荒げて子供に当たり散らかした。



「はあっ!! す、すみませんでした! 娘には私から言い聞かせますから! それに、弁償もします!」


これで良い。

言質は取ったし、後は逃げられねぇように固めるだけだ。


あーくそっ!!

何で俺がこんなに胸糞悪くなるんだよ!!

あいつ等だ!!あの糞共のせいだ!!!


自分の行動の責任を、ユーゴは地のマフィアに擦り付けて罪悪感から逃れようとした。



「あぁ…大丈夫だからねシャルル。お母さんが何とかするから」


あいつ等さえ命令しなけりゃ、お前らはこんな目に合わなかったんだ。

恨むんなら地のマフィア、あのクズ共を恨め!


最悪の人間になったついでだ…。

サッサと要件を突き付けてやろう…。

ユーゴは腹を決めて親子に不幸の宣告を告げる。


「白金貨5枚」


んん…?

俺が自分の口で言ったんだよな……?

ユーゴは口から出た声に違和感を覚える。


何でこんなに冷たいんだ…??

もっと恫喝するつもりだったのに、これで上手くいくのか?



「え?」


あーこれは現実感が無い顔だな。

額が大き過ぎるとな…分かるぜ?

ここで畳み掛けるのが正解ってなぁ!!


「白金貨5枚で許してやるって言ってんだよッ!!」


糞が!

勢いが落ちてきた!

もっと怒れ! もっと屑になれ!!

甘ったれるんじゃねぇ!!


失敗したら俺がやられるんだぞ!!

こいつ等を地獄に落として生き残れ!!

絶望させろ! 屑だ!! 俺は屑だ!!!


「そんな!そんなに高い物!?」


「あたり前だろうがッ! 不純物を除いた高濃度ポーションだぞ! 一般的なポーションまで薄めて売れば白金貨8枚にはなる!!」


混乱させろ!追い詰めろ!!

余裕を与えるな!


「ふふぇ…うわぁぁーん!」


「あぁ!大丈夫!シャルル大丈夫だからね!?」


俺が悪いからなんだ!!

泣きゃ俺は助かんのか!?

ガキの泣き声を苛立ちに変えろ!

良心なんかクソ食らえだ!!



「払えないならガキでも自分でも旦那でも、身を売ってでも金を作りやがれ!」


よく見ればいい女だ…。

俺が地のマフィアみたいな立場ならヤレたのか?

いや、あいつ等はもっと好き放題してるはずだ。


くそ!

俺はこんな時でも女とヤれねぇのによ!!



「お、お金は払います!」


くそ!

女の事を考えるのは止めだ止め!!!

この件が終わったら女なんか買えば良い!

何日か連続で買っても問題ねぇ額なんだからよ!!


「1ヶ月だけ待ってやる! 払えなかったらお前らを売って金にするからな。覚悟しろよ!」


そんな目で見るんじゃねぇよ!

お前らだって、俺の立場ならどうせ同じ事をやるんだからな。


くそ!!

気を抜いたら直ぐに気が滅入りそうになりやがる!!

気を張れ! 俺は屑だ!! 屑に徹しろ!!




母娘に家まで案内させ、逃げられない様に色々な情報を集めておいた。


底辺の俺はいつも女不足だ。

無理やり気を張ったら張ったで、今度は女が抱きたくなって気が狂いそうになりやがる!


手付けに抱かせろと言いたいのを我慢するのにまた苛立つ。

こんな状態で仕事が達成するまで女を我慢…?

クソクソ糞!!


目的は金だ…間違えるな…!

金が手に入らなければ奴隷に堕ちるのは俺なんだぞ!


「金も払わず逃げられると思うなよ!! 俺はどんな手を使ってでも回収するからな!!」


「わ、わかってます…わかってますから…」


とりあえずの目的は達しただろ。

このままじゃ襲っちまう!


「また来るからな!!」


早く逃げろ…女、女が欲しい!!


ユーゴは地の縄張りに逃げ帰り、女への欲求を安酒で誤魔化し、煽り倒した。


翌日、どうやってスラムまで帰ったのかまるで記憶が無かったが、そんな事はどうでも良かった。

のたうち回る様な、絶望の二日酔いの中で…ユーゴは地のマフィアを1日中呪った。





数日が経ち、幸い旦那の方も金を払うと言ったらしい。

俺はようやく肩の荷が降りた気がした。


これで…ほぼ任務は成功だろう…。


家を見た感じだと白金貨5枚は難しそうに感じたが…。

ユーゴに残った不安はあの家族が支払えるかどうか、それだけだった。



「くそ……いい女だったなぁ…」


手を出したかったと思いながら、絶対にそんな事は出来なかったとも思っている。


あの時、子供の鳴き声がウザくてイライラが収まらなかったが、母親の面影があった。


ありゃ…成長すれば美人になるだろう…。

それは売る時に高値がつくという事だ。


取り損なう事は無さそうだな…。

ユーゴは母親と娘の二人だけで白金貨5枚の価値が十分あるとふんだ。


払えるならその方が良いけどよ…。


時間が経つに連れ、ユーゴの中で罪悪感が膨らんできた。


自分が押し付けた不幸だが、自分も不幸を押し付けられて仕方無かったのだ。

元凶は地のマフィアで、自分はそのマフィアの末端にいる。


そう言って罪悪感から目を背けた。


運が無い仲間を増やしてしまった…。

結局俺も地の奴らと同じ穴の狢か…。

憂鬱な結論に、ユーゴの気分はどこまでも落ちていった。


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■内容はほぼ同じですが、性的描写を省いていないバージョンです


【R18】因果の否定、混沌の世界でハッピーエンドを渇望する物語



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