25の3 カルルの憂鬱②
「水の派閥の奴にぶつかってコイツを割れ。中身は液体だから蒸留した高純度のポーション原液とでも言えばいい」
「はぁ…それで、弁償させるって事ですか…」
これまで散々悪いことをやらされてきたんだ。この屑がやりたい事くらい何となく想像できちまう。
俺もどうせ同じレベルの屑なんだよ。
何も悪くない相手に言い掛かりを付けて弁償させる当たり屋の詐欺行為…。
でも…そんなもんで他派閥の引き抜きをしろってのは無理だろ…。
何だ…?
俺への嫌がらせか……?
「そうだ。白金貨5枚でな」
「は…?…白金貨5枚!?」
待て待て!?
そんな高額払えるわけねぇだろ!?
何考えてんだこの馬鹿は!
高額……?
ふっかけ過ぎ……?
内郭の人間ならともかく、外郭の人間が白金貨5枚……?
外郭に住んでる奴らが、そんな金は持ってねぇんじゃ…?
「そうだ。だから金になりそうな奴を狙えよ?」
ああ…そういう…ゴミが。
『金になりそうな奴』この言葉で、ようやく俺は狙いが奴隷であることを察した。
相手が金を払えばそれでいい。
払えなければ奴隷に堕として売る…もしくは奴隷として使う…と、いう事か…。
お金が払われても得、払われなくても得…。
相変わらずクソな事を…。
こんなの嫌に決まってんだろ…けど…拒否できねぇしな…せめて報酬を…。
「……なるほど…。へへ…それで俺の報酬は幾ら…なんですか?」
「お前の取り分は白金貨1枚だ」
白金貨!?
それも丸々1枚だと!?
い、いや…そんな甘い話が…?
予想以上の高額報酬に、俺の頭は真っ白になったね。
それに、金額があまりにも嘘っぽい。
奴らが俺にそんな大金を払うか?
「白金貨…1枚も…!?」
俺は今まで、こいつ等から金貨はおろか、銀貨でさえ数回しか貰ったことがないんだぞ!?
それがいきなり白金貨1枚もの報酬…高額すぎる…そんな事、あり得るのか?
「組織の取り分は白金貨4枚」
「白金貨4枚!?」
はあ!?
取り分が白金貨4枚だと!?
俺の分が無くなるじゃ…白金貨1枚払ったら残りは………そ、そうか、計算は合うな。
白金貨5枚を吹っかけろって、さっき言われたばかりなのに…慣れない高額でまた驚いちまった。
しかし、こりゃあ何回聞いても慣れるまで驚いちまうな…。
「いいか? お前が白金貨1枚。組織が白金貨4枚。合計で白金貨5枚だ。悪くないだろう?」
悪くないだぁ…?
この屑…悪くないどころか、どうせ価値の無い液体の弁償で白金貨5枚を吹っ掛ける極悪だろうが!!
言えねぇけどよ……。
確かに報酬だけ見れば悪くねぇ…悪くねぇが、失敗すれば恐らく死ぬんだぞ?
それを白金貨1枚でやれって…足元見すぎだろ…ムカつくぜ!
「失敗したら白金貨4枚はお前の支払いだ。しっかりやれよ?」
はあ!?
くそっ…!
やっぱりそう来るんだな…!
成功しても失敗しても組織は何も損をしない。
結局、苦労するのも損をするのも俺だけじゃねぇか!!
高い報酬を喜んだのが馬鹿らしくなる。
自分だけが損を負う、いつもと同じ、どこまでも糞なだけの仕事だった。
「…っ…分かりました…」
糞仕事でもどうせ断れねぇ。
どこまでも俺を馬鹿にしやがって!
クソが…俺も奴隷候補じゃねぇか…!
この話、組織に都合が良すぎる…。
クソクソッ…やっぱり碌な話じゃ無かった…。
「もういいぞ。お前の馬鹿面を見てると殴りたくなってくる。お前を殴ると俺の手が汚れて嫌なんだよ」
「は、はは、すいません。じ、じゃあ俺は失礼します…はは」
情けねぇ…くそ!いつかぶん殴る!!
くそ!くそぉッ!!
地のマフィアの事務所から、ユーゴは逃げるように出ていった。
プレッシャーから開放されて、さっき提案…いや、強要された仕事が…どれだけ悪どくて理不尽な事か、いまさら理解が深まってきた。
受け取った、液体の入った瓶。
瓶には色が付いていて中の液体が何色なのか分からない。
「ただの水…じゃないだろうな…?」
白金貨5枚を吹っ掛けるんだぞ…?
まだ見ても決めてもいねぇが、ただの水が溢れたから白金貨5枚払えって…流石に言いたくねぇぞ……?
中身が水なのでは? と、疑うユーゴだったが、考えれば考えるほど水としか思えなくなった。
……………。
あいつ等…地のマフィアどもは何から何まで信用できねぇからな。
そのくせ自分達は他の派閥よりもマシで『俺達は人道的』だとか思ってやがる。
脳みそが腐ってやがんだよ!!
地の派閥が金を稼ぐのに裏で好むのは、奴隷や搾取、詐欺に脅迫だ。
強盗や傷害は治安を守るマフィアの面子が潰れるからやらねぇが…。
殺しを好まないのは、死ねば生産性がゼロになってお金を生まないからだ。
決して人道的だからではない。
端から見てる俺が『こりゃ死んだ方がマシ』だなって思うのに。
そんな所業が人道的だと本気で思ってる奴らは頭がイカれてやがんだ。
強制されてるから…つっても、俺も糞共と同類なんだがよ…。
逃げられねぇ、あんな目に自分が合うなんて真っ平ゴメンだ。
想像するだけでユーゴは縮み上がった。
飼い殺されて抜け出せねぇっつってもな…。
アレよりはマシ。
今も、自分が働かされたお金の大部分は地のマフィアに吸い上げられている。
自分の仕事、それは碌でも無い非合法な仕事だ。
普段の非合法が、普通とか思ってる奴らが、まとまった金が欲しくなったとき、今回のように誰か別の奴の手を汚す。
ユーゴの様な、居なくなっても困らない奴を使い、他人に不幸を撒き散らしながら一番運が悪い奴をこの世の地獄に突き落とすのだ。
奴隷に堕としてでもお金を手に入れようと画策し、自分の手は汚さず、他人にやらせて平気なのが奴らの性質なのだ。
おおよそ人の所業とは思えねぇ。
嘆いても逃げられねぇ…俺もやるしかねぇんだ……。




