25の3 カルルの憂鬱①
7月中旬
俺の名前はユーゴ。
水の街の外郭、地の縄張りに住んでる。
表向きは派閥に与していない半グレという立場で、スラムが俺の住処だ。
だが、派閥に与していない、なんてのは糞みたいな建前だ。
裏ではきっちり地のマフィアに首輪を付けられて絶対に逃げられねぇ。
逃げたくても逃げられねぇんだよ…分かるか…?
マフィアの組員、表向きはギルド組合員という名前だが…それになると、しがらみが多くて、組合員の身動きは制限される。
そこで地の縄張りのマフィアは、非組合の組織を裏で作り、非合法な事を半グレ達に強要してやがる。
当然、表よりあくどい事だ。
俺は普通の組合員になりたかった。
でも…地のマフィアは決してそれを許そうとはしやがらねぇ。
ああ…?
他の縄張りに移動しろだぁ…?
そんなもんは塞がれてるに決まっているだろうが!
組織に属さない俺が生きるのに、地のマフィアを無視するなんて無理なんだよ。
飯は狩りや釣りでなんとかなる?
なら服は? 武器は? 道具は?
一人じゃ何にも手に入らねぇ…生きること自体が不可能なんだよ。
だから、俺は非組合員として、半グレのまま、薄暗い暮らしを強いられてた。
そんな俺は今、マフィアに呼び出されて事務所に向かっている最中だ。
「くそ! 性格の悪いクズ共が!!」
頭の中で、地のマフィアへの不満がマグマのようにグツグツと煮えたぎっていた。
非組合員がギルドの仕事を受けるのは禁止されていて不可能だ。
真っ当な方法で稼ぐ手段は地のマフィアにが握られている。
生きようと思えば飯がいる!
食わねぇと生きていけねぇし、飯を食うには金だ…金が必要になる!
つまり、金を稼ぐ手段…俺の命は地のマフィアに握られている。
考えると絶望だろ?
だから逆らえず、生きるために…地のマフィアの言いなりになるしかねぇ。
俺に回ってくるのは、表で扱えないような胸糞の悪くなる仕事ばっかりだ!
普通の感覚の奴が進んでやりたいと思うような仕事なんかじゃねぇ。
「ムカつく!ムカつくッ!!」
やりたく無い犯罪だろうが、やらなければ飯は食えねぇ。
自分以外を食い物にしか考えない、地の関係者には理解できねぇ感情だろうな!
だから誰もが一度は鞍替えを考える。
でもな…他の派閥マフィアに寝返るのは奴らが一番嫌がる事だ。
だから実行しようとすれば絶対に妨害されるし、バレれば下手すりゃ処理される事もある。
その処理を手伝わされた事がある俺が言うんだ、間違いねぇよ。
俺は、地のマフィアから逃げる選択肢を精神的にも奪われてんだ…。
地の連中の思考は、他に取られるくらいなら…という事らしいが、共感するのは地の連中だけだろう。
同じ穴の狢が集まって良いだの悪いだの言ってんだ、良くなる道理なんか1mmもねぇよ!
俺はそんな理解できない理由で縛られ、解放されずに縛り付けられてる。
お前なら、この状況で俺のように苛立たずにいられるか?
断言してやるよ。
苛立つか絶望して無気力になるか…そのどちらかだ。
今度は何をさせるつもりだ…?
ムカつく…。
あぁ…ムカつくッ…!!
これまでの経験上、呼び出されると確実に面倒事を押し付けられている。
それが分かっていても行くしかない。
それが余計に彼の心を苛立たせていた。
「おいユーゴ!お前…最近上納金が少ないよなぁ?」
地のマフィアの事務所で、俺は早速詰められている。
俺は上納金を滞納も延滞もせずにきっちり支払ってるのに…だ。
ああ…ぶっ殺してやりてぇ…。
この野郎の言いがかりはいつもの事だが、いつもだから腹が立たないなんて事はねぇ…いつもだから余計に腹が立つんだよ!
恐らくこれが面白い挨拶とでも思ってやがる、そのくせ長引くと本気でそう思い出すから質が悪い。
だから、長引かせず流してサッサと終わらせるしかねぇ。
それより今回の呼び出しは何だ…?
「こ、今日は何を…?へぶっ…!」
早く終わらせたくて口を開けばこれだ…。
自分の気持ちと裏腹に、地のマフィアどもに躾けられてビビリ倒してやがる!
笑いたければ笑え…でも、お前が同じ立場なら俺と同じようになる。
やれるもんなら見せてみろよ…。
勝手に怯える身体で…どうやっても反抗できやしねぇ…。
顔面を殴られても、腹が立つより先にビクビクしちまう…。
暴力が理不尽だろうが、それを咎めるだけの力も度胸も、そして権利すら…どうせ俺には何も無ぇんだよ。
くそ…!
なんでこんな…。
俺は情けなくなって怒りが萎み、自分が従順な犬に成り下がっていくのを感じる。
あの日…甘い言葉に騙されて、正規のギルド組合員ではなく、非正規の半グレ契約を選んでしまった。
あの時の俺をマジでぶん殴りてぇ…。
「おいお前…水の派閥から組合員をぶん取ってこい」
痛みに蹲りながら、過去を後悔している俺の頭上から、奴はとんでもない言葉を投げつけてきやがった!
他派閥からの引き抜きは『ご法度中のご法度』のはずだ。
バレれば俺はただでは済まないだろう。
死…死ぬ?
それも只の死じゃない、早く死にたくなる死だ。
え…!?
水の派閥…?なんで…?
それ、ヤバい案件じゃ…!?
「あっちの人員を減らせば俺達の力が強くなるし、入る金も増える。まぁ、お前には関係ないがな」
明らかにヤバい案件だが、ユーゴは現実からいったん目を逸らした。




