表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/115

25の2 カルルの憂鬱…②


「今まで俺が稼いだお金と、ミカド達が稼いだお金…。これを合わせたら白金貨2枚くらいあるんだけど、今回はこれを相手の男に渡そうと思ってる」


エニアから『私のコーヒーは淹れてくれないの?』という無言のプレッシャーを感じながら、ロスは話を進める。



「えぇ!? お金を渡すのかよ!? 相手って、どうせ詐欺師だろ!?」


「そうだ。でも先ずは落ち着いて聞け」


お金を支払うと聞いて、ホセが納得できるはずも無く、感情のまま不満をぶちまけだした。

ホセが不満に思っているのは、お金を渡す事では無いのだろう。


問題は渡す相手…。


ホセの性格を大方把握しているロスは誤解無く不満を受け入れた。

こういう時のホセは無視するに限る。


下手に反応すると面倒になるという事を、ロスも学習しているのだ。



「でも、向こうは白金貨5枚って言ってるんだよね?」


「そうらしいね? だから白金貨2枚だと絶対に納得しないだろう…。けど、少し待つなら別の日に白金貨5枚追加で払えうって言ったらどうだ?」


相手はどうせ嘘つきの詐欺師……。

納品も支払いも、どうせ全部嘘だ……。


だったら旨い儲け話には必ず乗ってくる。


「当然食い付いてくるよな?」


「…………」


追加で白金貨5枚と聞いて、ホセに続いてミカドも不満そうな顔になった。

ちなみにエニアは、ロスがコーヒーを淹れなかった時からずっと不満そうにしている。


ロスたちが持っている白金貨2枚は、この約1ヶ月間に稼いだお金だ。

つまり、残りの白金貨5枚は3ヶ月あれば十分稼げる。



「ミカド達にはこの白金貨5枚を稼いで貰う。3ヶ月以内…出来るよな?」


現実的な数字だし想像しやすいだろう…。

貯めたお金の大半はミカド達の稼ぎだから反感を買うと思うけど…。



「不満があるのは分かってる、でもミカドも最後まで聞いてほしい」


ロスの稼いだお金はザハグランロッテに惜しみなく使われるので、実は手元にあまり残らない。


ここにある白金貨2枚分のお金は、ほぼミカド達の稼ぎだった。


これは言えないけどね…。



「ちゃんと説明するし、まだ話も途中だから…そんな顔すんなよ。ちなみに白金貨は、1枚も相手に渡すつもり無いからな」



「え…!? それってどういう……?…??」


不満が大き過ぎたので、不満の原因を先に潰すことにした。

白金貨を渡さないと聞いて、ミカドは驚いた後に頭を混乱させている。



「ははーん?さてはロス兄…また悪い事考えてんな?」


何も考えていないし、何も分かっていないであろうホセが、なぜかドヤ顔で知ったかぶっている。



「そうだなぁ…相手の男が詐欺師じゃ無かったら、俺のやろうとしてる事は悪い事かもな」


まぁ心配無いだろう…。


相手が素人だったなら、ロスに出来るのはお詫びに旅の道連れにすることくらいだろう。

詫びというか嫌がらせみたいだな…。



「それから、白金貨を渡さないから、荒事が起きる。荒事はお前らに手伝って貰うからな」


ロスの悪巧みと聞いて、ホセが見るからにワクワクし始め、ミカドも姿勢が前のめりになっている。



「俺の考えた作戦で、お前らには悪人になってもらう。じゃないと俺だけ凄ーく性格が悪いみたいで不公平だろ?」


ロスの言い分に、ミカドとホセが微妙に嫌そうな顔をしている。


人に面倒を丸投げしておいて、自分達は手を汚さない…?

そんな甘い汁は吸わせないよ…?



「相手が糞なら、甘い正義感なんか糞の役にも立たない。世の中の厳しさをついでに学ぶといい。地の街仕込みの本物を見せてやろう」


ロスは悪い顔を見せながらミカドとホセを脅しつけた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「じゃあもう一度、最初から説明するぞ?」


「俺達(ほぼミカド達だが)の稼いだお金を、カルルさんと旦那さんから相手に渡す。お前達の楽しい仕事はそこからスタートだ」


楽しそうなロスとは対照的に、ミカドとホセは嫌な顔をしながら段々元気が無くなっていく。



「そんなにビビるなよ、相手が詐欺師なら罪悪感も無いだろ?」





「〜〜と、いう感じ」


説明を終えるとエニアがパチパチ手を叩いて称賛してくれた。

ミカドとホセは、かなり引いているようだ。


地の街で生まれ育ったザハグランロッテは何一つ驚いていない。

それどころか『甘いわね……これだけ?』等と言って更にドン引きさせていた。



「じゃあ、そろそろ俺達はカルルさんの家に向かうから。いま話した作戦、ミカド…ちゃんと把握しておけよ?」


ホセもエニアも頼りにはならない。

これはミカドの仕事だろう。

まだ呆けているミカド達を残し、ロスはザハグランロッテと一緒に、カルルの家に向かった。




さて……。

旦那の方は大丈夫なんだろうか……。

トラブルが起きてから、恐らく1人で悩みまくったはず…。


強烈なストレスを抱えて、カルルと娘の前では気丈に振る舞う旦那さんの姿が思い浮かぶ。



「はぁ…お前は何でそんなに面倒事に首を突っ込むのが好きなのかしら」


隣を歩くザハグランロッテが、呆れた溜息をつきながら嘆いている。


顔に出ていたのだろうか。

突然ザハグランロッテからそんな指摘をされた。



「いや…どちらかと言えばあまり関わりたく無かったんだけど…」


カルルの匂いに惹かれて決めた…とは言えず、ロスは歯切れの悪い答えしか出せなかった。



「お前が失敗したら私はどうなると思ってるのかしら…?」


意地悪な質問をぶつけてくる。

これは、ロスが嫌がる事を知っていて投げてきた言葉だ。


どうもならないよ…。

絶対に失敗させるつもりは無いから…。


今回の件が失敗すれば、ザハグランロッテも危険に晒される事になってしまう。

だから、本当に今回も関わるつもりは無かったのだ。


理性を飛ばすくらい訴えかけられたからなぁ…。


あの時のカルルと、その匂いの記憶が刺激され、ロスの鼻がピクピクと動いていた。



「そうやってスケベ心で私を蔑ろにするのね」


「そ、そんな事ないよ!? 俺はザハグランロッテちゃん第一主義だから! あ、そうだ喉渇いてない?あの店で飲み物でも買おうよ」


見透かされている…!


後ろめたいロスは、強引にザハグランロッテの手を取って店に向かって歩き出す。


誤魔化そう…!

あれは気の迷いだから…!

いや、気の迷いでも良くないけども…!


だけど…街を出る前に…世話になったカルルに恩返しもしたいし…。


性欲に流されて首を突っ込んだ。

だけど、それだけでは無い。


俺…綺麗事にも流されてるのか…?

これは…良くないぞ……。

この世界は優しく無い。

綺麗事に流される人間は、いつか騙され搾取される。


性欲に流され、綺麗事に流され、全然冷静に判断ができていなかった。

このままではザハグランロッテへ、いつか危害が及ぶかもしれないと思った。


それは絶対に防がなきゃ…。



「そんな顔をしても、お前の顔は残念なままなのだけど?」


「そっかぁ…!でも…いま気が付けて良かったよ!!」


彼女の冗談にロスは別の意味を乗っけて返事をした。


彼女を守りたいのに、そのために必要なものを、気が付かないまま無くしそうになっていた。


次から気を付けよう…。

もう、何度目になるか分からない反省をした。


仕切り直さなきゃ…。


気が付いて仕切り直したくても、既に起きたことは無かった事にはならない。

今はとにかく…カルルの問題をきちんと解決しないと…。


頭の中で何度もシミュレーションして、十分解決できると確信はしているが…。


大丈夫…上手くいく筈だ…。


それでも、失敗したらザハグランロッテに不利益をもたらす。

そのリスクをロスは拭いきれない。

不安は残る。


繋いだ彼女の手、伝わる温もりがロスの不安を大きくしていた。




太陽が地平に隠れて街全体を紅く染め上げている…これから段々と暗くなり、やがて夜になるのだ。


夜の闇は心を不安にさせ、恐怖を呼び起こす。


ロスは今、カルルの家に着いたロスはドアをノックして反応を待っている。

ドアの向こうからトタトタ音が響いて近づいて来る。



家のドアがガチャリと開き、カルルが顔を覗かせた。


「ごめんねぇ。こんな遅くに…」


顔を見るなり申し訳なさそうに謝ってくる。

その顔は目元が腫れており、だいぶ泣いたのが見ただけで分かる。


それでも、カルルの出す雰囲気は柔らかく、旦那から叱られていないのが見て取れた。


家族がいれば夜の不安は克服できる。


この家は、カルルと旦那と子供が不安から守られる空間だ。

そうやって作った安心できる居場所がいま、危険に晒されているのだ。



「大丈夫だよカルルさん。半分以上マスターのせいだから、それより、旦那さんは居る?」


この家を必死に守ろうとしている人…。



「うん。仕事に行こうとしてたけど、ちゃんと家に居るように言ったから…今日は…。あ、中…入って」


カルルはザハグランロッテを見ながら恐縮した様子を見せる。

恐らく、普段は客と店員の関係なので遠慮があるのだろう。



「うん。お邪魔します」


カルルの家はこじんまりとしているが、細かい所まで手が行き届いているのが分かる。

旦那の仕事が大工という事で、機能性に優れているように見える。


綺麗好きなんだな…お?

通されたダイニングの奥に、カルルの娘らしき子供が、こちらを恐る恐る見ていた。



「やぁ、こんばんは」


ロスがにこやかに挨拶すると、子供はビクリと反応して顔を引っ込めた。



「子供から見ても不審者なのね…」


「ちょっとザハグランロッテちゃん? あれは人見知りなだけでしょ」


何でもかんでも俺の顔のせいって訳じゃ…子供だしよくある反応…。



「俺のせいじゃ無いよね…?」


不安になったロスはカルルに尋ねてみた。


「あの…例の男の人にぶつかってから他人を怖がるようになっちゃって…」


「ほら!俺のせいじゃなかったよ!?……ああ良かった…!」


参ったな…空気を和まそうと思ったのに…。

トラブルのせいで、どこもかしこも地雷だらけだ…!



「呼んで来るから、座って待ってて…」


カルルは、ロスとザハグランロッテに椅子を勧めて旦那を呼びに行った。



「なに…?ザハグランロッテちゃん…」


「…べつに」


ジトっと見てくる彼女に、ロスはどうしたのかと尋ねてみたが、予想通り何も答えてはくれなかった。


ロスとしては、彼女の不満は全て把握しておきたいのだが…。


そんな事を思っていると、ダイニングに男が入って来た。



「…こんばんは。初めまして、俺はカルルの…妻の夫、シークスだ」


この仏頂面がカルルの旦那か…。

これが普通なのか、それとも余裕を無くしてこうなっているのか…。


「ども、カルルさんと一緒のカフェで働いてるロスです。んで、こっちは監督のザハグランロッテちゃん」



「…監督?」


ザハグランロッテの口から疑問が漏れる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。




■内容はほぼ同じですが、性的描写を省いていないバージョンです


【R18】因果の否定、混沌の世界でハッピーエンドを渇望する物語



― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ