25の2 カルルの憂鬱…①
6月下旬から7月上旬
まぁ十中八九、相手の嘘だろうな…。
カルルの話を聞いたロスの感想である。
「それで? カルルさんが相手の言い分に折れたのって何で? 相手の男が強そうだったとか?それとも単純に話し合いが無理だと思ったから?」
ロスはカルルから相手の情報をなるべく聞き出そうと考えている。
「うわぁ…ロス兄、普通そこはもっと優しくするのが人として大事なんじゃねぇの…?」
こいつ……。
ホセにだけは普通とか言われたくない…!
「うるさい! 文句があるならお前が何とかしろよ!! まったく…」
「仲が良いんだねぇ」
「えぇ…そう見える!?」
このタイミングで仲が良いと思われるのは、なんだか釈然としなかった。
「ああ違う! そうじゃなくてカルルさんは何で折れたのかって話!」
「あ! そうだった! えっと…凶暴というか得体の知れない怖さ…かな。雰囲気があって…娘は泣きじゃくるし、私も怖くって…」
カルルはこう見えて物怖じしない方だと思うけど…それでも引くとなると、相手が荒事に慣れている気がするな…。
旦那の方は現場を直接見てないし、当事者だから強く出られないか…。
自分の立場だと当事者だから出来る事も限られる。
時間稼ぎの種銭を作るのが、精一杯って考えたんだろうけど…。
頑張ってると思う…思うけど……。
いや…カルルを怒らなかっただけでも良い人なのは間違いないし……。
カルルの旦那に対して、良い印象と物足りない印象が混在する。
ただ、部外者が責めるのは違うと思った。
「カルルさん、良い旦那さんと一緒になったね。話を聞いただけでそう思ったよ」
「…!?」
問題の解決とは関係ない言葉だった。
ロスの言葉に、カルルはポケッとした表情を見せたかと思うと、そのまま涙をポロポロ流し始めた。
ずっと悩んで、それでも自分の性格上、努めて明るく気丈に振る舞って来たのだろう。
そんなカルルに、ロスの言葉は優しく染み込んでいった。
ポロポロ、ポロポロと…。
声を殺しながら見せるその姿は、喋り好きで明るかった彼女の姿と同じ人とは思えないほどか細く見えた。
「お前……泣かせるとか…最低ね」
ロスは困った顔をザハグランロッテに返す。
今回ばかりは彼女の言葉を、ロスは否定できなかった。
解決していないのに気を緩ませるのは良くないけれど、カルルは不自然に気丈だった。
このまま進めたら、彼女は解決の前に潰れてしまいそうな気がした…。
だから…ロスは意図してカルルの緊張を緩めようとした。
「いや、最低なのは否定しないけどさ? でも不安ばっかりだとつらいでしょ……ザハグランロッテちゃんはどう思う?」
「そうね…そんな有様の小娘がここまでどうやって脳天気に生きて来られたのか不可解だわ」
おっと…。
今回は意見を聞くのを間違えたようだ…。
それに前から思ってたけど、小娘って…カルルはザハグランロッテちゃんより歳上だよ……?
「それはね、ザハグランロッテちゃん。ここが地の街じゃないからだよ」
「そう、軟弱な街ね…」
地の街の常識がおかしい…これで納得してくれただろうか…?
幸いカルルは感情が決壊している。
こちらの話はまともに聞けてはいないだろう。
それにしても、泣いてる女性を見ると…こう…何ていうか…一人でいたザハグランロッテちゃんを思い出して庇護欲が刺激されるな…。
「カルルさん心配しないで、ちゃんと解決してみせるから。それから、旦那さんにも会わせてほしいんだ」
一度抱えていたものを吐き出して、その上で安心していいと伝えた。
自分は微力だが、多くの協力者が付いて、カルルも少しは心強いだろう。
カルルはたぶん大丈夫…。
疑問は一緒に考えれば良い。
暴力からも守れるだろう。
それより…旦那の方が心配だ…。
助けるなら全部…旦那と子供まで丸っと助けないと…。
「お前らも手伝えよ」
ロスはミカドとホセを見ながら、断りにくい雰囲気を作り、当然の様に言い放った。
「おぉ…? もちろん! ていうかロス兄、俺達が手伝わないと思ってんのか?」
『嘘だろ!?』という顔をしながら、心外そうなホセを見て、思わず失笑が出た。
コイツは良い奴だからな…。
「じゃあ早速取り掛かろう。カルルさんは家に帰って旦那さんに話を通しておいて。後で家に行くから詳しい話はその時にしよう」
「…うん…。でも…本当にいいの…? 迷惑じゃない?」
「ははは、大丈夫だよ。ちゃんと俺達にもメリットはあるし、それに…俺は相手も含めて全部丸く収めるつもりだからさ」
今回の件、手打ちにすれば誰も損はしないはずだ…。
「…分かった」
カルルから、どうやって解決するのか聞かれたが、それは話す事ができない。
知っていたら支障が出ると言って、納得させた。
それからしばらく、カルルが落ち着くのを待ってからマスターに声をかけ、ロスはカルルを先に帰らせた。
「あのさマスター? 今回の件が終わったら、今度は俺の頼みを聞いてもらうからね?」
カルルを帰らせて、ロスはマスターに要求を出した。
事情を聞くというマスターの頼みは達成したのだ。
そのくらいの権利はあるだろ…?
「はあ!? 何でだよ!」
マスターは分かりやすく警戒している。
「そんなにビビんなくても料理の片手間で出来るくらいの…大それた頼みじゃないから大丈夫だよ」
「そ、そうか? なら聞いてやっても良いが、金なら貸さんぞ!」
「違うわ! 俺達も、もう帰るから約束忘れないでくれよ!」
カフェ『木かげ』はこの後、酒場モードになる。
これ以上店にいては営業の邪魔になるだろう。
まだ威嚇しながら警戒しているマスターに呆れながらロス達は店を後にした。
「さて…作戦の話をしようか」
ロスはカップにコーヒーを淹れ、香りを楽しみながら話を切り出した。
やはりコーヒーは良いな…!
「危ない事になる?」
揉め事に首を突っ込むのだから、当然危険な事も起こり得る。
ミカドが心配するのもおかしくはない。
「いや、作戦は簡単だし大して危なくは無いはずだよ?」
コーヒーの入ったカップをザハグランロッテの前に置きながら、ロスは彼女に向かって少し笑ってみせる。
幸せだなぁ…。
ロスがきちんと説明をする理由。
それはザハグランロッテに疑問を抱かせたり、不安を感じさせないためだ。
「そう、なら良かった」
ミカドの安心する様子を見ながら、自分のコーヒーをテーブルに置き、ロスは少し考える。
今回は少し暴力的に解決しようか…。
全員で悪い事をすれば結束力も高まるしな…。
良いことではないが、これから長い間同じ目的を持って行動していくのだ。
だからこの機会に結束力を高めるのは悪くない、そう思った。




