25 いつだって振り回される側なんだ…②
オーナー社長であるマスターから頼まれたなら、雇われのロスにとって、決定権を奪われたようなものである。
そのマスターから伝わるのは、あくまでもカルルへの心配だった。
そして、それはロスも同じ気持ちを持ってはいるのだ。
弱ったな…これは断れないぞ…。
マスターには収納袋の協力者になってもらわないと困るし…。
誰に聞かせるわけでも無いのに、ロスは自分がカルルに関わる正当性、仕方無さを弁明する。
「わかったよ。でもマスター…あんまり期待されても困るからな…」
期待されても困る…これはロスの本音だった。
自分の力なんて高が知れている。
解決出来る可能性の方が低いだろう。
でも、今回は聞くだけだし…。
後はマスターが何とかしてくれるだろう……。
「わかってるよ! まぁ頼むわ! もし俺にも手伝える事なら教えてくれ! でも、お前の連れはずいぶん信頼してたけどな! 問題があればロス兄に任せとけば安心ってな!」
マスターの言葉の節々から『カルルの問題は任せた』という丸投げの意味が滲んでいる。
嘘だろ……。
ホセの奴、余計な……。
ホセの言葉を鵜呑みにしたマスターは、ロスに問題を丸投げして奥に引っ込んでしまった。
大人として、その行動はどうなんだと問い詰めたい。
え…解決まで俺の役割なの…?
悩みを聞くだけじゃなくて……?
え…待って? ならマスターは何をするんだ……?
『無責任』という言葉がロスの頭でぐるぐる回る。
自分で解決しないのなら、手を出すのは違うだろ……。
それ…ただの無責任じゃないか…?
マスターの行動は納得いかないが、カルルを心配しているのは本当だろう。
ロスだって心配しているし、他人に投げられるなら投げている。
そうか……。
マスターに先手を取られたのか…。
ロスがザハグランロッテを優先しようとカルルの問題から逃げた結果、それが上手く行かなかった。
大した事ではない。
けれど、マスターの方が今回は上手で…これが間違えられない失敗だったとしたら…。
想像しただけでブルリと震えた。
またしても間違えたのだ。
間違えたなら反省しなければならない…また間違えるとしても…。
「仕方ない、気は進まないけど…首を突っ込むか…はぁ、こんな事してる場合じゃないんだけどなぁ」
口では仕方無いという体を装うが、本音の部分ではカルルの悩みを解消してやりたいとも思っている。
いや、本当に…こんな事をしている場合じゃないんだけどなぁ…。
相反する気持ちを抱えたまま、面倒事を押し付けられたロスは、いったん落ち着きたいと思い、心のオアシスへと近づいて行く。
「お客様、何かご入用のものはございませんか?」
「丁度良かった。いま目の前にいるゴミを捨てておいて頂戴」
これこれ、やっぱこれだよな…!
あー落ち着く…!
俺はこの子を助けたいし守りたいんだよ…!
「その目の前のゴミ、貴女のものみたいですよ? あ、処理困難物なんで適切な時まで保管をお願いしますね」
いつもの冷たい対応に、ロスは心から癒やされていた。
もういっその事、ずっと罵倒されていたいとすら思うほどだ。
「……まあいいわ」
思ったより罵倒が続かなくて物足りないロスは、彼女が何も言わないうちからロスはテーブルを拭き、冷めた紅茶を淹れ直し、甘いお菓子を追加する。
「お前…また余計な事をしているんじゃないでしょうね…」
訝しげな眼差しで見られたロスは、ギクリとしたが、嘘にならない程度にやんわり伝える。
「いや、ちょっと同僚の子がさ? 様子がおかしいからって…マスターが! マスターが! だよ? マスターが気になるから話聞いとけって言ってて…」
あくまでマスターのお願いだと強調して責任を押し付けようと試みた。
彼女の様子を恐る恐る見ていると「あのゴリラにも今度教育する必要があるようね」等と不穏な独り言を呟いている。
ザハグランロッテちゃんなら…。
本当にやりかねない……。
「い、いやいや! ちょっとだけ! 先っちょだけ話を聞くだけだから! 後はマスターの責任だから!!」
ザハグランロッテは時々予想を超えた行動力を見せるが、今まさにそんな雰囲気に見える。
事が大きくならない様に、ロスは彼女の機嫌を取る必要を感じた。
でも…今は仕事中だしな…。
どうしたものかと悩んでいると「ロス兄いるー!?」と、聞き馴染んだ声が聞こえた。
別の問題児の登場である。




