表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/115

24の2 足りないもの

6月中旬


翌日、ロスは努めて普通を装った。

ザハグランロッテの変異など、絶対に受け入れられないと思いながら。


いま必要なのは落ち込んだり絶望することでは無い。



「よーし! 立ち止まっていたら何も解決しない! だから…ザハグランロッテちゃん…作戦会議を行います!!」


目の前にいるザハグランロッテを、ロスは不安にさせたくなくて、ロスは元気な姿を装った。



「それで?」


冷ややかなザハグランロッテはいつもと変わらないように見える。


けど、そんなわけ無いよな…。


当人では無いロスが、これ以上ないほど滅入っているのだ。

変異すると言われた本人が気にしない訳がない。


ロスは……昨日彼女が差し出した『震える手』が脳裏から離れない。

彼女にあんな思いをさせたくないと思って一緒にいるのだ。


約2年で変異…。


落ち込む暇は無いし、反省している時間も惜しい。

ロスは余裕の無い気持ちを前に向けようと必死だった。



「俺はザハグランロッテちゃんが魔物に変異しても愛でる覚悟が有る。だけど…やっぱり他の街に…完治を目指したい!!」


本当は、この水の街に生活基盤を作った後に、自由を楽しんでほしかった。

でも、こんなに状況が変わってしまったら…もう無理だから…。



「お前は…お前はそれでいいの?」


彼女の問いかけに、ロスは彼女の不安を垣間見た。

思わず…感情が爆発し、声が詰まって上手い言い回しが口から出てこない。


いったい俺は何をしてあげられる…?



「そんなの当たり前…約束したじゃんか、最後まで面倒見る、最後まで一緒にいるって」


「……そんな口約束、お前の顔と同じくらい信用できないじゃない」


ロスの悲痛さを含んだ本心を、ザハグランロッテはいつものように澄まし顔で軽く返した……つもりなのだろう。


ホッとしてる……?


彼女の感情が、ロスの心を揺さぶる。



「うん。でも本気だから」


「お前は…バカだものね…」


「バカでもいい! 俺はザハグランロッテちゃんと一緒に居たい!」


アクエリアスの話を信じるなら、彼女が原型を留められる…そう明言できるのは二年らしい。


それならまだ猶予はある。

できるだけ早く準備して出発すれば十分間に合うはずだ。



「この街でしっかり準備して、それから出発しよう! 具体的には魔法の収納袋を購入します!」


魔法の収納袋とは、見た目は袋だが呪文を書き込んだ糸で編み込まれた高級の魔法道具である。


袋の一部が損傷しても編み込まれた別の呪文が欠けた部分を補完してくれる。


そして収納袋は別の場所に描いておいた魔法陣へと繋がる。

つまり、倉庫に必要な物を準備して置いておき、必要になったら収納袋に手を突っ込んで取り出す仕組みだ。


必要な物を手探りで探さないといけないのは結構不便だけど…。



「俺が絶対に…絶対にザハグランロッテちゃんの力になるから…!」


自分の決意が彼女に伝わっているのか分からなくて、不安が消えてくれない。



「ふうん。まぁ、お前が必要と思うのなら好きにすればいい」


「あれ!?思ったより反応薄い!?」


不安を隠そうと空元気を見せながら、ロスはザハグランロッテの本音が知りたかった。



「大丈夫よ。私は大丈夫だから…だからそんなに無理にテンション上げなくてもいいの…」


彼女を不安にさせたくなかった。

そんなロスの無理は彼女自身の手によって止められた。



「…ごめん」


「お前は別に悪くないわ」


「………………」


ザハグランロッテはロスの空回りを責めなかった。

けれど…それを悟られ、あまつさえ気を遣わせてしまった。


完全な失敗だ。

だから情けなくて、申し訳なくて…何も言葉が出て来なかった。


そんなロスに向かって彼女は続けてこう言った。



「それに、あの時と違って今回は始めからお前が居るでしょう…? あの街から出る時と比べれば、最悪なスタートでも無い…。それに、お前が何とかするのでしょう?」


「………うん。…なんとかする。俺が…俺がなんとかするよ!!」


自分でも単純だと思った。

彼女から少し期待されただけなのに…それだけで…それだけでこんなにも力が湧いてくるのだから。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「という事で…俺達も正式に別の街を目指す事にしたから」


本当はここでお別れするつもりだったミカド達に、ロスはそう宣言した。



「…ええ!? は?あっ?え!? どういう事…? 今更なんでそんな………?」


ホセが想像以上に驚いて、それから嘆いて……それが少し嬉しかった。


「はぁ…あのなホセ。ロスさんは、水の街に残るつもりだったんだよ。そんな気はしてたけど…」


ホセの事はミカドに任せ、ロスは紅茶を用意し、ザハグランロッテとエニアに差し出した。


「はあ!? 何でだよ! 一緒に行くんじゃないのかよ!!?」


「それは一緒に行くことになっただろ」


「………そっか…。なら何が問題なんだ…?」


「問題は無いってことだよ」


「何だ、問題無いのか。焦って損したな!」



「お疲れ、コントは終わった?」


ミカドを労いながら、少し薄くなった紅茶をミカドにも差し出す。


「何か疲れた…。ホセの相手は疲れるんだから、ロスさんの不始末なんだから自分で相手してよ」


「悪い悪い、流れで任せそうだったから、ついな…」


そう言いながら、更に薄くなった紅茶をホセに差し出した。



「サンキュー、ロス兄!」




「でも、やっぱりミカドは気付いてたんだな」


「…まあね。でも、そうだったとしてもこれは俺の問題だから…」


無意識に見せるミカドの思いつめた顔が、ロスの罪悪感を抉る。



「薄っすッ!? 何これ!? ロス兄! 何かこの紅茶めっちゃ薄いんだけど!」





「で…勝手で悪いんだけどさ、俺達も同行したいんだよ」


「…いいよ。ていうかそうとしか言えないの分かっても頼んでるでしょ?」


「性格が悪いんだよ…俺はさ」




「ねぇねぇ! ロス兄! この紅茶薄いんだってば!」


「…ホセ、うるさい!」


「は? いや待て、待てって…え、エニアま…ごほぉ……」





「…………。それで?ミカドはどうするつもりなんだ?」


ロスが気になるのは、同じように別の街を目指すであろうミカドの考えだ。



「俺はやっぱり直ぐにでも出たい…だけど無計画は流石に無謀だし…」


ミカドはそこまで口にしてからロスの目をチラリと見た。



「そんなに期待の目を向けられてもな…昨日まで、ここから動くつもり無かったんだぞ」


「でも、何かは考えたんでしょ?」


こいつも狡猾になってきたな…誰に似たんだ…?



「必要な物はいくつか有るな。で、手に入れるのに金がいる。だから、俺の案だと直ぐには出られない」


「それを手に入れてからで間に合うの?時間で言えばロスさんの方が急いでるんじゃ…」


「そうだなぁ…たぶんギリギリかもしれない。でも、失敗したら全部が無駄になる…それは避けないと」


失敗…それは絶対に許されない。

ロスは覚悟が決まり目が据わった。


それを見て、ミカドはそれ以上の質問を止めた。



「次は北に向かう。時期的に寒さ対策が必要だろう」


地の街はロスの都合で近寄れない。

向かう先は北…雷の街しかない…


「雷の街って今もあんの? 確か精霊石はもう無いんだろ?」


エニアにふっ飛ばされていたホセが、聞き齧った話を思い出しながら会話に加わってきた。



「街と呼べる規模では無いって聞くな。人はまだ住んでとか住んでないとか、聞く人によってバラバラだ…けど、大精霊が居るのは昨日確信した」


雷の街までは街道沿いの宿場町もあるという話だ。

地の街から水の街に来たときほど危なくは無いはずだ。


それでも彼女と2人で旅に挑むより、ミカド達も居てくれた方が安全だし、早く着けるはずだ。



「私は何をしたら良い…?」


エニアも協力してくれるようだ。


大丈夫とは思っていたが、ミカド、ホセ、エニア、3人の同意を得たロスはほっと胸を撫で下ろした。


ここまでロスはミカド達を利用する為だけに関わりを保ってきた。

だから不利益になるならいつでも見捨てるつもりだった。


だから不安だったのだ、自分の本心が見抜かれていたのではないかと。


奇しくも蛇ちゃんの治療とザハグランロッテの治療…同じ目的を持つ事になった。


だから今…今が初めてだった…初めてロスがミカド達を仲間として認識した時だった。



「ありがとう…」


「なんでお礼!?」


突然ロスが口にした礼に、ホセは意味が分からなくて一人であたふたしていた。



「それで具体的にはどうするの?」


ミカドが逸れていた本題についてロスに意見を求めてきた。



「正直俺も、ミカドと同じで直ぐにでも出たいと思ってるんだけど、ここで1ヶ月は金を稼ごうと思う」


物が無いと失敗する…。


「安全に行くにはどうしても魔導具の収納袋が欲しい。あれは高いから1ヶ月頑張ったところで手に入れるのは無理だろうけど」


そう、魔導具の収納袋…。

アレが絶対にいる…。



「でも、頑張ってもお金が足りないんじゃ…何か良い策があるの?」


ロスの様子から、解決策は持っているのだろうとミカドは推測していた。



「これだ…!神殿に行った時、ドサクサに紛れて寄付しなかったんだよ」


「小狡いわね」


ザハグランロッテちゃんから褒められた…。

褒められてないのだが、本人は褒められたのと同じくらい喜んでいる。



「まぁ、1ヶ月くらいなら…ロスさんも本当は早く出たいのに、それを我慢するくらいのメリットがあるんだろうし」


やはりこの3人の中だと、ミカドが一番話がわかるな…。



「助かる! ミカド達は引き続き狩りで稼いでくれ、稼ぎは少ないんだが、俺も引き続き今の場所で稼ぐから。あ、先に伝えとくけど俺の職場は、頑張れば旅の時に絶対役立つから」


金を稼ぐのに何の理由も無しに安い賃金の仕事してたら反感買うからな…。



「ロス兄が何か企んで行動するのなんかいつもの事だろ?」


人聞きの悪い言い方だがホセなりのフォローなのだろう。


「それじゃあ旅の準備と、目的の達成に向けて頑張ろう!」





夜…ロスはベッドに寝転んだまま天井を眺めている。


失敗は許されない…。

旅は危険だ…。

凍える寒さが来る…。

ミカド達は俺より強い…。

ザハグランロッテちゃんは一番か弱い…。

俺が役立たずだと守れない…。

時間は間に合うのか…?


悩もうが、不安だろうが、力不足だろうがやるしかない…

頭の中の雑念を抱えたまま、ロスは丸まって眠りにつく。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。




■内容はほぼ同じですが、性的描写を省いていないバージョンです


【R18】因果の否定、混沌の世界でハッピーエンドを渇望する物語



― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ