24 アクエリアス…①/③
24 アクエリアス
6月半ば
「リヴァイアス…その人達は誰ですか?」
鈴のような澄んだ声が静寂な神殿の中に響いた。
透き通るように澄んだ肌色と容姿に、ロスは言葉もなく見惚れてしまう。
リヴァイアスにも似たものを感じるが、リヴァイアスの場合、男性の姿であったり性格面がぶっ壊れていたりで綺麗とか美しいの前に嫌悪感が強過ぎる。
「これが本物の大精霊か…」
ロスの呟き聞けば、まるでリヴァイアスがまがいものみたいである。
失礼極まりない発言だが、初めての出会いから今日に至るまで、ロスは散々サイコパスな言動ばかり見せられている。
リヴァイアスに対して嫌悪感が強いのは仕方ないことだろう。
珍しい大精霊に目と思考を奪われていると、手に小さな痛みが走った。
「…いてっ!ザハグランロッテちゃん!?」
繋いでいた手が突然強く握られたのだ。
びっくりして、痛くないのにロスは大袈裟な反応をしてしまう。
「おお…なんだ女神か……」
つい本音が軽口として飛び出してしまった。
「なによ」
彼女から『文句でも?』という強い圧を感じた。
その強く可憐な横顔は、そこに転がっている大精霊なんかとは違い、現実の……確かな美しさがあった。
それを差し置いてよそ見をしてしまった自分は大バカ者だと思った。
綺麗で美しい顔をよく見れば、彼女が不満を抱えイライラしているのだと分かる。
感情を隠し、冷たく澄ましたいつものザハグランロッテの顔だ。
感情を隠さず怒る彼女を愛おしいと感じた。
繋いだままの手をニギニギ動かして実感する。
うん、アクエリアスよりザハグランロッテちゃんの方が間違いなく素敵だ……。
アクエリアスは確かに綺麗だけど…あれは絵画と同じ…。
ただ芸術的に美しいだけ…。
「やあ、アクア。くふふ…。君への客を招待したんだ…くふふ…」
「お前が招待した者が、なぜ私の客になるのだ?」
やっぱり何も聞いてないのか…。
元々信用していないので、リヴァイアスが説明しているとは微塵も思っていなかった。
ある意味予想通りの展開に、ロスは嫌な予感がした。
このままリヴァイアスに説明をさせるのは得策では無い気がする…。
ロスの直感は、リヴァイアスを黙らせろとビンビンと反応している。
「アクエリアス様…で、よろしいんですよね?」
会話に割って入ったロスに、アクエリアスの視線が向いた。
全てが儚く神々しい…。
今までに感じたことのないプレッシャーがロスに押し寄せ、心が怖気づくのを感じる。
だけど…。
ロスは繋いだ手の温もりから覚悟が固まっていく…自分のやるべき事をやりたいと思った。
ミカドや蛇ちゃんのためというのも嘘ではない…けれど。
俺は…ザハグランロッテちゃんに良いところを見せたい……!!
「あの…今日はアクエリアス様にお願いがあって…それでここまで来ました」
「はぁ…そうか…お願いか…」
アクエリアスはお願いと聞きリヴァイアスを冷たく睨みはじめた。
それだけで、これまでリヴァイアスが原因の面倒が数多くあったのだろうと想像がついた。
うわぁ…凄く面倒そう……。
でも…とにかく聞いてもらわないと……。
「実はこい…リヴァイアス…くっ…様…から、この子を人型に戻せると聞いて…ふぅ…それで今日はここに」
リヴァイアスを様付けするのに、どうしても抵抗を感じる。
思った以上にリヴァイアスへの嫌悪が増しているようだった。
「…そうか、こい…リヴァイアスに…」
リヴァイアスを『こいつ』と呼びそうになったのを真似され、ロスは警戒心を強めた。
俺の失言を責める気か…?
謝った方がいいのか…?
ロスは判断に悩み、少し考え込んだ。
どうする…?
どうしたらいい…?
「それで? お前はこいつの言うように、この蛇を治せるのかしら?」
『お前』に『こいつ』。
ロスがもたもたしていたせいで、ザハグランロッテの口から無慈悲な言葉が飛び出してしまった。
リヴァイアスにならともかく、アクエリアスへの不敬はマズイ気がした。
「あぁ!すみませんッ!」
慌ててロスは謝った。
手遅れかもしれないが、ザハグランロッテだけは守りたい。
そんなロスに、彼女はいつもの澄まし顔のまま、冷めた視線を向けてきた。
「お前は何を謝っているのかしら。意味もなく下手に出るのはやめなさい」
「えっ…でも」
「黙りなさい。私たちは相手が大精霊だろうが下に付いているわけじゃ無い。むしろゴミに一方的な迷惑をかけられたのよ。この女にはリヴァイアスへの責任を取ってもらう」
ビシッと言い切ったザハグランロッテに、ロスは何も反論できない。
確かに、彼女の言い分は一理あるのだ。
「お前の躾が悪かったせいよ…迷惑をかけたのだから誠意を見せなさい」
自信たっぷりに言い放つ彼女の姿はとても凛々しくかっこよかった。
でも…チンピラみたいだよザハグランロッテちゃん……。
一理あるとはいえ、このままだとアクエリアスが彼女に悪い印象を持つかも知れないと心配になる。
難しい時は、ザハグランロッテちゃんの事を一番に…それ以外は二の次だ…。
一番なんだ…ザハグランロッテちゃんの事を一番に考えないと…。
それさえ守れたなら、それ以外の事は失敗しようが成功しようがどちらでも構わないのだ。
しっかりしろ…。
「それで?出来るのかしら?それとも、そんな事も出来ないのかしら?」
アクエリアスに向き直った彼女は、再度問いかけた。
逃がすつもりが無いのだろう、質問というより詰問に近い。
ロスも自分が責められているようにハラハラと落ち着かない気分だった。
「貴女は綺麗な心を持っているのだな…リヴァイアスがやはり迷惑を…そこの、イビル種か………確かに、もう少し可愛く出来るだろう…」
「…え!? ザハ姉の何がキレイだって…!?」
ホセが何かに驚いているが、とりあえず無視でいいだろう。
それより、アクエリアスだ。
攻撃して来ない……??
かなり無礼な言動を重ねてしまい、アクエリアスが怒っても不思議ではないとロスは心配していたのだ。
リヴァイアスならもう貫かれてるよな…。
いや、リヴァイアスでも貫かれてないか…?
違うのは話がリヴァイアスより出来そうなところか…?
思ったよりまともなのか……。
攻撃されないだけでマシに見える…明らかにリヴァイアスの影響のせいだが、ロスは気がついていない。
「ザハ姉の心が……?この大精霊もやっぱおかしいんじゃ…」
ホセはまだブツブツ言いながら頭を捻っている…全く納得してないようだ。
黙らした方がいいだろうか…?
「良いだろう…詫びの代わりに続きは私の部屋で話すとしよう」
アクエリアスはザハグランロッテにそう言うと、先に歩き始めた。
「心がキレイは分かんねぇけど、大精霊相手にザハ姉…かっけぇな…」
ホセの呟きに、後半はロスも同じ感想を抱く。
「…これは、チャンス」
「…えっ?な、なに!?」
このタイミングで何を思ったのか、エニアはロスの腕を取り、ロスは困惑した。
え?、え…?
何がチャンス…!? 読めない…。
この子は本当に読めないな…。
それにしても…。
リヴァイアス、アクエリアス、それからザハグランロッテにエニア。
ホセもミカドも…みんな個性が強い。
それに比べて…。
俺は没個性……。
自分がちっぽけな存在なのだと、改めてロスは思った。




