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23 変化…③/③

翌朝…ロス達は準備を整え、神殿にいるアクエリアスに会おうと内郭に向かって歩いていた。


前向きになりたい気持ちと裏腹に、天気は生憎の空模様で少し気分が沈んでしまう。

幸先が悪い気もしたが、リヴァイアスの居る場所に自ら向かうのだ。


自分から運気を落としに向かってる様なものだなと、笑うしかなかった。


ああ〜今日もアイツに会うのかぁ……。


2日前に会ったばかりでペースが早い。

自分から理不尽に向かう姿は苦行と言えなくも無いのではないだろうか。


いや『理不尽に立ち向かう』じゃなくて『理不尽に翻弄されに』だから違うか…。





空模様と同じ憂鬱な気分で歩いても、進んでいれば目的地には到着する。

という事で、気がつけば目の前には内郭に入る門があった。



「よーし!じゃあ行くか!!」

ロスは空元気を出した。


状況が理想と違うからといって、気持ちを下げても良いことは無いだろう。

空元気だろうと、無理をしてでも気分を上げなければ…と思い、無理やり声を上げたのだ。


門番とみんなから胡散臭い目を向けられた。


ロスは何事も無かったかのように門番に愛想を振りまき、手続きを済ませ、結構な額の手数料を支払った。


神殿に行くからといって、本来は全員来る必要は無かった。

人数が増えれば、それだけ門で支払う通行料が増える。


かといって、置いていくのもアレなので今回は必要経費と考える事にした。



「こりゃ、迷いようが無いな!」

門を通ってホセが発した第一声がこれだ。


ホセの言うとおり、内郭を初めて見たロスも同じ感想を抱いた。


初めて……?

ロスは微かに違和感を覚えたが、それ以上は深く考えなかった。

どうせリヴァイアスが関係しているのだろう。


内郭の門を通ると、先はどでかい通りが直線で1本あるだけだった。

大通りの両端には、人が登れない高さの壁が延々と続いてる。


この壁は、内郭を守る塀の役割を担っているのだろう。

恐らくこの塀の向こう側にあるのが本当に内郭と呼ばれる街なのだろう。


外を拒絶…外角を見下すような造りは、内郭の性根が透けて見える気がした。


この中の連中も中々性格が悪そうだ…。


地の街の記憶と比較し、内郭の人間とは相容れないかもなと想像する。


所々、左右の塀を渡る大きな橋が架かっている場所も有るが、大通りから上ったり渡る事はできない作りになっている。


単に、この大通りを跨ぐ目的で架けられているのだろう。

こういう造りも、外郭と隔絶したい意思に感じる。


左右の塀には荷物の搬入口や、簡単な軽食が売られているだけで、宿屋は見当たらない。


ここで生活は不可能だな……。



「なるほどなぁ…内郭は外郭の人間に自分たちを養わせてるのか…」


ってことは、外郭を取り仕切ってるマフィアも内郭の人間だな…。


こういう考察も、覚えておくと後々役に立つことがある。

なので、些細な事でも見ることは大事なのだ。


歩きながら観察していると、外郭から来る商人は大通りの搬入口から商品のみを下ろしているのが分かる。



「大通りに見えてる店は全部問屋か…」


内郭に住む人間は外に出る事が出来るが、外郭に住む人間は中に入れない。


そういう仕組みが出来上がっているんだな…。



「内郭の人間は、外に追い出されるのを恐れるから治安も維持される…ってとこか?」


まあまあ考えられた街の仕組みに、ロスは感心していた。



「なぁロス兄、そんなのどうでも良くね?」


ロスの考え事をホセが止めた。

ホセは、全く興味なさそうにホセは頭をポリポリ掻いている。



「まぁそうだな! 関係ない! 俺達はさっさと神殿に向かおう!」


仕組みに感心はしたが、本当は、ロスも大して興味があるわけではない。

単に暇なのと、神殿…リヴァイアスという嫌なものから逃げているだけなのだ。


神殿かぁ……。


一番影響を受けるミカドは、下を向いたままずっと黙っていて何を考えているのか分からない。


ちなみにロス達は神殿以外に用は無いので、歩くのは大通りのど真ん中だ。

このど真ん中を歩いて神殿に向かう。


逆に、神殿に用の無い商人達は、壁際の問屋に用事があるので端を歩いている。

神殿に用があるというのは、つまりお金を納める人が通る場所である。


ロスの調べた情報によれば、ど真ん中を通るのは四属性派閥のマフィアが一番多いらしい。


そんなどうでもいい事を考えていたら、目の前に神殿があった。


はぁ…現実逃避も終わりか…。


神殿は、関わっても良い事が無さそうな案件だ。

この大通りに入る時、空元気でも…と、思っていたが、空元気すら無くなりそうだった。


どうせ碌な事にならない…。

そういう思いが頭の中から消えなかった。

不安に思うのは当然だけど……。


ここから大事なのはハッタリ…。

自信を見せないとな…。


目と鼻の先まで近付いた神殿を前に、ロスは再度気合を入れた。



外郭の街からでも見える大精霊の住む神殿。

近くで見るとアホかと思うほど大きく圧倒されそうになった。


門もデカい。

そのデカい門の左右に神官らしき人物が一人ずつ立っている。


大通りを半分くらい進んだ時に立ったので、普段は遠くから確認し、来客の時だけ立っているのだろう。


サボってんじゃねぇか……。



「そこの者、何用でここに来た」


神官の一人が仰々しくロス達に向かって質問を投げかけてきた。


どうせサボってたくせに、わざとらしいなこいつ…。


まともに話したくない相手だけれど、イラつきをグッと我慢して要件を伝える。



「…神殿に寄付金を持ってきたのと…大精霊様に会いに来ました」


「ほう、寄付金を…信仰深いのは感心なことです。では手続きを行いますので寄付金を出してお待ちください…」


こいつ…お金にしか反応してねぇな…。

大精霊の事はスルーか…?


ロスはミカドにお金を持たせると、神官の思い通りにはさせねぇぞと、もう一度声をかけた。



「それでですね、大精霊様に会いたいんですよ。取り次ぎをお願いします」


今度は明確に、1つだけの要求だ。

スルーはできないだろう……?


神官は面倒そうな顔をしたが、ミカドの持つお金をチラチラ見て、取り繕うような笑顔を見せてきた。



「大精霊様は非常にお忙しい方です。なので昨日今日会いに来たからといって、いきなり会うのは難しいでしょう。それよりも準備ができましたので寄付金をこちらへ…」


こいつ…。

お金に執着し過ぎだろ…。



「いや、俺達はリヴァイアス…様に言われて来てるんで、大精霊様に取次いで下さい」



「…リヴァイアス様に?………?」


神官がロスの言うことを信じられないのは、別におかしなことでは無い。

普通に暮らす普通の人が、大精霊と関わる機会など有りはしないだろう。


だから神官が胡散臭そうに、ジロジロと観察し始めたとしても、甘んじて受け入れる。



「……関係あるなら、なぜ?」

神官はブツブツと何か考えているようだ。


こいつ…。

いつまでジロジロ見るんだよ……。



「リヴァイアス様と会ったという事ですが、それなら五体満足なのは解せませんね…」


流石は神官…あのクソ野郎の事をよく知っているらしい…。

これはもう普通に通してもらうのは無理か…?



「そこのお前…。お前に用は無いの。さっさとリヴァイアスを呼びなさい」


ロスが悩み始めると、横から不遜な雰囲気と言葉が神官に飛んだ。

見なくても誰か分かるくらいザハグランロッテらしい言葉だった。


だよね…。

ザハグランロッテちゃんが我慢できるとか…うん、俺は思ってなかったよ…。



「ここは本当に神聖な場所なのかしら?お前のようなゴミが転がっているのだから程度が知れるわね」


彼女の遠慮ない言葉がグサグサと神官に刺さっている。

神官相手にここまで無礼な人は中々いないだろう。


最高だよ、ザハグランロッテちゃん…!



「目障りよ。消えなさい」


「神聖な神殿に仕える神官に向かって何て口の聞き方をッ!」


わなわなと震える神官。

よく見なくても怒っているのが分かる。


お…? ゴミが怒ったな…。



「…ザハさん…?ゴミにだって小さな器とプライドはあるんだよ?」


ザハグランロッテを窘めるエニアだが、選んだ言葉が良くない…良くないと思うよ…?

俺は嫌いじゃないけど…。



「何言ってんだよ? プライドを入れる器? そんなもん無さそうだぞ?」


空気を読めないホセが真剣な表情で更に煽っている…しかし本人はきっと煽ったつもりは全く無いのだろう。


これは効きそう…俺なら腹立つな…。



「先程から何ですか!あなた達は!無礼にも程がある!!その寄付金を置いてさっさとここから帰りなさい!!」


ザハグランロッテだけでなく、エニア、ホセからも煽られ、神官は顔が真っ赤になっている。

かなり怒っている神官だが、それでもお金への執着は残っているのだから大したものだ。


こいつ…。

マジで金の事しか頭に無いのかよ…。


神官の態度はかなり悪い。

けれど、みんなが馬鹿にしながら煽り倒しているので、ロスは腹が立つ程度で済んでいた。



「そこのお前」


ザハグランロッテは、怒っている神官では話にならないと、もう1人の神官に話しかけた。

神官はビクッとして関わりたくなさそうに無言で顔だけ向けた。


あんまりザハグランロッテちゃんの手を煩わせるなよ……?



「私はアクエリアスに話があるのよ。呼んで来なさい」



「いや…でも…」


「呼びなさい」


仲間の神官が反対しているのに、大精霊を呼ぶのは中々気が引けるのだろう。

ザハグランロッテに冷たい澄まし顔で命令された神官は、狼狽えながら動けない。



「どいつもこいつも使えないわね」


心底呆れた感じのザハグランロッテに、ロスはもう苦笑するしかなかった。


せっかく気を使ってたのにな…。

これ、大丈夫なのか…?


先程からリヴァイアスの名前を何度も呼んでいるのだ。

アイツが気付かないのはあり得ない…。


ロスは神官の身は大丈夫なのか気になった。


そして、静かだが、側にいるミカドからは怒りの感情が見て取れる。

こっちの我慢も心配しなければならないのかと、ロスは少しうんざりした。


やれやれ…。


大精霊に会えなくて蛇ちゃんの人化が失敗しても他人事。

ザハグランロッテが危険に晒される可能性も低いだろう。


なので、ロスは余裕を持って見ている。



「貴様ら…!」


ザハグランロッテにゴミ認定された神官は、もはや完全にロス達を敵視している。


そもそも始めにお前がお金しか見ないで舐めた態度取ったのが原因だぞ…。

逆恨みすんなよ……。


自分を高尚だと思ってるだろうから、神官に言っても無駄だろうけどな…。



「さっきも言ったけど、俺達はリヴァイアスに呼ばれて来てるんですよ。だからリヴァイアスを呼んで来て貰えませんかね?」


「貴様! リヴァイアス様を何度も呼び捨てにするとは! 許せん!! 不敬だぞ!!」



「あんなクソ野郎に様付けするとか…お前本当に神官か…? 頭がイカれてんのか? リヴァイアスなんか呼び捨てで十分だろ」


ロスは我慢を止めて好きなように文句を言う。


しかし、その内心はビクビクしていた。

この神官達では埒が明かない。

ロスがリヴァイアスの名前を連呼しているのはそういう事だ。


いきなり攻撃とかやめてくれよ…?

これだけ名前呼んだんだから気付いてるよな…?



「暇なくせにアイツ…気取ってるのかしら?」


ロスの狙いを理解しているのだろう。

ザハグランロッテの怪訝な顔は本心からくるものだろう。


出て来ないリヴァイアスに対して、本気で無能なのでは…という疑問を真剣に考えているのだ。


相変わらず大精霊にも謎の強気…。

面白いけど怖い…。



「リヴァイアスの事だから、たぶん楽しんでるんだろうね…」


ロスはザハグランロッテの疑問に答えた。

こんな時でも彼女と話すのは嬉しい。

気持ちがスゥッと軽くなった気がした。



「もう許さんッ!」


適当に相手していた神官が、ついに不敬な態度だと本気で怒ったようだ。

腰にぶら下げていた剣を抜き、ロス達に向かって剣を構えた。



「神殿に対する不敬!私に対する侮辱!貴様らはここで裁く!」



「………あ…やっとか…」


ロスは既視感のある赤い光景に、小さく声を漏らした。


来るのが遅いんだよ…!

無駄に争う所だったじゃないか…!!



「ぐっ…!な、何で…!」


登場と同時に神官の手首を赤い杭が穿き、銭ゲバ神官を吊り上げた。


中々来ないとイライラしていたのが嘘のようにハラハラに変わっていた。

恐怖が埋め込まれてしまっているのだろう。



「このゴミ、やっと役に立ったわね」


ゴミってのはどっちに言ってるんだろう…。

神官…?

それともリヴァイアス…?


ザハグランロッテは辛辣な言葉を投げつけたが、これは冗談ではなく、やはり本気で思っている顔だとロスは思った。



「リヴァイアス、お前の言うとおりに来たぞ。蛇ちゃんの事、何とかしてくれるんだろ?」


銭ゲバで性格も悪い神官だが、ここまでされる程ではないとロスは思っている。

なので、サッサと話を進めて神官を解放してやろうと考えた。


このままだと落ち着かないし、心臓に悪い…。



「リ、リヴァイアス様…!?」

神官が苦悶の表情を浮かべている。



「さ、早速なんだけど、アクエリアスさんに会わせてくんない?」


余裕が無くなり、声が上擦ってしまった。


「おや…?…どうやら挨拶する相手を間違えたようですね…。くふふっ」


リヴァイアスの挨拶は、今は神官に向いている。

それはロス達の中で安堵となり、テンションを異常な形で上げている。


平常心が保てない……!


平気なフリをしようとも、リヴァイアスの存在はそれ自体が脅威なのだ。

意識しても平気ではいられない。



「あれはお前の所のゴミよ」


「ざ、ザハ姉…? ゴミとか酷くね?…それよりアクエリアスさんだっけ? 今日はここにいるの??」


この場にいる全員が、リヴァイアスに緊張している。

緊張のせいで、口から出る言葉も少しおかしくなっている。


ロスもその1人で、今はそれを表に出さないように苦慮している。


やっぱ、こいつはヤバい…。

関わりたくないわ…。

怖いし…。



「アクエリアスさんは、な、中にいるのか?」


お、落ち着かない…!

全然落ち着かない……!


そわそわして落ち着かないロスは、その場で話す気になれず、逃げる様に勝手に中に向かって歩き始めた。


この神殿の主のリヴァイアスがいるんだから…は、入っても良いよな…?


お、落ち着かない、早く済ませたい…。



「さ、さあ、お前もさっさと入ろうぜ」


強がりながら、話を進めようとロスは頑張っていた。



「くふふっ。まあ良いでしょう。それとアナタは全然面白くありませんでしたね」


穿いた神官に向かい、リヴァイアスは酷薄な声を鳴らした。

そして、リヴァイアスはロスの後を優雅に歩き、そして大きな扉の前に立った。


ロスはリヴァイアスを無視し、もう1人の神官に話しかける。



「だからこいつに呼ばれてるって言っただろ?さあ、ここを開けてくれ…」


顔が強張るロスを見ながら、もう1人の神官はコクコクと頷いて、素直に動いてくれた。


何を考えているのかまるで分からないが、リヴァイアスはロスの後ろに立って様子を観察しているようだ。


リヴァイアスの興味深そうな視線が、ロスを更にそわそわさせ、とても嫌な気持ちにさせる。


こっち見んな…!

興味を持つな…!

行動を読めない相手への恐怖は、簡単には拭えない。



「さ、さあ、ここからは、あ、案内してくれよ? 来たこと無いから、神殿の中なんて分からないんだから……」


リヴァイアスに先頭を譲りながら、ロスはザハグランロッテの隣に移動した。


ザハグランロッテちゃんの側で落ち着こう…いや…落ち着きたい…。

落ち着くために、彼女の成分をロスの精神が欲していた。



「ザハグランロッテちゃん…ちょっと手を繋いでもいい…?」


「お前が必要と思うなら好きにしなさい……今それが必要かしら?」


珍しく澄まし顔が崩れ、不思議そうな表情を見せている。


か、可愛い…。



「あ、うん……ちょっと落ち着きたくて……」


ロスの答えに、ザハグランロッテは『そう…』とだけ答えて大人しく手を繋がせてくれた。


いつもならエニアが対抗してくる場面だが、リヴァイアスが居るせいで動きが止まっている。

地雷娘とはいえエニアも余裕は無いのだろう。


ミカドが大人しくしているせいか、蛇ちゃんも動かずジッとしていた。


大人しくて助かった…。



「くふふっ。これはもう一度忠告ですが、アクアは性格が悪いので注意した方が良いですよぉ?くふふっ」


確かに前も聞いたセリフだった。



「お前は自分の性格が悪くないとでも思っているのかしら?」


ひぃ…!?

ザハグランロッテちゃん…!?


ロスが心を落ち着けようとしているにも関わらず、ザハグランロッテは爆弾発言を平然と口にする。

本当に勘弁してほしいかった。



「あら?あれは何かしら?」


ビビリ倒しているロスを無視したまま、彼女は廊下の先に何かを発見した。



「あれが…アクエリアスかしら?」


どんな大精霊が相手でも呼び捨てにしそうだなとロスは思った。

彼女の豪胆さに、ロスは驚嘆の思いで見る事しか出来ない。


この子は恐れを知らないのかな…?

ロスは何故だか少し悲しくなった。



「…その不愉快な目をやめなさい。潰すわよ」


ロスの残念なものを見る視線に気がついた彼女から不穏な発言が飛び出した。



「いや、肝が据わってるなって感心してるんだよ」


ロスは彼女の気分を害さないように、言い方を工夫して伝える。

ものは言いようである。


廊下の先に見える人影は、こちらを認識しているようだ。

動かずにこちらをジッと見ている。


観察されてる…?


この観察がどんな意味を持つのだろうかと…少しばかり不安になった。



「リヴァイアス。その人たちは誰ですか」


澄んだ声…それに…。

この人…が、アクエリアス…?

ロスはその声に聞き惚れ、美貌に見惚れた。


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■内容はほぼ同じですが、性的描写を省いていないバージョンです


【R18】因果の否定、混沌の世界でハッピーエンドを渇望する物語



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