23 変化…②/③
「ふわぁ〜あぁ…」
まだ眠いなぁ…。
翌朝、起きても頭がボーッとするロスは、顔を洗って目を醒まそうと表の井戸に移動した。
一人なら確実に二度寝していたであろう疲労感に、リヴァイアスへの怒りが沸々とわき上がってくる。
疲れが全然取れてないんだけど……。
絶対あのクソ野郎のせいだ……。
こんな時、ロスの頭に浮かぶのはやはりザハグランロッテだ。
ロスの苛々を解消するのに、彼女のお世話以上の特効薬は無い。
今日はどうやってザハグランロッテちゃんに喜んで貰おう…。
朝だし…朝市とか行けばいい果物とか有るんじゃないか…?
そうだ…ついでに内郭の門番に話を聞きに行くのも良いな…。
ミカドは気にしてるだろうし、喜ぶだろう…。
あれこれ予定を立てていると、ロスはリヴァイアスの事を忘れて少し楽しくなっていた。
以前ならザハグランロッテの事だけだった。
今日はミカドのためにも動いている。
その変化に、ロスは気付いていなかった。
「おは〜よおぉ〜ふあぁ…」
呂律がメチャクチャで、まだ眠そうなホセが起きてきた。
覚束ない足取りで歩きながら、ホセは椅子にだらりと座った。
「何だ、ホセが一番か…」
意外そうなロスに、ホセは「ロス兄の方が早いじゃん」と笑った。
「それに…ミカドの方が先に…起きてぇ…ふぁぉ…」
欠伸を何度も繰り返しながら、ミカドが起きているとホセが教えてくれた。
「ああ〜眠い…!! それで?…ロス兄は朝から何を作ってんの??」
眠いと言いながら、ホセは明らかに目を覚ましている。
いつもの鬱陶しいほど元気なホセになりつつあった。
「そりゃ朝飯と蛇ちゃんの歓迎ご飯だよ。昨日は疲れて飯どころじゃなかったしね…」
これはロスの反省でもあった。
慣れた後ならともかく、昨日は蛇ちゃんにもっと気を使ってあげるべきだったなと…。
「それに…蛇ちゃんとは、ずっとご飯を一緒に食べてないからな」
蛇ちゃんの元は、人だったと判明したのだから料理だって食べるはずだとロスは考えている。
量的に、大きい時は無理だったとしても、今のサイズならロスにも用意できる。
蛇ちゃんは実質命の恩人だし…かなり感謝してるからなぁ…。
喜んでくれたら嬉しい…。
蛇ちゃんが喜んだ姿を想像して、ロスは自然と口元が緩むのを感じた。
「だらしない顔ね」
その声を聞き、ロスの顔がパアッと明るくなった。
「ザハグランロッテちゃんおはよう!ミルクを用意したけど温めようか?」
「そうね、温かいのを頂戴」
「はい、これどうぞ」
「…………。」
頼んで即出てきた温かいミルクに、ザハグランロッテは言いようの無い不安を感じた。
温かいミルクを頼んで、出てくるまでに1秒…明らかに速すぎるのだ。
速すぎて気持ち悪かった。
そんな風に思われているとは露知らず、ロスはザハグランロッテのためにと、せかせか忙しい。
焼きたてのパンを置き、切った果物を見栄えだけで無く、食べやすさまで考えて皿に盛りつけテーブルに並べる。
「ロス兄俺のはぁ?」
「お前のはこれだ」
「そこに焼けたパンと冷めたミルクがあるから勝手に食ってろ、それから、お前の果物は無いからな」
「…何かこっちのパン…ザハ姉のと違ってカチコチじゃね?」
ホセが自分のパンとザハグランロッテの朝食を見比べながらぶつぶつ言っている。
すると、今度はエニアが起きてきた。
「うわぁ…良い匂い…」
「ああ、おはよう。エニアちゃんのもあるよー」
エニアのパンは、ホセと同じ硬いパンだけど、一口大になっている。
当然エニアにもミルクが用意されている。
ただ、ザハグランロッテと同じ時に温めたものなので冷め始めている。
「おはよう…」
最後にミカドが蛇ちゃんと一緒に現れた。
嬉しそうに見えるのは、たぶん勘違いでは無いだろう。
「…それにしても朝なのに凄い豪華」
エニアは食卓に並べられた料理に驚いている。
それくらい、ロスはいつもより気持ちを込めたのだ。
「それは蛇ちゃんの分。やっと一緒に食べられると思ったら張り切り過ぎた。ははっ。食べられなかったらミカドが責任持って食べてくれよ?」
蛇ちゃん食べられるかな…?
喜んでくれると良いんだけど…。
ロスはそう思いながら苦笑し、自分の作った料理を眺めた。
「ミカドの分はホセと同じな」
「……あぁ、うん」
何かを察したミカドは、何も言わずに受け入れた。
「せっかく一緒に食べられるんだから、蛇ちゃんの世話はミカドがしてあげるんだぞ?」
食べるか分からなかったが、ミカドに投げておけば、後のことは任せておけばいいだろう。
「それと、神殿の事を調べておいた」
「え? もうッ!?早くねッ!?」
ホセが驚いて声を上げ、ミカドの目も驚きで見開いている。
これだけ驚いてくれるなら朝から忙しくした甲斐があるというものだ。
内容を聞けば喜ぶだろう…。
話す前からロスは嬉しくなっていた。
「思ったよりも簡単そうだった。内郭の門で手続きと通行料を払い、手形を受け取って、お金を寄付するという形で神殿に向かう。平和的で争いの無い方法だ」
「流石ロス兄…仕事が速いぜ…」
「そうだろう?ただ、神殿であのクソ野郎とかアクエリアスさんに会えるかまでは行ってみないとなぁ…」
そう、肝心なのは神殿に行くことではないのだ。
だから、情報はまだまだ必要という事でもあった。
「名前を呼べばクソ野郎が反応するとは思うんだけど…」
呼びたくないし会いたくない…。
「みんなも嫌だろ…?」
ロスの心情は、皆も感じている事だった。
あれを経験してリヴァイアスに好意を持つようなら、それはもうリヴァイアスと同じ類の人格破綻者だろう。
「…確かに憂鬱」
「今度は出会い頭になぐりたいわね」
エニアは普通の感想を口にし、ザハグランロッテはトラブルになりそうなぶっ飛んだ事を口にしていた。
「…殴るのはアイツが用済みになってから考えよう……」
「仕方無いわね…」
本気じゃ無い…と思いたいけど……。
念の為、ザハグランロッテが早まらないように釘を差したのだが、どうも冗談とも思えず、ロスの肝は戦々恐々とした。
「神殿だけど、お金は今まで貯めてある分で足りると思う。けど、今日は仕事があるから神殿には明日行こう」
大まかな行動について話しながら、ロスは蛇ちゃんの動きに目が行った。
あ……食べ物は人間と同じ物で大丈夫そう…だな…。
そうだ…好物とかミカドから聞いておかないとな。
「ミカドもそれでいいか?焦らずに…慎重に…な?」
「大丈夫…というか、ロスさんの動きが早すぎて…焦る間もないんだけど」
ミカドが笑ってそう言った。
全く不満が無さそうで安心する。
「じゃあそんな感じで今日も頑張ろう。蛇ちゃん小さくなったんだから、狩りに行くなら気を付けろよ」
最後に注意を促して、その日の朝食を終えた。




