22 転換期…③/③
「良いんじゃないか? ミカド」
「…………」
まあ答えられないよな…。
ロスは何も答えないミカドの心情がなんとなく想像できた。
こいつ等の最大戦力は蛇ちゃんだ…戦力が落ちれば死ぬ確率は跳ね上がる…。
他の街に向かうなら尚更だ。
それを自分のわがままで…とか思ってるんだろう…。
覚悟の決まったホセとエニア。
そして、素直に喜べずテンションの低いミカド…その場の雰囲気はかなり重かった。
いや…俺は宙吊り、ミカドたちは吊り上げ…見た目はかなりシュールだな…。
こんな絵面なのも全てリヴァイアスのせいだと思うとやるせない。
ともかく、答え難いミカドに時間をやるため、ロスは空気を変えようと、確認しそこねていた質問をする。
「あのさリヴァイアス、イビル種って…完全に人に戻せるのか?」
「くふふ…。それは恐らく…といったところでしょうねぇ…くふふ。なにせ前例が無いですから…くふふ」
まあそうか…。
前例が無い。
前例が無い…前例が無い…?
難しいというのもあるだろう。
ただ、今回は試す者が今までいなかったから…という感じだろう。
何だろう…。
何か違和感が………。
まぁいいか…。
「ミカドは蛇ちゃんを人に戻すのが嫌ってわけじゃないんだろ…? 人に戻してやりたいんだよな…?」
ロスの質問にミカドは申し訳なさそうに小さく頷いた。
そんな顔するなよ…。
何も反応無いけど…理解してるなら、蛇ちゃんだって期待してるはず。
「大丈夫だ、仲間を信じろよ」
これはもう、始めからこういう流れになるものだったんだよ…。
ロスは一人納得した。
「よし、決まりだな、リヴァイアス!蛇ちゃんを戻したい。手助けを…頼む!」
「くふふ…いいでしょう…その方が面白いものが見られそうですしねぇ…くふふ…」
どうやらリヴァイアスの興味にも合致したらしく、願いを聞いてくれるようだ。
こういう所は助かるな…。
こちらの言い分を一切聞かない輩が、ロスはとても嫌いなのだ。
その点、リヴァイアスはこちらの話に一応耳を傾けるタイプだった。
とんでもないクソサイコ野郎だけど、一応話す価値はある…。
そんな事を考えている間に、リヴァイアスが何かしたのだろうか。
気が付かないうちに、蛇ちゃんに刺さっていた、赤い杭はいつの間にか無くなっていた。
穿かれて流れていた緑色の血も、今はもう流れていない。
「では…」
「ま、待って待って!! それをする前にさ! 流石に下ろしてくれよ!」
シュールな絵面のまま進めるな…!!
「やれやれ、面倒ですが、仕方ないですねぇ…くふふ…」
面倒なら最初からやるなよ…!
「お前がやった事くらい自分で始末を付けなさい、ゴミが」
ざ、ザハグランロッテちゃーん!!
せっかく良い感じに収まりそうな流れを引っくり返しかねない暴言だった。
リヴァイアスが楽しそうにしているから良かったものの、それはリヴァイアスがおかしいからである。
そこから、更にザハグランロッテが無遠慮にリヴァイアスを侮辱しながら宙吊りと吊り上げは解かれていった。
ミカド、ホセ、エニアがザハグランロッテを見る目が変わる出来事だった。
「くふふ…。では始めますか」
リヴァイアスはそう言うと蛇ちゃんの体に触れた。
何か呪文のような言葉を呟いている。
「シャ…アアァァァッ!」
「な、ナナッ!」
い、痛むのか…?
蛇ちゃんは体をくねらせながら悶ている。
ミカドの顔が苦悶に歪む。
蛇ちゃんとミカドの間で感情のやり取りが起きているのだろう。
だ、大丈夫なのか…!?
ミカドを見る限り、かなりの苦痛を伴っているように見える。
もしかしたら『リヴァイアスが故意に痛みを与えているのでは?』と、疑いたくなる。
悶えて…悶えて…悶えて…もだ…あれ?小さく…?
悶えながら蛇ちゃんの体は小さく変化していたらしい。
悶えた原因が、変化の過程であったのだろう。
ふ、ふぅ…サイコパスの趣味…では無かったんだよな…?
ロスはかなり疑っているが、確かめる術はない。
「私はここまで…くふふ…あとは神殿でアクアにやらせればいいでしょう…くふふ…」
不意に出た『アクア』という名称に、ロスは一人の大精霊を思い浮かべた。
アクア…。
アクアってのは…?
「アクエリアス…さんの事? リヴァイアス、神殿に行ったら蛇ちゃんはもっと人型になるのか?」
困った…。
聞きたい事が多過ぎる…!
新しい疑問がどんどん口から飛び出しそうになるのを抑えながら、ロスは必要な質問だけを重ねていく。
「くふふっ。私の半身…というか出涸らしのアクアの事です…。くふふっ。」
どうやらアクエリアスの事で間違いないようだ。
半身の大精霊を出涸らしと言うあたり、あまり仲は良く無いのかもしれない。
それか、ただの性格破綻者だな…。
「正直、この街に貴方と貴女が来られるとは思っていなかったのですけどねぇ…。くふふっ。楽しみが増えるのは良いことですねぇ…。くふふっ」
しれっと本音を言うリヴァイアスに、ロスは苦笑した。
ロス自身、ミカド達に出会わなければ水の街まで辿り着けなかったと思っているからだ。
「じゃあ、神殿に行けばいいんだな。そこでアクエリアスさんに蛇ちゃんの…なんだろ?治療?をして貰えばいいんだよな?というか元は人なのか?やっぱりそうなの?」
次の目的と向かう場所が明確になり、気を使う必要も無くなった。
ロスはずっと曖昧で誰かに聞いてみたかった疑問をリヴァイアスに尋ねてみた。
「くふふっ。アクアが動くか私には分かりませんがぁ…必要なのは間違いないですねぇ…。くふふっ。イビル種も普通の魔物も、それから魔獣だって元は普通の生物ですからねぇ…。くふふっ。表現としては治療…そうなるでしょう…。くふふっ」
リヴァイアスの答えは、ロスの疑問が正しかった証左であると言えた。
「くふふっ。そろそろ飽きましたので、帰らせてもらいますねぇ…。くふふっ」
飽きた…!?
こいつ…飽きたって言いやがった…!
散々好き放題して興味を無くす。
最低である。
やはりぶん殴ってやりたいと思ったが、それが出来ればハナからこんな思いもしないのだろう。
俺も疲れたよ…。
これ以上のやり取りをする気はない。
そういうリヴァイアスの気持ちが表れているとも言えた。
まだ聞きたい事もあったが、リヴァイアスは何も言わずにさっさと消えてしまった。
「やっぱりクソ野郎だったな…ふぅ」
ロスはリヴァイアスが消えて、どっと疲れが増した気がした。
アレに関わると碌な事がないという事実が、ロスの中で確信に変わった日となった。
「あのクソ野郎には、出来れば二度と会いたくないなぁ…」
「そうそう、言い忘れてました…くふふ…」
「うわぁッ!!!なななな、何!?ここ、今度は何しに来た!?」
「おやぁ…?先程より楽しそうにですねぇ…くふふ…。大した事ではありませんが、アクアは性格が悪い…くふふ…それだけ、伝えておいた方が良いかと思いましてね…くふふ…では…」
またしても言いたい事だけ言ってリヴァイアスは消えてしまった。
「あーもう!心臓に悪いだろうが!!絶対お前の方が性格悪いだろ!?」
もういないリヴァイアスに向かってロスは文句が止まらなかった。
「今日はもう帰るのでしょう? さっさと歩きなさい」
全然労ってくれないザハグランロッテに、少しリヴァイアスと同じ性格をロスは感じた。
かき乱すだけかき乱して、最後は飽きたの一言。
『似てる…?』
いや、まさか…ザハグランロッテちゃんはアイツと違って可愛い…!
それより…。
「蛇ちゃんは大丈夫そう?」
気を取り直して、ロスは蛇ちゃんの様子を気にかけた。
ロス自身も、宙吊りにされていた感覚が抜けきっておらず、体の調子がおかしいように感じている。
「うん。ナナは…大丈夫みたい」
ミカドは小さくなった蛇ちゃんに巻きつかれて顔を綻ばせている。
一緒にいられるのが嬉しくてたまらない…そんな感じだった。
これは…懐かれているのか…?
イビル種の見た目のまま、大きさだけが縮んでいる蛇ちゃんは、小さくても迫力満点である。
今が初見なら間違いなく逃げ出す…と、ロスは思った。
凶悪な見た目の蛇に巻きつかれて喜んでいるミカドの姿は、傍から見てまぁまぁシュールな絵面だった。
「そ、そうか…。よかったな…?」
それでも、喜んでいるミカドに対して水を差す必要もない。
かといって適切な言葉も浮かばなかった。
ミカドから視線をザハグランロッテに移すと、不機嫌そうなザハグランロッテが目に入った。
俺もザハグランロッテちゃんのお世話して落ち着こう…。
「帰る前に、お茶淹れるよ。…疲れたし、一緒に飲もうかザハグランロッテちゃん」
恐らく不機嫌な原因は彼女を放置していたからだ。
いや、放置はしていないのだけど、リヴァイアスの登場でミカド達に気を使わざるを得なくなった。
その結果、彼女をないがしろに…?
「俺はザハグランロッテちゃんの事を一番に考えているから!」
ロスは自分の気持ちが誤解されて伝わっているのではないかと心配になり、真剣な表情で彼女に伝えた。
「お前はいったい何を考えて言っているのかしら」
冷たい声に冷たい澄まし顔…。
あぁ…いつものザハグランロッテちゃんだ…。
どうやら機嫌は治ったらしい…。
今日はチョロいな…。
ロスはそう感じて安心した。




