22 転換期…①/③
6月半ば
その場に居る人、空間、その他全ての存在がリヴァイアスに支配され、リヴァイアスを中心に物事が進んでいく。
「くふふ…では…ご期待の通り、お話しましょうか…」
そう言ったリヴァイアスはその場を満足そうに見回している。
大精霊リヴァイアスの圧倒的な力、芸術…絵画のような容姿、そこに居るのに希薄な存在感、そして希薄さと矛盾した強烈な圧力。
経験した事の無いミカド、ホセ、エニアは当然の事。
経験者のロスも一度目の相対よりはかろうじてマシ…という程度の抵抗しかできない。
「とはいえ、私は自分の話題が出た…それしか分かりませんからねぇ…くふふ…どんな話が聞けるのか楽しみです…」
楽しみなのはお前だけだよ…!
口ぶりから、リヴァイアスは何か目的をもって現れたわけでは無さそうだ。
話をするというのも『こちらに話せ』という要求に近い。
既に大惨事だが、ここで止まっているのはザハグランロッテの手柄ではないかとロスは考えた。
会話…こっから和気あいあいとか…?
いやいや、無理無理…!
それなら……。
「このまま、話すのか? 俺はあんまし痛くは無いけど、この状態だとみんな痛くて話しにくいんじゃないかな…?」
ロスは皆に刺さった杭を抜いて欲しいとダメ元で暗に頼んでみる。
楽しい宴会の会場はザハグランロッテを除いた人の赤い血と、蛇ちゃんの緑の血が結構な量で飛び散っている。
「こ、これから楽しい宴会の予定だったんだけど…?」
「くふふ…。それは素晴らしい。どうぞどうぞ…私の事は気にせず…くふふ」
いや、動けねぇんだけど…?
宴会が何か分かってるのか…?
気持ちが少し落ち着いたロスの鼻腔を、鉄っぽい血の金気臭い匂いが通り抜ける。
いま死んでないのはアイツの気まぐれなんだよな…たぶん…。
早くも『慣れ』が気持ちと考えを駄目な方…楽観に傾けようとロスに働きかけてくる。
いやいや、リヴァイアスに気を抜いちゃ駄目だから…。
「この杭抜いてくれよ。他の子も…いや、俺はこのままでも良いから先に4人の杭を抜いてくんない?」
話を楽しみたいんだろ…!?
だったら杭を抜けよ…!
4人…これは蛇ちゃんを含めた人数だ。
ロスは、何とか現状を改善しなければと考える。
前にリヴァイアスと遭遇した時はどうだっただろうか。
前回もリヴァイアスは、登場した時、酷く攻撃的だった…。
けれど、その後は話をしただけだった気がする…。
「くふふ…。私の挨拶なのですが、お気に召しませんでしたかぁ…?くふふ…」
これが挨拶と言うのは本当かも…?
なら、話さえ出来れば…?
段々とサイコパスなリヴァイアスに、ロスは腹が立ってきた。
さっさと杭を抜けやこの野郎…!
怒っても威勢がいいのは腹の中だけ。
ビビっているロスは、自分が面と向かって言えない罵倒を、心の中でリヴァイアスに浴びせた。
少しはスッキリするかと思った矢先。
「さっさと杭を抜きなさい、愚図が」
ロスの言えなかった罵倒を、ザハグランロッテが代わりに言ってしまった。
ザハグランロッテちゃーーん!?
えぇ……!? 待って待って……!?
「ザ、ザハグランロッテちゃん!? 大丈夫だから! 大丈夫だから、あ、あんまり刺激しないで!?」
あ、危ないから止めて…!!
リヴァイアスの感性はズレている。
だから、こんな事ではたぶん怒らないとロスは思っている。
だからといってわざわざ余計な火種を用意する必要は無いのだ。
こうしている間も、ミカド達は吊り上げられたまま苦しそうに呻いている。
あの姿を見て慎重になって…!?
「くふふ…。まぁ…いいでしょう…これはサービス、貸しですよぉ…? くふふ…」
た、助かった…!
そう言うと、リヴァイアスは指先で何かを描くような動きを見せた。
そして指をパチンと弾き、また指先を伸ばして動かした。
すると、地面から赤く四角い物体がせり上がって行く。
攻撃では無いと思いたいロスだが、不安が胸の鼓動を速くする。
頼むぞサイコパス……。
「な、何? なになに!?」
その不安…分かるぞホセ…。
不安を含んだ悲痛な声に、ロスは自分の事のような共感を感じていた。
ロスは杭で宙吊り、ホセも既に攻撃され、まな板の上の鯉状態なのだから、受ける恐怖は想像以上だろう。
同時に、同じものがミカドとエニアのそばにもせり上がっていく。
ホセ、エニア、ミカドを恐怖のドン底に突き落としている四角い物体は腰の辺りで動きを止めた。
と、止まった…!?
「くふふ…。そんなにはしゃいで申し訳ありませんね…。くふふ…それはただの椅子なんです…。くふふ…」
はしゃいでねぇよ…!
でも、あれに座れば楽かも知れない…。
けど…杭を抜く気は無いって事か…。
「ま、まあいいや…。じゃあ、このまま話をしよう。ミカド達も少し我慢…な?このまま死ぬかも知れないけど…」
相手は強大な力を持つ性格破綻者だ。
気休めは意味ないだろうと考えた。
「リヴァイアス。話って言うのはそこにいる…お前が刺しまくってる蛇ちゃんの事だよ」
可哀想に…。
何とかしてやりたいが……。
蛇ちゃんには無数の杭が突き刺さり、今は止まっているが体中から夥しい緑色の血が飛び散っていた。
痛々し過ぎる…。
蛇ちゃんと会話こそできないロスだが、意思の疎通を感じる程度には仲良くなっているのだ。
それだけに、完全に身動きの取れない姿が痛々しく、リヴァイアスへの怒りもかなり大きかった。
いつかぶん殴ってやるからな…!
そんなリヴァイアスは、蛇ちゃんの気持ちなど気にも止めてなかったのだろう…目を蛇ちゃんに向け不思議そうに首を傾げた。
くそ……。
綺麗な顔だと何でも絵になるな…。
首を傾げただけでこの美しさだ。
存在とやっている事が理不尽の権化なだけに、よけい腹立たしかった。
「くふふ…。ふむ…イビル種…ですねぇ…コレが何か?くふふ…」
コレ呼ばわりにミカドが目を剥いて抗議する。
「コレじゃないッ!!」
「黙りなさい」
怒鳴ったミカドに、ザハグランロッテが即座に上から叱りつけた。
彼女に、これでもかという冷たい表情で睨まれて、ミカドは勢いを失った。
ナイス…!
流石ザハグランロッテちゃん…!!
場が落ち着くのを確認したロスは、改めて話を続ける。
「この蛇ちゃんを街に入れたいと思ってるんだけど…」
どうだ…?
先にリヴァイアスの反応を確認したいロスは、目的だけを口にして様子を窺った。
「………? はて、入れたら良いのでは…? くふふ」
まあそうだよな…常識が違う…。
でも、そうじゃ無いから…!
リヴァイアスからすれば好きにすれば良い事だと思っているのだろう。
実際に、リヴァイアスならそれが可能だろう。
腹立つなぁ…。
強者の理論を振りかざすな…!
「俺の力じゃ蛇ちゃんを連れて街に入るのは無理なんだよ。蛇ちゃんも討伐されちまう…」
リヴァイアスの様子に変化は無い。
「だから、街の中に入れる許可をお前が出すか…そうじゃ無いなら蛇ちゃんを入れるように出来ないか…?」
ロスは何をどうして欲しいと具体的に言わなかった。
リヴァイアスは大精霊だ。
何が出来るのか想像がつかないからだ。
あわよくば…。
自分の予想より……。
何か良い提案を出してくれればラッキーだとロスは考えていた。
「くふふ…。なるほどぉ…このイビル種を人型に戻したいと…くふふ…」
「…………!?」
リヴァイアスの言葉に、ロスは聞き逃せない大きな引っかかりを感じた。




