21 安定期…③/③
思った以上に、自分がミカド達への情を感じている事に気がついた。
それをロスは失敗だと感じている。
でも…くそ…。
認めるしかないか……。
「これは可能性の話だけどな…」
全員の視線が期待を持って、一気に自分に向くのをロスは感じた。
止めてくれ…。
可能性だって…言ってるだろ…。
「あまり期待もしないで欲しい…」
だから期待するなって…ミカド達から寄せられる期待の目が痛い…。
「えっと…俺とザハグランロッテちゃんってさ、同じ…ペアの刻印があるだろ?」
そう言ってロスは腕をまくり、リヴァイアスに付けられた呪いのような腕の刻印をミカド達に見せた。
改めて見て、ちょっと嫌な気持ちになった。
ロスは、これを見るたびにザハグランロッテを守れなかった悔しさが湧き上がり、とても嫌な思いがするのだ。
「俺の刻印は鮮やかで濃い赤、ザハグランロッテちゃんの刻印はドス黒い青。これは心の清らかさを…痛ッ!」
「不快、それ以上喋るな」
ミカド達の期待を薄めたくて冗談を混ぜると、ザハグランロッテから、予想よりも強い反発を食らってしまった。
痛い…。
でも、悪くない…。
「まあまあ…冗談は置いといて。この刻印は大精霊の糞野郎に付けられたんだ」
「大精霊ってここの…水の大精霊ってことだよな?」
「この街の…?」
ロスの言葉をホセとエニアが疑問符を付けながら補足する。
彼らが疑問に思うのは当然だろう。
ロスはこれまでそんな事は言っていないし、普通はこんな話題になるようなことを話さないのは不自然なのだ。
ミカド達から見て、信じられないという思いと、これまで作った関係から、信憑性は五分五分といったところだろう…。
「そうだ。つまりこの街の権力者に俺たちは伝手がある。と…言えなくもない…ような気がする…かも…しれない…」
五分五分どころかミカドの期待がヤバイんだけど…。
ミカドの期待に満ちた顔がプレッシャーになり、ロスの話はどんどん自信が無くなっていく。
「だから話くらいは聞いてくれないかなー。なんて思ったけど…あいつマジモンの糞野郎だから」
ロスの頭に磔にされたザハグランロッテが蘇ってきた。
思い出すと腹が立ってきたな…!
「水の大精霊ってリヴァイアス…様だっけ? あ、いやアクエリアスだっけ? 確か2人いるんだよね?」
ミカドが自信なさげに大精霊の名前を口にした。
「あー止めろ止めろ、あんな奴に様付けとか要らねぇよ。俺達に関係あるのはそのリヴァイアスの方な? あー、様とか本当に要らねぇから!あんな糞野郎には絶対に! 断じて必要無い!」
ザハグランロッテちゃんを磔にしやがった野郎だぞ…!
「この刻印だって見ろよ! 呪いみたいだろ!? 呪印だ! 呪印ッ!!」
「へぇ、そんなにリヴァイアスって悪い奴なんだ?」
「おおっ!とんでもない大悪党だぜ!お前らもできるなら近づく…っ…なッ!?」
「な、なんでお前がッ!?」
『トスッ』
驚くロスの声とほぼ同時。
ロスの体が真上、空中に突然弾け上がった。
「ぐっ…あッ!ああああぁぁッ!!!」
『トスッ』『トスッ』『トスッ』………『トスッ』『トスッ』『トスッ』『トスッ』
「…は?」
ロスを襲った突然の攻撃に、ザハグランロッテの口から疑問が漏れた。
「くふふ…、楽しそうじゃないですかぁ…くふふ…」
があああぁぁぁッ…!!!
叫ぶな…!!
我慢しろ…!!
我慢しろ…ッ!!
「ぐっぐ…ぐ、っうぅッ!!」
瞬く間にロスの体が空中で磔にされた。
各両手足に2本ずつ、赤い杭の様な物で磔られている。
あいつ…!
い、いや、それよりこれじゃ身動きが取れない…!!
ザハグランロッテちゃん…!!
「お、おい!お前ッ!! ロス兄に何してん…がッ!」
最初に正気を取り戻したホセが、ロスを助けようと動いた瞬間。
ホセの手首を穿き、赤い杭が地面から上へと突き上げられた。
「いっ…痛い!!な、何だよこれ!?痛い痛い痛い!!!!」
体は強制的に立たされ、足は踵が浮き膝は伸び切ってつま先だけが地面に着いている。
これではどう頑張ろうが、1人で杭を抜く事はできないだろう。
「う、ぐ…う、動くな…!」
激痛を感じながら、ロスは懸命に言葉を伝える。
誰に…ではなく、全員に伝えたかった。
「くふふ…」
『トスッ』『トスッ』
静かな空気を切る音が2度走った。
「きゃあぁぁッ!!」
「なっ!ぐぅ…ッ!」
エニアとミカドの手首も赤い杭に穿かれホセと同じ状態に追い込まれた。
「シャアアアアァァァッ!!シュラララララァァッ!!」
恐怖を呼び起こす鳴き声…臓物を撫でるようなゾクゾクとした怖気を感じさせるのは蛇ちゃんだ。
ダメだ…!
蛇ちゃんがミカドの前に滑るように移動すると、そのまま威嚇し…そして飛び掛かった。
無理だ…!
いくらイビル種でも相手が悪過ぎる…!
「大人しくしなさい…くふふ…」
『トスッ』『トスッ』『トスッ』『トスッ』『トスッ』『トスッ』『トスッ』『トスッ』『トスッ』『トスッ』『トスッ』『トスッ』『トスッ』『トスッ』『トスッ』『トスッ』『トスッ』『トスッ』
ロスの思った通り、蛇ちゃんの体を赤い杭が無数に穿いていく。
「ナナッ!?」
堪らずミカドは名前を叫んだ。
「お前!何なんだよッ!!」
ミカドはこれまで見せた事がないほど怒っている。
『パリッ』『パリパリィッ!!』
ミカドの体を不安定で淡い青色の光が弾けながら覆った。
髪が逆立ち、普段は隠れている悪い目つきがハッキリと見えている。
だけど、それだけだ。
動けないミカドは大精霊を相手に…何も出来なかった。
ただ怒っているだけだ。
いま無傷なのはザハグランロッテだけだ。
駄目だ…!
彼女には手を出さないでくれ…!!
頼む…! 頼む…! 頼む…! 頼む…! 頼む…! 頼む!!!!
ロスが心の中で懇願していると、当のザハグランロッテが冷たい声でリヴァイアスに喋り始めた。
「お前、何をしに来たのかしら」
口調も顔も普段の彼女だったが、ロスには怒りの感情が混じっているのが分かった。
「お前なんか呼んでない。邪魔よリヴァイアス。帰りなさい」
「ザ、ザハグランロッテちゃん!?」
堂々とした振る舞いはカッコイイが、流石に相手が悪い。
怒らせるとまずい…どうする…どうしたらいい…!?
けれど、ロスには彼女を止める手段も無ければ考えも思い浮かばない。
「やっぱり貴女は面白い…くふふ…他の人間を狙ったのは正解でしたねぇ…くふふ…」
考えがまとまらないロスを置き去りにしたまま、リヴァイアスは気にせず話を進め始めた。
自分の力を大きく超えた相手を前にすれば、途端に何もできなくなる。
分かっていても、いざそれが自分に降りかかると悔しくて…情けなくて…。
せめて…彼女だけでも…!!
「目的を話すか帰るかにしなさい」
「くふふ…冷たいですねぇ。貴女方が訪ねて来るのを待ってたのに、いつまで経っても来ないのですから…くふふ…」
待ってた…?
俺たちを…??
何で…?
「お前に用なんて無い」
そうだ…こんなサイコパスの大精霊なんかに用は無かった…むしろ会いたくないし…。
「まぁいいかと思っていたらですねぇ…くふふ…。名前を呼ばれたものですから…来てあげたのですよ…くふふ…」
名前…?
リヴァイアスの…?
2人の会話を聞いていたロスに、ザハグランロッテの視線が刺さった。
「お前のせいか」
「そ、そんなぁ…」
確かにリヴァイアスの名前を口にしたけれど…。
普通それで本人が来るとは思わないでしょ…。
それよりも、ロスは自分の両手足が赤い杭で磔にされている割に、痛みをあまり感じていない事に違和感を感じた。
「リヴァイアス…これ、あんまり痛くない気がするけど?何か手加減でも?」
ロスはザハグランロッテの責める視線に耐えられず、誤魔化そうと疑問に感じた事を質問してみた。
「くふふ…それは痛みを遮断しているのですよぉ?話ができないと困るでしょう…?くふふ…」
困るなら最初から攻撃するな…!
と思ったが、もちろんそんな事は口にできない。
「困るなら初めからしなければ良いのよ。お前、やっぱり馬鹿なのね」
ちょっ!?ザハグランロッテちゃん…!?!?
言わなくてもいい事を躊躇いも無く口にした彼女に、ロスは驚愕し、冷や汗が止まらない。
そして、ホセも同じように感じているのだろう。
顔が凄い事になっている。
「挨拶は必要でしょう…くふふ…」
前にも思ったが、こんな物騒なものは挨拶と言わない。
「お前…どうしてここが分かったのかしら?」
ザハグランロッテから、ロスも気になっている事が質問された。
「くふふ…貴女達に刻んだ紋様ですよ…それ、場所が分かるんですよね…くふふ……あぁ、でも勘違いしないでくださいねぇ…位置と…音声は私の名前しか分かりませんので…貴女達のプライバシーは守られています…くふふ…」
くふふじゃねぇ…!
プライバシーも守られてねぇよ…!
てか、やっぱり呪いの刻印じゃねぇか…!
「では…ご期待の通りお話しましょうか…くふふ…」
その場の支配権を握ったリヴァイアスは楽しそうに笑っていた。




