21 安定期…①/③
6月半ば
久しぶりの労働だったけど、働いた後の酒はやっぱ美味い…!!
「それで?そっちはどうだった?」
こいつはどうせ蛇ちゃんだろ…。
少し元気の無いミカドはともかく、ホセとエニアの感じを見る限り、失敗という事も無さそうだとロスは判断した。
なので、酒を楽しみながら気を使わず、ミカド達の方はどうだったのかと軽く聞いてみた。
「おおよ! 狩りの依頼…えっと、食料用ね。受けたんだけど、割と直ぐに終わって楽勝だったぜ!」
ホセは自慢げで嬉しそうだ。
本当に余裕で、しかも楽しかったのだろう。
満足感が全身から溢れ出していた。
「余った時間はナナの所に」
そう言うミカドは少し寂しそうだ。
あの巨大なイビル種の蛇が街の住人に見られれば騒ぎになるのは間違いない。
狩りも一緒にできないのか…。
ザハグランロッテの近くにいられない自分を想像し、ロスも気分が落ち込んだ。
なるほど…余った時間は全部蛇ちゃんの所か…。
蛇ちゃんが居れば、狩りの効率も格段に上がるのに使えないのか…。
いやいや、使えないとか物扱いは良くないな…最低だぞ、俺…。
水の街に来るまでの道中で幾度となく蛇ちゃんに落ち着かせてもらった恩を思い出して、ロスは自分を叱り付けた。
「そうだな…俺も時間作って蛇ちゃんに会いに行かないとな」
これは半分社交辞令だった。
だけど、実際何かのついでなら会いたいんだよなぁ…。
6月は夕方から朝にかけて、太陽が沈むと過ごしやすい気温になる季節だ。
会いに行くのにしんどさも少ない季節ともいえる。
「それで?稼ぎの方は?」
単純な興味からの質問だったのだが、ミカド達は何を思ったのか稼いだお金を差し出してきた。
「お前…カツアゲ?…最低ね」
ミカド達の予期せぬ行動に戸惑っていると、横からザハグランロッテに軽蔑の視線を向けられ焦りが追加される。
え!?いや…違ッ…!?
「いやいや!そのお金は3人で使って?まじで!ザハグランロッテちゃんに変な誤解されてるからさー! あぁもう!本当に止めて!?」
彼女に軽蔑されるのはダメだ、耐えられない…。
本気で焦るロスは、それまで良い気分だったのが嘘のように冷や汗がダラダラと流れている。
「いや、これはロスさんに預かって欲しいだけで」
真面目な顔で頼んでくるミカドに、ロスは全く意図が掴めない。
分からないから不安は増していく。
さっきまで美味しかった酒がなんだか美味しく感じない。
「預かる?」
ミカドの言う事が理解できないロスは、いまいち要領を得ない。
は…?はぁ…??
「預かるってコレを?俺が?なんで?」
「預かる…ああ、そういう…お前、最低ね」
「い、いや、たぶん違うから! ザハグランロッテちゃん!? ちょっと待ってくれる!?」
適当な事を言うザハグランロッテは楽しそうに見えた。
もう少し酔ってるのかな…?
「ロス兄!俺たち別に使い道がなくてさ!だったらロス兄に預けて何かこう?いい感じに使って貰って、俺達もいい思いを?みたいな感じ!」
なるほど…こいつらお金に執着しない感じか…。
自分達で使うより得すると思ってるのか…。
「そういう事なら俺は構わないけど…上前は撥ねさせて貰うよ?」
お金の管理には面倒事が付き纏う。
それをタダで引き受けるのは、お人好しが過ぎるというものだ。
「それは別にいいよ。でもロス兄なら無駄に使わないだろ?」
ホセの言葉にはロスを疑う気持ちというものが一切感じられない。
お前等のその信頼はいったいどこから来るんだよ…俺はお前らを利用しているだけなんだぞ…。
ミカド達から寄せられる気持ちがむず痒くて仕方ない。
まぁ…。
確かに、安定していない今、無駄遣いは出来ないけど…。
「ロスさんこれ…」
「な、なに…!?」
ちょっ…ちょっと…!
唐突に口元に差し出された、というか口に押し当てられた玉子焼きを、半ば強引に口の中に入れられ、口の中に甘い玉子の風味が広がった。
「どーお?美味し?」
目の据わったエニアが、笑顔で問いかけてくる。
な、何で急に…!?
こ、こわ…!怖いってば…!
「あー、玉子焼きね? お…美味しいよ?」
「ふふふ…嬉しい」
不穏なエニアの様子にロスの背中にゾクゾクと悪寒が走る。
幸い、それ以上の実害が無いのは救いだが…。
「何をデレデレしているのよ!」
「へ…ひや!そんな事は!」
今度は凛とした…冷たい声が隣から飛んでくる。
明らかに不満そうなザハグランロッテだった。
ロスは咄嗟に上手い対応が思い浮かばなくて、声が上ずってしまう。
「そ、そんな事より今後の事だ! 今後の! 明日からの話をしよう!」
面倒な方向に脱線するのを避けたいロスは、強引に今後の事について自分の考えを口にした。
「当面は安定するまで今日の行動を繰り返すのがいいと思う」
ミカド達は、得意の狩りで生計を立てるのが良いだろう…。
問題が出るまでは、ミカド達のサポートもしてやってもいいし…。
お金の管理は…面倒だけど…。
別行動になるまでは信頼されてた方がいいか…?
何があるか分からないし…。
そうなると…。
やっぱり蛇ちゃんには会いに行っておいた方がいいかもな…。
あくまでも判断基準は自分達にプラスになるかどうか…。
「あと、週に一回は俺も蛇ちゃんに会いに行こうと思うから、その時は外で飯を食べよう! 宴会だぜ!!」
蛇ちゃんが居れば、外でも危険はグッと減るだろう。
だから、たぶん大丈夫だ…。
頭の中で自分の利益を考えながら打算的な計画を立てていく。
こういうとき、情に流されていないかをチェックするのだが、正直最近は…段々と難しくなっていると感じている。
「俺はいいぜ! ミカドも喜ぶだろうし、な? そうだろ!?」
仲間が喜びそうな事だと、ホセは気持ちのいい返事をする事が多い。
それはとても好ましいホセの長所だとロスは思う。
トラブルメーカーの一面もあるが、性根が良い奴なのは間違いない…。
「うん、ナナも喜ぶと思う…」
…!………。
ミカドの嬉しそうな声にロスはドキッとした。
ミカドはこの3人の中で、総合的に見て一番落ち着いているし、一番頼りになる。
だから重要な話は、必ずミカドの耳にも入れておくようにしているし、同年代に近い感覚で接していた。
そうだよな…。
ミカドもガキンチョだよな…。
「じゃあ、しばらくお前らはこのまま狩りって事だな!」
よしよし…。
ミカドのケアはまた考えるとして…。
ザハグランロッテとエニアの争いに挟まれていた状況を抜け出したと、ロスは上機嫌に酒を煽った。
あとは、ここでザハグランロッテちゃんの生活基盤を作れれば…。
絶望的だった彼女の状況が、自分の力で変わる。
ロスは、それが何より嬉しかった。




