19 水の街…③/③
夕刻にさしかかる頃、ミカド達が狩りから戻って来た。
ミカドとホセがイノシシを…。
エニアが大きなウサギを引き摺りながら…。
「流石だな」
ロスは用意しておいた水を3人に渡しながら、戦果を褒め、労った。
「…私…頑張った」
露骨にアピールするエニアを褒めそやし、顔についたホコリを拭ってやる。
頬が緩み、喜ぶ姿は普通に可愛く思えた。
ザハグランロッテは不愉快そうだが、出した働きを無視して不満を口にするほど腐っていない。
「じゃあ早速中に入ろう。明るいうちに済ませたいしね」
ロスはそう言って門へと歩き出す。
近くに行くと、先程の門番が見えたので手を振ってやった。
向こうの門番も、手を上げて返してくれたので、このまま歩いても問題ないだろう。
「イノシシとウサギなんだけど、どっちが良い?」
門番に、納める肉はどちらが良いか選んでもらう。
どちらも大きさは問題無いはずだ。
門番も大きさではなく、どちらを選ぶかで悩んでいる。
悩む理由が分からなくて、ロスが聞いてみると、選んだ方の肉を少し持ち帰る事ができるらしい。
「食いごたえならイノシシ、柔らかさならウサギがいいと思うよ?」
「なら、うちは子供もいるし」
ロスの助言で、門番は子供でも食べやすいウサギを選んだ。
「これはオマケ、賄賂じゃないよ?」
そう言って塩を少し渡してやると大喜びしながら笑顔で門を通してくれた。
「この後はマフィアが接触してくるらしいんだけど…」
イノシシを引きずる姿は目立つので、直ぐに現れるはず。
できれば穏便に…。
マフィアがどんな接触をしてくるのか、どんな圧力をかけてくるのか分からないので、どうしても身構えてしまう。
少し緊張しながら待つと、アチコチから厳つい顔の人物が出て来て声をかけてきた。
「よお兄ちゃん達!そのイノシシ、俺の所に譲ってくれよ!」
顔は厳ついが、いきなり喧嘩腰という事は無いようだ。
ただ、他からも同じ内容で声がかけられる。
派閥…という事か…。
「ロス兄、どうするんだよ?」
状況を把握できないホセはオロオロしている。
「悪いんだけど、何処に所属しているのか教えて貰わないと、選べないだろ?」
雰囲気こそ厳ついが、実際に争いになればこちらの方が戦力は上、見た目からロスはそう判断した。
格付けが終われば対応も落ち着いてできる。
最悪イノシシを置いて逃げればいいだけだし…。
厳つい男たちも、こちらの獲物を見て暗に実力を読み取ったのか、強引な態度は見せてこない。
所属を聞きながら、この場所のルールも同時に仕入れておく。
そうして案外スムーズに情報を仕入れる事ができた。
こいつらはマフィア兼ギルドの職員らしい。
ギルドは火、水、地、雷の4つ。
マフィア同士で揉めるよりも、明確に分けた方が利益になるらしく、マフィア間の争いは無いらしい。
つまり、何処かのマフィアと繋がれば、その区域は安全に外を歩けるという仕組みらしい。
「悪いんだけど、俺たち水の大精霊様と腐れ縁でね…」
ロスはそう言ってリヴァイアスに刻まれた腕の刻印を見せる。
「だから、水のギルドに登録させてもらうよ」
揉め事は極力避ける方針のロスは、大精霊…リヴァイアスの名前は言いたく無いので名称と、その根拠を出して様子を窺う。
すると一人の男が前に出てきた。
「そういう事ならうちだな!」
恐らく水の派閥、マフィア兼ギルドの職員だろう。
「ちっ!仕方ねぇか」
決まればアッサリと身を引くあたり、抗争などは本当にしないのだろう。
「じゃあ、さっそく手続きするからギルドに行くぞ。今日は飯も宿も無料だから安心して付いて来いよ!」
歩きながら話を聞くと、この男はギルドのスカウトらしい。
つまりギルドに入ればもう世話になる事もないだろう。
だから名前は聞かなかった。
「明日からは飯も宿もタダじゃねぇからな、ギルドの依頼をこなして金を稼ぐか外で狩りをするか。とにかく稼がないと借金でそのうち奴隷に落とされるからな?」
敵対しては居ないが、笑いながら女は性奴隷、男は労働奴隷と平気で口にする程度には腐っているようなので関わりたくはない。
大事なザハグランロッテ…と、仲間のエニアに下品な目を向けるのも気に入らなかった。
ギルドで登録を済ませると、ボロボロの宿に案内された。
外見と違い、屋内がまぁまぁ綺麗なのは意外だった。
理由を聞くと、ギルドの依頼に宿の清掃というのもあるらしい。
実力不足や怪我、加齢による底辺労働者という事だろう。
「思ってたより汚い街だな」
ホセが思った事を口にした。
「でも、それはここが端の方だからって事らしいけど…」
ミカドが自信なさげに言うのは、話だけで実際に見ていないからだ。
「…お腹空いた」
マイペースなエニアは、あまり不安を感じていないのだろうか?
外郭の町らしいが、外を歩く人はかなり多く、ごった返した感じだった。
表通りを歩いていると時々人とぶつかりそうになる。
ここのスリもぶつかって来るんだな…。
ロスはスリから逆にスリをし、密かに小銭を稼ぎながら歩いている。
「今日は飯がタダで食べられるって言うんだから、食べておこう」
特に意味は無かったのだが、エニアの『お腹が空いた』という意見を採用した事で、ザハグランロッテの機嫌が少し悪くなった。
この程度で目をキラキラさせてくるエニアはだいぶチョロい…。
だけどこれで満足するなら助かるな…。
エニアとザハグランロッテの問題を深く考える間もなく食堂に着いた。
食事はバイキング形式で、個別注文もできる食堂だった。
ギルド直営らしく、基本的な清潔さと安さが売りらしい。
ここで手を抜くと面子が潰れると考えているらしく、だからこそ信用できると案内の男が言っていた。
登録料にイノシシを納めたロス達は、バイキングの料理と、イノシシ肉の一品料理を個別注文出来るらしい。
それにプラスして、お酒が3杯までタダで飲めるとの事だった。
「ん…んん?あんまり美味しくねぇな…見た目は美味そうなのに」
出てきた料理を頬張りながら、ホセが微妙な表情で感想を言った。
「…ロスさんの料理の方が美味しい」
エニアはがっかりした様子で食べている。
「俺も舌が贅沢になったのかな…」
ミカドも味が好みじゃないらしい。
こいつら…。
贅沢な事言ってるな…。
ロスは呆れながら3人を眺めた。
「そうか?でも食べられるだけマシだと思わないとな」
そう、ご飯を食べられる。
それ自体が贅沢だったりするのだ。
ロスは料理を口にしながらミカド達にそう諭した。
その合間に隣に座るザハグランロッテのイノシシ肉を切り分けたり、自分の分で料理の味を確認する。
味の確認が終わると、持っている調味料でザハグランロッテの料理に味付けを加えている。
「その…ザハ姉への配慮が見えなかったら俺だって何も思わねぇよ?」
自分達が微妙に味の足らない料理を食べている側で、その料理をザハグランロッテが美味しく食べられるようにと、ロスがせっせと世話を焼いているのだ。
その姿に、ホセは呆れを通り越して感心している。
エニアの悔しそうな顔に、ザハグランロッテの澄まし顔も、どことなくドヤ顔に見える気がする。
ケンカなら止めに入るけど、この位なら放っていいかとロスは感じた。
我慢しているエニアに少し香辛料を振ってやると嬉しそうな笑顔を見せた。
「酒も3杯までタダらしいからな、飲みたかったら飲んでみようぜ」
マフィアが元締めのギルドの割にずいぶんサービスが良いと思うかも知れない。
けれど、この食事が最後の晩餐になる人もいると思えば質素なものだ。
「ザハさんはズルいです!先に会ったからってぇ…。私だってぇ…先に会いたかったぁー!」
酒が進んで管を巻いているのはエニアだ。
幸いそんなに害が無いので、ロスはホッと胸を撫で下ろした。
「何度も言ってるでしょう、お前はそこの二人で我慢なさいッ!」
多少語尾が強くなっているが、ザハグランロッテも大人しいものだ。
「だから要らないって言ってるれしょーが!」
「あーお酒が美味しーなー」
ロスは酔ったフリをして関わらないように頑張った。
「オレはやっぱり、女は怖いし苦手だなぁ…」
「えっ?ホセってそっち系なの?」
「いや!違ぇよロス兄!?勘違いはダメだかんな?女の子は好きだよ!ただこう…どうしても恐怖が先にくるっつーか…ロス兄も頭潰されたんだから分かるだろ?」
ホセに言われ、ふと頭が付いているか不安になった。
確かに…。
アレを成長期に経験したり度々目撃すれば怖くもなるか…。
しかも向こうの奴らは、全ての女性が強化されてるんだろ…?
想像しただけで身が震える。
「み、ミカドはどうなんだ?」
「あーダメダメ、ミカドはヘビに夢中だから!リオニがいたら分かんなかったけど…な?」
「うるさいよホセ…俺はナナがいれば良いんだから…」
「へぇ…リオニちゃんってのは?」
「簡単に言ったら、普通に話せるエニアって感じ。いい感じだったけど、ヘイナスのせいでミカドとの間も微妙になったんよな…」
「…………」
ヘイナスの…仲間がたくさん殺された事か…?
空気の読めないホセも話の途中で勢いを失う。
ミカドも黙り、微妙な空気が流れてしまった。
ロスは頃合いだと思い、夕食を切り上げる事にする。
「酒も料理も無くなったし、今日はお開きにしよう。もう寝て、明日はギルドの依頼を皆で見に行こう」
正直アルコールが残っているうちに眠りにつきたかった。
ザハグランロッテの方を見ると、まだエニアとグチグチ言い合っている。
もしかしたら楽しいのか…?
「…もう終わりぃ?」
「そうだよザハグランロッテちゃん。部屋に戻ってもう寝よう」
酔ったザハグランロッテちゃん、マジ可愛い…。
「えぇ?私…歩けない!」
「えぇ…歩けない?分かった分かった。おぶってあげるから帰ろう」
アルコールに酔った彼女は少しわがままで、それでいて可愛かった。
「あー!この女ズルいです!あじゃといです!ズルいでしゅ!!」
「うるしゃい!コレは私のなんだから…ッ!」
「はいはい。ロスはザハグランロッテちゃんのものですよー」
ロスは優しくザハグランロッテを背におぶり、そのまま歩こうとした。
「…じゃあ私はザハしゃんをおぶったロスしゃんおぶるッ!」
こちらの許可を取る前に、エニアは勝手にザハグランロッテをおぶるロスを持ち上げた。
「マジかよ…!?エニアちゃん!?凄ぇ…力強いなぁ…」
「えへへ、そうでしょッ!」
別に褒めたつもりは無かったが、まぁ…本人が満足そうなので黙っておいた。
「おいホシェ!」
「ホシェ!?お、俺の事か!?」
エニアにいきなり呼ばれてホセはビクビクと身構えた。
「私と競争ら!ミカドを持て!!」
雑な指示で勝手に競争を始めるエニアだが、頭を割られたくないので誰も止められない。
そんなこんなで結局、宿に戻ると全員疲れてぐったりとダウンした。
先の見通しが立っていないまま寝るのはホセのような神経の図太さが必要だ。
ロスは案外肝っ玉も小さいので、代わりにアルコールの力を借りたわけだが…。
大丈夫…。
大丈夫だ…。
明日の分からない不安に、ロスは大丈夫だと自分に言い聞かせながら眠りに落ちて行った。




