18 再出発…②/③
ミカド達は今、狩りをしようと森の前まで歩いて来ていた。
「なぁ…でもやっぱり、あれはなんか甘やかしが過ぎてない?」
ホセは出発前の事を思い出し、ロスのザハグランロッテへの対応がどうしても納得いかないと息巻いた。
「……羨ましい。あれは別におかしくない。みんな見習うべき」
エニアはキラキラと、恍惚とした表情で2人の姿を思い出していた。
私も尽くされてみたい…。
そんな顔をしている。
「いや…エニア、流石にあれはやり過ぎだと思うけど?」
エニアの反応にぎょっとしたミカドは、即座に変だと釘を刺す。
今後のためにも、エニアには常識から外れないようにして貰いたかった。
ホセもミカドもエニアも、それぞれ感想は違うけれど、ロスがザハグランロッテを甘やかしているという認識は共通だった。
実は一度、ミカドは『甘やかし』についてロスに聞いた事があった。
「そしたらこう言われたよ…」
「俺はな、単にザハグランロッテちゃんに尽くしてるんじゃないんだ。彼女に尽くすと俺の心が洗われるんだよ。精神安定剤なんだ。ザハグランロッテちゃんは優しいからそれを察してくれてるんだよッ!」
「めっちゃ力説されてドン引きした…」
ミカドが受けた衝撃を紹介した。
「ふーん、そう」
ホセは興味なさそうに一言で終わらせた。
「…素敵」
エニアは目をキラキラさせている。
甘やかしている…という事は共通認識だと分かったけれど、それに対する意見は纏まりそうもない。
好き勝手な仲間を見て、ミカドは何だかどうでも良くなった。
「俺はナナが居れば良いんだ…」
ミカドは蛇ちゃんを撫でている。
「あ…!?そういえば水の街に行く件だけど、それで良い?戻らなくていい?」
ミカドが思い出した事を口にした。
「まぁ?他にやりたい事も無いし…いいんじゃねぇの?俺は良いと思うけど」
ホセは反対する理由が無いと言った。
「…私はザハさんをもっと見てみたい」
エニアはロスとザハグランロッテに興味を持ったようだ。
「なら、しばらくはこのままでいいのかな…本当に良い…のかな…?」
ミカドは、みんなの意見を聞いて、尚更これで良いのか不安になった。
……もう少し、様子を見るか…。
拭いきれない違和感を、ミカドは一旦棚上げすることにした。
「よし、こんなもんかな!俺も水浴びに行ってこよう」
ロスはザハグランロッテの足をタオルで拭きながらそう言った。
心ゆくまでザハグランロッテの世話が出来て、ロスは大満足していた。
「飯の準備は終わってるからザハグランロッテちゃんは俺が戻るまで、昼寝でもしててよ」
…………。
ロスの声が弾んでいる。
自分は何もしていないけれど、ロスが元気になって良かったとザハグランロッテは安心した。
マッサージと言葉で甘やかされ、心身ともに弛緩したザハグランロッテは、うとうと眠くなっていた。
ロスがブランケットを持ってきて、かけてくれた。
本当に良く気が利く…。
私はヒラヒラと手を振って、ロスを水浴びに送り出した。
「えっと…これは小腹用、飯が出来るまで食べられるツマミね」
夕方、そろそろ食事の準備を始める時間になっても、ロスの世話焼きは終わらなかった。
今日は一日中世話を焼かれ続けている。
黙っていても喉が渇けば飲み物が…座りたいと思えば椅子が…そして、今みたいに小腹が空いたと思えば殻を剥き終わった木の実がお茶と共に出てくる…。
前より過剰に………?
「お前らの分もあるから食べて良いぞ」
新しく加わった者にも世話は焼く。
けれど、自分とは違い、扱いがずいぶんとぞんざいに見える。
今おいた木の実も、自分の物は殻が剥かれている。
けれど、彼等の分は殻が付いたままだ。
「こっちは殻、付いてんのかよ…」
私が思うのだから、本人たちも当然そう思うだろう。
ホセは扱いの違いに絶句し、力が抜けてしまっているが、私は当然だと思った。
恐らく新参者だからだろう…。
「当たり前だろ?お前らに尽しても俺の心は洗われないんだよ。お前らもエニアちゃんの分くらい殻を剥いてやれよ?」
違った…。
単なる差別か特別扱いか…。
「あ、ああ。そ、そうだな…」
期待した様子のエニアに、ホセは頬を引き攣らせながらそう答えた。
そう…小娘の相手はお前達がすれば良いのよ。
ロスの淹れてくれたお茶を飲んでいると、小娘が話し掛けてきた。
不愉快ね…。
「…ザハさん?ロスさんって昔からあんな感じなの…かな?」
小娘は、不思議そうに私に向かって質問してきた。
私はイライラする気持ちを我慢しながら、質問に答えてやった。
「始めはもっと普通だったわね。気が付いたら勝手にああなった感じかしら…」
「そうなんだ…ザハさんいいなぁ…」
自分が原因かもしれないが、アレも…何か抱え込んでいるのだろうとザハグランロッテは思っている。
ただ…小娘に教える義理も無いので口に出すつもりは無かった。
ロスを小娘に譲る気は無い。
アレが私を選ぶ理由も無いけれど…。
そう考えて少し憂鬱になった。
「ていうか魚塗れで汚臭放ってた最初と違い過ぎて現実感が無いな…ひっ…!」
殺そうかと思った…。
ホセと呼ばれている失礼な男が、いつものように失礼な事を口走った。
気に入らないと思ったザハグランロッテは、ホセを冷たく睨みつけた。
こいつは失礼で常識が無いわね…。
本当に失礼な奴だ。
しかも本人はあれで褒めたつもりなのだろう。
それがこの男の本質で、だからこそ残念な男なのだろう。
仲間からもそう思われ、そして当の本人はそれに気が付いていない。
滑稽ね…。
「でも、ザハさん…本当に綺麗…」
エニアはうっとりと見惚れている。
今日は朝から一日中、ロスによって磨き上げられている。
私の実力以上の魅力が引き立てられ、落ち着かないくらいだ。
口には出さないが、ミカドもエニアの意見に内心で頷いていた。
ロスの構い方は異常だが、客観的に見て、ザハグランロッテはかなり美人だと言えるだろう。
それより…。
「水の街…か…」
ミカドは棚上げになっている、今後の目的を考えながら呟いた。
仲間は付いて行くつもりのようだし、ミカドもそれに異議はない。
「ヘイナスはもういないし…水の街を見て、調べてからなら、帰っても…けど、アイツら俺達を見捨てやがったからな!やっぱ腹立つわ!!」
ホセが思い出して腹を立て始めた。
他人事とはいえ、自分が同じ立場なら確かに腹が立つだろうなと思った。
「私は、このままでいい…」
小娘は今のパーティに満足している、というより今のパーティがいいのだろう。
この3人がこれから自分とロスに付いて回るのかと眺めながら、ザハグランロッテはロスの淹れてくれたお茶を飲む。
どうなるのかしら…。




