14 宴会…②
「さて、収穫はこんなものでいいか」
腰が痛い…年を感じるな…。
年齢を意識をしながら、ロスは腰を叩いて背伸びをする。
「ザハグランロッテちゃんもごめんね!付き合わせて、本当は昼寝でも日光浴でもしてもらいたいんだけど、俺ってあんまり強くないからさ、近くにいないと不安で…」
前に対峙したリヴァイアスを思い出し、手も足も出なかった情けなさが込み上げる。
見栄を張りたい気持ちはあるけれど、それ以上にザハグランロッテを危険に晒したくない気持ちの方が勝っていた。
「お前は…できる事をやってる」
彼女はそう言ってそっぽを向いた。
自分の奮闘を評価され、なんだか全て報われた気がした。
いつも素っ気ない彼女だが、その態度がますます好きになっている。
「ザハグランロッテちゃん。今日は何が食べたい?」
気が抜けたロスの頬が緩み、気持ちも心地良くなった。
「野菜がメインの…そうね、ポトフみたいなものがいい。私はスープが好きだから」
なるほど…ザハグランロッテちゃんはやっぱりスープが好きだったのか…。
だろうなと思って、ほぼ毎食スープを出していて良かった…。
夕食は彼女の希望通りにポトフを作った。
そして、狩りの成果が思ったよりも良かったので、豪勢なメニューになりそうだった。
「これ、イノシシの魔獣か?本当に狩りは得意なんだな…」
一つ前の集落でロスは敵わないと言い、リヴァイアスが瞬殺した魔獣だ。
大きさはあの集落のものより、ふた回りくらい小さいけれど…。
俺じゃ倒せない…。
ミカドたちの強さがかなり自分の上を行くと、ロスは改めて思い知らされた。
けれど、今はそれを知られる訳にはいかない。
だから、状況を利用して誤魔化すのだ。
ミカド達はヘイナスに勝てない…。
今はそれを使う…。
ヘイナスに勝てる自分の方が強い。
そう思わせるのだ。
でなければ大人しく従っている今の状況が続かないかもしれない…そう思った。
ロスにとって、ヘイナスの排除は通過点なのだ。
なんとしても水の街に…。
責任の重さに潰されそうになりながらも、ロスは平気な演技を続ける。
こんな時は…。
ロスは干し肉を細長く切ってザハグランロッテの前に置き、そのまま作りかけのスープに薄い味付けを加え、干し肉の隣に並べた。
地に足がつかない様な…浮ついた気持ちが世話で少し落ち着いた。
「凄ぇ自然に尽くしてんな…」
思ったよりも余裕が無く、ロスは声がするまで気が付かなかった。
呆れたような声が聞こえた方を見ると、向いてみると呆れた顔をしたホセだった。
少し考えてホセに言い返す。
「お前もエニアに優しくしろよ」
からかい半分、アドバイス半分という気持ちで言ったのだが、ホセはビクリと反応した後、固まってしまった。
この反応がどういう気持ちから来るものなのか、ロスにはイマイチ判断できなかった。
次はメインの肉…。
「う…ん。イノシシは満足感を得る役になってもらうか」
肉を見ながら夕食の献立を想像する。
米と肉で腹をガツンと満たし、ポトフで野菜を摂る。
満足するザハグランロッテの顔が浮かび、再び頬が緩む。
良し!これで行こう…と、ロスは決めた。
まだまだ明るいけれど、夕方を過ぎ、これからどんどん暗くなっていく時間。
ロスの準備は全て終わった。
「さぁ、夕食だ。この夕食もヘイナスを誘い出す作戦のうちだからな?」
「も?」
ミカドはロスの言葉から違和感を拾い上げた。
「ああ、お前らには言ってなかったけど、1日だって無駄にできないからな。試しと合わせての笑い茸…分量失敗してフルボッコにされたけど…あれ、遊びじゃないんだぞ」
ロスはドサクサ紛れにやらかしをそれっぽく誤魔化してみた。
しかし、全員から微妙な目で見られたロスは、ばつが悪くなった。
誤魔化しは失敗か…(笑)
「あれだ…。昨日なら失敗してもリスクが少なかった…という事にしておこう」
チラリと見ると全員真顔…信用していないようだ。
「と、とにかく!楽しそうに見えないと成功しないんだ!だからって自然に楽しめる気持ちにならないだろ!?」
だからこれ…。
ロスは懐から白い粉末を取り出すと皆に見せながら笑った。
「さぁ、笑おうぜ?」
全員ドン引きしているが、意味があると言われては逃げられない。
「昨日だけじゃ、まだ効き目と笑い茸の適量が掴めなかったから…失敗したらごめんな?」
ロスの不安を煽る発言は、意趣返しを含んでいる。
その悪い顔にミカド、ホセ、エニアは凄く嫌な顔をしていた…。
「ふはっ…ふふふ、っんふす…ふふふ、ふは、ははは」
笑うザハグランロッテを見ながらロスも愉快そうに笑った。
「今日は、ははっホセが!狩りのとき、ふは…ははっ。イノシシの突進…さ、避けて、ははは!顔上げたら…そこにエニアいて…ぶ、ふはっはっははは!」
「そ、それはビビるだろッ!?ははははっ!」
笑いながら話すミカドに、ホセは抗議し笑い出した。
少し…いやかなり不自然な笑い方だけど、まぁ問題ないだろう。
テーブルをバシバシ叩きながらエニアが不満を表現している。
その顔は本当に楽しそうだが、叩いている台は鈍く軋み、まるで悲鳴のように聞こえてなかなかホラーだ。
「ふふふ…ふふっ…ははあは…」
ザハグランロッテは静かに笑っている。
「ははっこっちの女性…は、ははっ闇の女神…ふは様の、恩恵…で、ははは、男よりふは…強い…だから、エニアもははは、馬鹿力…ふはっははははははっ!」
ホセは爆笑しながら説明してくれた。
側でエニアも笑ったが、目が据わっている。
ロスは昨夜の事が思い出され、頭に幻覚痛を感じて脂汗が噴き出した。
同時にホセがエニアを恐れる理由に深い共感を覚えた。
「まだまだ盛り上げるぞ!」
ロスは準備しておいた楽器で軽快な音を奏で、場を更に盛り上げる。
無理やりだろうが関係無い。
笑っていれば、いつしか本当に楽しくなってくるものだ。
美味しそうな夕食と匂い、陽気で楽しそうな音楽と絶えない笑い。
誘蛾灯に誘われる様に、雰囲気に誘われてついにヘイナスが姿を見せた。
「ボヘッボヘッボヘッボヘッ!」




