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14 宴会…①

5月中旬


ロスとザハグランロッテの前にミカド、ホセ、エニアの3人が並んでいる。


「あの…話、して…やっぱり協力をお願いしたくて…」


目を伏せてそわそわしながらミカドが代表して話し始めた。


そりゃ言いにくいだろうな。

あんだけ啖呵切ったんだし?

ホセの方はまだ納得できてない感じもするけど…。


「それって食事薬殺の作戦をやりたいって事でいいの?」


ちゃんと聞いとかないと…またゴネられたら困る…。


ロスの目的はザハグランロッテを生かして楽しいと思って貰う事だ。

そのためにイビル種の蛇ちゃんの力が欲しい。

隠さず言えば、蛇ちゃんだけが必要で、この3人はおまけなのだ。


「…です」


ミカドの了承を確認し、ロスはどうしようか悩んだ。


まだ話していない内容…。

話した方がいいか…?

どうすれば蛇ちゃんを引き入れられる…?

無理ならここで切りたい…。


それから…。


「ザハグランロッテちゃんどうする?嫌なら断るけど」


今後の事を考えればイビル種の蛇ちゃんは仲間に喉から手が出るほど欲しい。

けれど、ザハグランロッテの不興を買ってまで引き入れるのは違う気がした。


彼女には、いっぺんの曇りもなく楽しくいて欲しい。

ロスはそう考えている。


どうだ…?


「お前が決めなさい」

彼女は、いつもの澄まし顔でロスに感情を読ませなかった。


どう思ってるかわからねぇなぁ…。

でも、ダメとは言われなかった…。

…なら、蛇ちゃんを仲間に引き入れる方でやってみよう…。


「…じゃあ…今回は助ける事にするよ。でも…最優先はザハグランロッテちゃんだから!これは絶対に変わらないから!」


中々上手くいかないが、ロスはザハグランロッテの不安を少しでも減らそうと出来る限りの事を試している。


伝わった…か…?


「あぁそう…」


彼女の返事はつれない返事だった。

しかし、それで構わないとロスは思っている。


何度でも伝えれば良いんだ…。


「そういう理由で、いまザハグランロッテちゃんに、お茶を淹れてるから。そこで待ってろ」


謝罪し、ヘイナスを殺る助力をミカド達は求めてきた。

ロスから見れば、失いかけた船が戻ってきたようなものである。


それでも…。


一緒に行動するのなら、こちらの考えもある程度理解してもらいたい。

そうしなければ勘違いが発生するからだ。


ミカド達を入れたとしても、この集団の序列一位は表向き自分でなければダメだとロスは考えている。

そのロスが自分以上に優先する相手がザハグランロッテなのだ。


ザハグランロッテのお茶が終わるまで待たせる。

これは、ミカド達の序列を自分たちの下に置くための手順として外せない。


ザハグランロッテちゃんの方が上と格付けしておかないと…。


「おかわりはいる?」


「必要ない」


ミカド達を放置して、ロスはザハグランロッテに様々な気を使う。

ホセはイライラしていたが、我慢して大人しく待っていた。


ここで我慢が出来ないなら問答無用で切るつもりだったけど…。

本気みたいだな…。


「それじゃ…作戦の続きを話そうか」


ミカド達の方を向き、ロスは真剣な顔をしてみせた。


「もう、落ち着いてると思うんだけどさ。まず最初に立場、立ち位置の話をしておこう」


ついさっき、格付けの下準備は終わらせたけど、言葉で明確に伝えておかないとな…。

作戦途中で拒否されるとザハグランロッテちゃんまで危なくなる…。


「まず、君らにとって俺とザハグランロッテちゃんは命の恩人だ。俺達がいなかったら、君らは彼女の言うように全員、間違いなく死んでただろう」


しっかりとホセの目を見ながら釘を刺しておく。


「次に、君らを死の寸前まで追い詰めた相手…恐らくイビル種の猿は今もまだ君らを狙ってる」


ロス達と行動し始めてから猿を見ていないミカド達は、怯えを見せながらキョロキョロと周囲を警戒し始める。


それで良い…もっと警戒しろ…。


「奴らは頭が良い…君らの顔や臭いを絶対に忘れない。諦めたと思ってるなら考えが甘過ぎる」


追い詰められた恐怖と絶望は三人の脳裏にこびり付いているのだろう。

それぞれが複雑な表情を見せている。


「そして、君らには対抗策が無い…いや、方法は教えたから無いのは手段か…」


この辺りまでが、前に話した事だ。


「奴を倒し、狙いのターゲットから外れるには俺達の助けがいる…分かるよな?」


このまま作戦の話に移っても良かったが、ロスは最後に目的をはっきりさせておこうと考えた。


「ここからが大事なんだけど…」


きちんと聞く気があるか…ミカド、ホセ、エニアの様子を見ながら確認する。


うん…大丈夫そうだな…。


「まず…お前達は意識を変えろ。残った仲間を大事に。失くさないように考えろ。ザハグランロッテちゃんが言ってたのはそういう事だぞ」


たぶん違うけど…。

話の辻褄は合ってるはずだ…。


「想像しろ。ミカド、ホセ、エニア、それに蛇ちゃんも…。ここから誰か1人でも死んでたら、ヘイナスに勝ったとしても喜べるか?」


俺がこいつらの立場なら喜べない…。

ザハグランロッテちゃんを失うくらいなら死んだ方がいい…。


「死んだ人間は生き返らないのを忘れるな。仲間が死ぬと分かっている方法を感情で選ぶな」


至極真っ当な説教に、3人ともバツが悪そうだった。


「誰も死なない方法があるんだ。復讐心を捨てろ。ヘイナスを倒した後の事を考えろ」


そうだ、考えろ…。

考えないから…。

倒せないと思っていたから…。


本当は心のどこかで生き残る事を諦めていたから…。

だから玉砕なんて方法を選ぶんだ…。


「ホセ、お前はエニアが死んでもヘイナスを倒せる方が良いのか?そんな訳ないよな?」


コイツは感情優先だ…。

返答は要らない…。

本命はこっち…。


「エニアはどうだ?ホセ、ミカドを失っても平気か?」


「…ダメ!そんなのは…ダメ…!」


だよな…。

それが普通だ…。


「ミカドはどうだ?お前がいないと蛇ちゃん、誰とも一緒にいられなくなるぞ?お前はそれで平気なのか?」


「…………」


残して死ねないだろ…?

俺もそうだからな…。

ザハグランロッテちゃんを残して死ぬなんてあり得ない…!


無意識に手が彼女の頬をなでる。

『パシンッ!』

不愉快そうに手をはたき落とされた。


ちょっと痛い…。


「だからこその食事だ。猿の習性を利用する。ボス猿がいくら賢いって言われてようが、いくら狡猾だろうが関係無い」


あんまり言いたく無いけれど、説得力を持たせるためにロスは低い声で脅しを入れる。


「いいか、よく覚えとけよ…。この世に、人ほど残酷で狡猾な種族はどこにもいないんだよ…」


敵に回して一番胸糞悪くなるのは、間違いなく相手が人間の場合だ。

ロスはそれをよく分かっている。

正面からの戦いを悪にシフトすれば、イビル種の猿なんて子供を相手にするのと変わらない。


後味は確実に悪くなるだろう…。


「今更、奴と飯が食えないとか言わないよな?これは形を変えた戦いだ!」


「…………」


脅し過ぎたか…?


「なんだよ…ノリ悪いな?ここは「うおーッ!」とかなるとこじゃないの?」


「お前がバカなだけよ」


スベった空気になる所を、ロスはザハグランロッテに助けられた。

最高だぜ、ザハグランロッテちゃん…。


仕切り直しだ…。


「猿の行動原理は執着、好奇心、遊び心だ。残虐とか凶暴というのは戦うからこそ感じるものだ。これは、相手をした人側がそう感じているだけで、あいつ等にそんなつもりは無いんだよ」


「は…?でも実際凶暴だし殺しても殺しても地の果てまで追いかけてくるし、笑いながら死ぬまでこっちを殺そうとしてくるんだぞ?それを残虐って言うんじゃねぇのかよ!?」


ホセは納得できないといった感じでロスに詰め寄った。


「お前らはそう感じたってだけだ。猿どもから見れば遊び…。お前らと遊んでただけだ…児戯でしかないんだよ」


三人とも絶句している。

そりゃそうだろうな…。

お前らの仲間は遊びで殺されたって言われてるんだから…。


「色々思うところはあるだろうけど一旦飲みこめ。話が進まないから」


立ち直っていない様に見えるが、ロスはそのまま話を進める。


「俺達は奴らの習性を最大限利用する。…その為の方法として…俺達が楽しく飯を食べる必要がある」


「それで…?」


ミカドが先を促す。

言葉が少ないのは邪魔をする気が無いからだろう。


相槌のようなものだな…。


「俺はこれまで、食事、メシを食べると言ってきたよな?ただ、実際にやるのは宴会だ。盛大に何日もやる」


ここまで来れば、流石に反発も無いな…。


「盛大な宴会だ…どこかでお前らを見張っている猿は絶対に興味を持つ。あいつらは好奇心の塊だからな」


「…………」


3人は、無言で猿がいないか周囲をキョロキョロ確認する…が、やはり見える範囲に奴らはいない。


ビビリは治らないかもな…。


「盛大な宴会、それをヘイナスが現れるまで何日も繰り返す。警戒心が高いからいきなりは出て来たりしない…と、思う」


「攻撃されたらどうするんだよ?」


「攻撃…?戦いは奴らの遊びだ。飯食って笑ってるなら、何が楽しいのか知りたい、その好奇心の方が戦いより優先されるから攻撃はされない」


「…本当かよ…信じられねぇな…」


散々襲われ、仲間をたくさん殺されたホセたちにはとても信じられないだろう。


「もちろん、罠だと思われたら襲われる。その危険を認識して楽しく宴会だ。お前らが初めに考えてたような、お手て繋いでみんな仲良し!みたいな軽い作戦じゃないから覚悟しろよ?」


ロスの弄りに、ホセとミカドは苦い顔をしている。


「だけど、猿に襲われるかも知れないと思いながらだと、飯を楽しく食べるなんて無理だろ?だから…」


「…笑い茸」


エニアが正解を口にする。


「そうだ。ゲラゲラ笑いながら飯を食べる俺達に、ヘイナスは攻撃するよりも必ず興味を持つ。何がそんなに楽しいのかと…そして自分も楽しみたいと思うはずだ。イビル種は総じて知能が高いからな」


今もだが…。


「ヘイナスは段々近付いてくるはずだ。そこで俺達が食べているものをヘイナスにも食べさせる。もちろん始めは警戒して遠巻きに見ているだろう。食べ物を遠くに置いてやったり工夫が必要だ。それと、笑い茸の分量は軽めにする」


「俺達の飯を食べた次の日は、警戒心が薄れてもっと近づくし、もっと食べるだろう。だから俺達はヘイナスと笑いながら飯を食べる。といっても笑うのは笑い茸で無理やりって感じだけどな…」


「場の雰囲気が楽しければヘイナスも楽しくなって食が進むはずだ。そもそも遊ぶのが大好きな奴らだ。遊ぶのが好きってのは、楽しいのが好きって事だ。楽しければ笑い茸の摂取量も増える。気が付いた時にはヘイナスも楽しく笑い過ぎて動けなくなるだろう」


「笑い茸を摂取するとどうなるか、過剰摂取するとどうなるか。これはもう体験済みだから分かるよな?ヘイナスもああなる」


「…凄い」


エニアの素直な言葉に思わずニヤついてしまった。


褒められるとか…久しぶりだ…。

横のザハグランロッテちゃんが不満そうに見えるけど…。


「作戦はこんな感じ。細かいところは状況で変わると思う。後は動けなくなったヘイナスを処理するだけだから危険は無いだろう」


「お前…ずいぶん性格の悪い作戦を考えるのね」


「…人間だからね」


彼女は性格最悪と言われる地の街で育ってる。

人間の醜さは十分理解しているだろう。


もしかしたら地の街で出会ったどの人間よりも性格が悪い…なんて思われただろうか…。


「さあ、作戦は以上だ。あまり時間は無いぞ!食事の準備をしよう!」


ん…?


「ど、どうした…? 何か気になる事でもあった…??食事の準備…」


あれ…?

なんか反応悪いな…?


ロスの作戦を聞きながら、3人は想像してしまったのだ。

楽しいと思っているだけの相手を殺す。


この作戦が成功すれば最悪の後味になるだろう…想像ができてしまったか…?


「ど、どうかしたか?」


「あ…いや、なんでも…」


ロスは人の醜さを間近で見慣れている。

自分の立てた作戦も、ちょっと性格が悪いくらいの認識しかない。


だから、感じている印象に大きなズレが生じているのだ。


気持ちを整理する…時間が必要…?

なら…。


「お前ら狩りとかできる?」


「…おう。狩りは得意だな」


そうか、狩りは得意なのか…。


「なら狩りを頼む。今は…昼くらいか…。晩飯に使いたいから血抜きして持ち帰ってくれ。せっかくなら美味しい夕食にしようぜ!」


慣れた得意の狩りをして気持ちの整理をつけてもらおう…。

今更止めたは聞かないからな……。


ロスは話をそこで一旦切り上げた。

色々と言っていない事も多かったが、それはロスが状況を見て調整するつもりだった。



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■内容はほぼ同じですが、性的描写を省いていないバージョンです


【R18】因果の否定、混沌の世界でハッピーエンドを渇望する物語



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