13 対ヘイナス作戦…後編
ミカド、ホセ、エニアの外伝を午前0時頃に投稿していきます。(不定期)
「それで…?」
「あ……はい…」
ロスは4人から囲まれ正座を強要させられていた。
ミカド、ホセ、エニアへのマウントも完全に成功していたのだ。
それが…。
「ど…どうも……す、すみませんでした…………て、てへっ…?へぶぅっ…!」
ザハグランロッテから容赦なく鉄拳が飛んできた。
しかし許されそうな気配は無い。
ザハグランロッテに至っては、これまで見たことないレベルの冷めた澄まし顔で、流石にロスも肝が冷えていた。
やらかしちゃったなぁ…。
完全に囲まれたうえ、逃げられそうな雰囲気がまるで無かった。
蛇に睨まれたカエルみたいだな…。
いや、リアルに蛇ちゃんにも睨まれてるんだけど…ね…?
「い、いやぁ…説明…するより体感する方が、早いかなぁっ…て…説明?しても…?ほら!…? 納得…? してくれそうにさ?…なかったし…?…ね?」
「………死にかけた…」
ボソリと言ったあと、エニアに頭をガシリと鷲掴みにされた。
「あっ…?エ、エニアちゃ…あ!い、いたいたたた!!痛い!痛い…いったたたた!!!」
な、何これ!?
この子メッチャ力が…!
強いんだけど…!!!
あ、、あたま…!わ、割れる…!
これは、マジ割れる…!!
「あ〜それ痛いよね? 分かる…分かるなぁ…懐かしい…思い出したくない痛み…俺は割れたけどね?…笑いながら割られたなぁ…」
ミカドの不穏な言葉が耳から脳に滑り込み、ロスの危機感をサワサワと撫であげてくる。
滲み出る脂汗は玉のように大きくなり、ロスの不快感を一層大きなものにした。
これはもう駄目かもしれない…。
そう思ったとき、冷たい声がピシャリと響いた。
「ちょっと待ちなさい」
ミシミシ骨が鳴り、絶望を感じ始めたロスを庇う声が上がった。
ザハグランロッテちゃん…!
「骨を割ったら死ぬかも知れない…それは許容出来ないわね…私も腹は立ってるけど…」
ザハグランロッテちゃん…!!
「…大丈夫ですよ?回復魔法で治せばいいんですから」
指の隙間からニッコリ笑うエニアが見えた。
こ、怖い…この子…怖い…!
ロスはホセが一線を越えられない理由をなんとなく察した。
「そう…治るならいいか…」
回復魔法が使えるザハグランロッテは、治ると聞いてロスの事はどうでもよくなったようだった。
「そ、そんな…あっ…いでぇ…」
ロスは…頭蓋骨の割れる不穏な音が響いた気がした…………。
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「………………はっ!?」
…………あ、頭…頭はっ…!?
「つ…付いてる…?…??」
自分の頭が付いている…なんだか実感が無くて頭を触っていると不意に手の甲に柔らかい感触が…。
「あっ…」
声の主がザハグランロッテなのは直ぐに分かった。
そして状況の飲み込みが、先ほどの『あっ…』の威力を反芻させてくる。
猛烈にリビドーが刺激され、ムクムクと元気が湧き起こる。
「イテッ!」
頭が地面にぶつかり耳を強打した。
痛みでのたうち回っているとザハグランロッテの声が聞こえた。
「お前が悪い…」
徐々に引く痛みと共に、瞼を開けると少し赤い顔をしたザハグランロッテと目が合った。
な、何だ…これ…?
「う…ん…。やっぱ…可愛いなぁ」
本音がぽろりと口から溢れた。
「はっ!?俺!…、?生きてる!」
俺…生きてた…!
「まじか…本当に殺されるかと…」
思い出すと頭が割れる音が蘇ってきた。
ロスは頭を抱え、体は不自然にガタガタ震える拒否反応を見せた。
『バチンッ!』
「それはお前が悪い」
彼女に両手で顔を挟まれ、間近で顔を凝視されたロスは、見惚れる事で拒否反応から解放された。
「はぁ………ザハグランロッテちゃんと生きてるって…素晴らしい……」
「…お前…やっぱりバカね…?」
呆れた表情のザハグランロッテも可愛くて素敵だとロスは思った。
………。
死を間近に感じたせいか、ザハグランロッテから目が離せない。
彼女から目を離せないまま、他の三人はどうしたのか気になった。
「お前が起きないから昼寝してる」
「ヘイナスは?」
「見てない」
「そうか…良かった…」
危なかったぁ……!
意識が無い間に猿共が来て襲われてたら死んでたぞ…!?
とは死んでも口に出せない。
「皆まだ怒ってる…?」
「いいえ…ただ、だいぶ呆れてるわね」
効き目を見るため、そして分量を調べる為にやった事だが、ふざけていると思われたのだろう。
その分量…予想をだいぶ外した俺が悪いんだけどね…。
「仕方ない、もう一度謝ってくるかぁ…。まだ説明も最後まで終わってないし………怖いし嫌だなぁ…」
「自業自得ね」
正論で追い打ちをかけられながらノロノロと動く、その全てが気重さを表していた。
「と、いう理由でして!昨日は楽しかったですね?」
身振り手振りを交えながら、ロスはミカド、ホセ、エニアの3人に、懸命に言い訳していた。
やらかす前に着飾った威厳が、安物のメッキのようにボロボロに剥がれ落ち、それはもう惨めな姿となっている。
「一応許すけど…死にかけたのは覚えてるからな!」
唯一の救いは、一番怒ると思っていたホセが、思ったほど怒っていない事だった。
「ごめんごめん。でもアレは必要な工程だったんだ。…それで、どうだった?薬の効果は実感できた?」
俺はかなり実感できたと思うけど…。
皆はどうかな…?
恐る恐る反応を待っていると、見かねたミカドが歩み寄ってくれた。
「…まぁ、思ってた薬とは違ったけど」
ありがたい…!
ロスは感謝しているが、ミカドの歯切れは悪い。
薬に対しては、印象がよくなかった。
という事だろう。
「薬殺だからな…致死性の毒を使うと思ったんだろ?」
せめて絶望を味わわせたい…。
誰も答えないが、悔しそうな表情をみればそう思っているのが丸分かりだった。
「実際口にして分かっただろうけど、今回使うのは『笑い茸』だ。けど、その理由だってちゃんとあるんだからな?」
これ以上適当だと思われるのは良くない…けど…。
納得してくれるかなぁ…?
ロスの不安が大きくなる。
その気持ちが滲み出て、ロスの話は歯切れの悪いものになる。
それでも言っておかなければ…。
「致死性の毒は使わない。ヘイナスに摂取させるのが難しいし、取扱いも難しい。それに危ないしな」
毒だと扱い間違えるとこちら側に被害が出るし、それ以上に猿の習性を利用できないのは勿体無い。
そして何より間違えてザハグランロッテに何かあれば後悔なんて話では済まなくなる。
「でもどうやって薬を飲ませるんだよ!矢に塗り込むのか?」
未だに興奮しているホセをウザいと思いながらも話を補足する。
ホセの疑問は当然だけど…。
「それをやっちゃうと、戦うのと変わらないだろ? 奴と正面から戦うってことだから却下」
イビル種とガチンコ正面バトルなんか絶対にご免だ…。
当然ホセは突っ込んで聞いてきた。
「じゃあどうするんだよ!?」
この子は本当に落ち着きがないな…。
それを今説明してるんだろ…?
少しは黙って話を聞けよ…。
いい加減鬱陶しいホセに、愚痴りたくなるのを抑えて説明する。
「それを可能にする為の、笑い茸なんだよ。あと…作戦の成功確率も上がる」
ただ…。
「問題はお前らだ。前に言ったよな?お前らには難しいって…」
慎重に…。
ロスは3人の心理を自分が望む方へ…望む方へと誘導を始めた。
頼むぞ俺…ザハグランロッテちゃんを生かすためにも…。
失敗はできない…。
「難しくたって…アイツを殺れるならなんだってやってやる…!」
静かに聞いていたミカドの言葉は…決意と怒り、そんな感情が節々から感じ取れるようだった。
そんなミカドを見て、ロスは大丈夫だと判断し、誘導を先に進める…。
「あのな…はぁぁ…。そんな様子だから難しいって思ってんだよ…。お前らがやらないといけないのは、ヘイナスと楽しく食事することなんだよ」
いや、食事っていうより…。
ロスの頭にはヘイナスと楽しく食べて飲んで騒ぐ…宴会が思い浮かんでいた。
「食事?あのボス猿と?」
ザハグランロッテが思った疑問をそのまま呟いた。
ホセはピンときてない返事と表情だが、他の三人もそれは同じだろう。
「あーまぁ。奇抜な作戦だと思うよ?でもちゃんと理屈に合った作戦だから…頼む、落ち着いて聞いてくれ」
またホセが怒りだす…いや、今回は3人とも怒るか…。
怒るより混乱している今が、説明を進めるチャンスだとロスは考えた。
「まず、猿の習性を利用する。あいつらの行動は基本的に、執着、好奇心、遊び心、そんな動機から始まる…」
…………………。
あれ…?
これ聞いてるか…?
続けても大丈夫かな…?
「まぁ、討伐に習性を使うのは定石ではあるわね」
ミカドたち3人の反応はいまいちだが、ギルド職員だったザハグランロッテはピンときたようだ。
それに比べてミカド達は固まったまま…反応も無く、聞いているのかさえ不安だ。
この辺の考え方は闇の世界と大きく違うのかもしれない。
……進めていい…か?
「……イビル種なら、強大な力、高い知能、狡猾で高い警戒心なんかがプラスされていると思う」
実際どの種類のイビル種も、知能は高く、力も強い、警戒心が強く不意打ちはまず不可能、むしろ不意打ちされるのは基本人間側だ。
「つまり、正面から戦っても勝算は少ない。だから油断を誘う食事…できれば宴会を…ってわけ………なあ聞いてる?」
ヘイナスと食事をすると言ってから、3人の反応が全く無くなった。
石像かと思うくらい固まっている。
まだ噛み砕きながら理解してんのか…?
自分が理解できない話を聞いたとき、理解が追いつかずに困惑し、硬直するなんて話は割と聞くけど…。
流石に、そろそろ理解が追いついてもいい…と思うんだけど…??
どうしよう…刺激が強すぎた…?
いやいや、これは俺とザハグランロッテちゃんにとっても大事なことなんだ…頼むからしっかりしてくれよ…。
ロスは困って話を進められなくなった…。
3人の様子を見ているとホセの顔が赤く怒気を含んできた。
お…噴火しそう…なるほど、こっちのパターンか。
「あ、アイツとっ!仲良く!?飯なんか!!食えるかぁッ!!!」
本気で怒ってるな…。
ロスは予想していた反応に、そんな冷めた感想が頭に浮かんでいた。
でもな…。
こっちも遊びじゃ無いんだよ……。
「おまっ!ふざけんなよ!今まで何人アイツに大事な仲間が殺されてると思ってんだ!そんなの出来る訳ねぇだろうがッ!!」
ホセが怒るほど、ロスの気持ちは冷えていく。
失敗は許されない…。
そんな怒んなよ…。
ロスは怒りを自分の中にひた隠す。
「そんなに怒るなよ」
お前らの為の作戦でもあるんだぞ…?
「お前らのための作戦なんだぞ」
大人しく聞け…お前らの都合はどうでも良い…俺の思う通りに動け…。
「まあ落ち着けよ。話はまだ終わってないんだから」
どうせ他に方法は無い…。
こいつらは俺の言う事を聞くしかない。
「落ち着けるかよッ!アイツと楽しく飯なんか食えるかッ!」
ホセの怒りは強く、全く収まりそうにない。
それじゃ困る…。
「俺も…それはちょっと…無理かな」
ホセよりは抑えられているが、ミカドも怒りを含み拒否反応を示していた。
ロスはそれを見て、更に心が冷めていった…。
お前らの気持ちはどうでも良い…。
思い通りにさせる…必ず…。
「この方法が最も安全で、最も確実な方法でもか?これ以外の作戦で、全員無事に奴を殺すのは無理だぞ?」
「無理だッ!」
「…俺もちょっと難しい」
即答か…。
ホセとミカドの拒否反応に苛つきを覚えるロスは、気持ちを無理やり押さえ込んでエニアに話を振った。
「君はどうだ?安全、確実に殺れる方法だぞ?」
この子は引っ込み思案の気がある。
こういうタイプは許せない事があってもミカドとホセを失ってまで報復を選んだりはしないだろうとロスは思っている。
怪力でビビるけど…。
軽いトラウマ気味のロスは、頭を庇うようにして無事かどうか確認してしまう。
「…わたしは………」
エニアはホセとミカドの様子を見て答えを出しあぐねている。
ここで少し煽る…。
「はあ…。だからお前らには難しいって言ったんだ…」
そんなこと無い…と、思ってくれれば…。
自然にできる範囲の誘導は終わり、ミカド、ホセ、エニア…3人の心情もロスは大体把握した。
あとは野となれ山となれ…だ。
「初めから俺は、お前らが猿と仲良く楽しく飯が食えるとは思ってねぇよ。だから強制的に笑える『笑い茸』を使う」
できない、嫌だと言うならここで切り捨てるしかない。
ザハグランロッテと生きて水の街に辿り着くにはミカド達…厳密にはイビル種の蛇がどうしても欲しかった。
その為なら、不必要な猿への復讐も手伝う。それが危険だったとしてもだ。
頼む…納得してくれ…!
「ヘイナスを殺すならこの方法がベストだ。仲間も死なない。後はお前らが決めろ。どうする?」
平静を装いながら、ロスは願う。
「だからッ!やらねぇって言ってるだろうがッ!」
「悪いけど…これは無理だ…」
「…………」
ミカドとホセは頑なで、ロスの作戦に乗る気は無いと言った。
エニアに関しては考えを言わないように抑えていて分からない。
だけど手放しに賛成という感じでは無さそうだ。
「もういいわ、俺達で考えるから」
駄目か…。
流石に3人同時の誘導は無理かぁ…。
失敗して残念がるロスを、ホセは軽蔑した様な目で見ていた。
馬鹿だな…。
人の気持ちが分からないなんて…。
とか思ってんのかねぇ…。
まあいいや…。
今日のうちにあの臭い壺持って解散するか…。
上手くいかなかったロスは、ミカド達に見切りをつけた。
つまり見捨てる事を決めた。
そうと決まればさっさと逃げる方法を考えないとな…。
猿はあいつらを囮に撒けばいいか…。
絶対に彼女を守ってやる……。
ロスは一人…強く決意する。
「おい」
ザハグランロッテの声だった。
ん…?
ザハグランロッテちゃん?
いつもに増して彼女の声が冷えきっているような気がする。
「さっきから聞いていれば…お前達…何を調子に乗ってるのかしら?」
冷めた澄まし顔、冷たい声で、ミカド達を見下していた。
怒って…る……?
「な、なんだよ!俺達は別に間違ってねぇぞ!?あのボス猿と笑顔で飯なんか食えるかって言ってんの!俺達はもう何人もアイツに殺されてるんだよ!!今だって憎くてブチ殺したいと思ってるんだぞ!!」
喚きながら思い出しているのだろう。
充血した目からは涙が溢れ落ちそうになっている。
力説するホセの言葉は、見切りを付けたロスにも響く、そのくらいの熱を持っていた。
「私には関係ない。黙りなさい。喚けば済むと思うガキが。お前達の仲間が何人死んでようと私には関係ない」
ロスが思っていても口にしなかった事を、彼女は容赦なく突きつけた。
感情を表に出さない彼女だが、珍しく分かりやすい表情をしている。
「なっ!?」
普通は思ったとしても言わない言葉…それをあっさりと口にする辺り、彼女の性格がよく表れている。
ザハグランロッテちゃんらしいな…。
「お前達、コレは私のものよ。少し貸してやっただけで…何を調子に乗って文句ばかり言ってるのかしら?」
コレ呼ばわりに、所有物宣言。
中々の自己中発言だが、ちょっと喜んでいる自分にロスは戸惑った。
あれ…?
俺…少しおかしくなってる…??
「そもそも、お前達はコイツがいなければ既に死んでいるのよ。にも関わらず…偉そうに」
偉そうにって…ザハグランロッテちゃんが言っちゃうんだ…。
彼女も大概偉そうな態度だと思うのだが、ロスはそれを秒で許した。
ザハグランロッテちゃんは正しい…。
容赦無いのが更に良い…。
「コレは私のものだ。貴様らのものじゃない。勝手に使おうとするな、死ぬなら勝手に死ね。調子に乗るな。死ね」
それにしても随分ご立腹だな…。
そんなに腹が立ったのか…?
「気に入らないのだからせいぜい自分達で何とかすることね」
まあ…もはやこいつ等に気を使う必要はない…それは間違いなく不必要だ…。
ザハグランロッテの暴言を、ロスは全肯定した。
「お前達は3人いるのだから、この男は必要無いでしょう。コレは私のものよ。お前達は勝手にしなさい」
俺…自分の所有物を使われるのが嫌ってことかな……?
「お前もよ…あまり他人を構うようなら……殺すわよ」
不意に振り向いたザハグランロッテから、ロスも不満をぶつけられた。
あ…これザハグランロッテちゃんの個人的な不満だわ…。
てっきり俺の作戦に反抗的なのを、俺の代わりに怒ってくれてるのかと思ったら…。
全然違ったわ…。
「仲間が何人も死んだって?だから何よ?まだ3人もいるじゃない。そこの蛇も入れたら4人かしら?それなら後2人くらい死んでも大丈夫ね。それで構わないのでしょう?」
彼女の言葉は乱暴だけど、その通りなのだ。
だから3人とも言い返せない。
「そ、そんなわけ無いだろッ!」
ホセが何とか反論しようと、声を出したが、意味を持つ言葉は出せない。
「あら?お前のやりたい戦いだとそこの2人と蛇も死にそうだけど?それがお前の望みなんでしょう?」
容赦が無い…。
彼女は全く許す気が無いようだ。
選択に対する予測、それに悪意を乗っけて返している。
「お前と、お前も同罪ね。仲良く全員で死になさいな。勝手にね」
ザハグランロッテの度重なる暴言に、頭に血が上ったホセが暴力的な空気纏った。
「お前ッ!がっ…」
「おい…誰に向かってガン飛ばしてんだ?」
暴力の矛先がザハグランロッテに向いた瞬間、ロスはホセを喉輪で吊り上げた。
「言っただろ…彼女に失礼な事をするなって」
単純な強さなら、ロスは恐らくミカド達の誰よりも弱い。
けれどミカド達から見れば、ロスの強さは底知れなく見えていた。
「お前の考えで動けば、結果は全滅になるのだから、お前の望みは全滅と同じ。そこの二人と蛇も道連れに殺すのでしょう?」
彼女は言った。
ヘイナスが殺すんじゃない。
お前が殺すんだと。
「そんな事…ッ!」
ホセは否定出来ない。
否定出来る根拠と言葉が無かった。
「勝手に死ね」
シンプルに…そしてこれ以上無いくらいの冷たい言葉を残し、満足しただろうか…いつもの澄まし顔に戻った彼女は一人で歩き出した。
え…?
どこに行くの?
彼女が歩き始めたので、ロスはホセを投げ捨ててから考えた。
このまま去ってもいいのか…?
少し悩み…そして彼女を追いかけた。
「あ、ちょっと…?ザハグランロッテちゃん…ちょっと待ってよ!?」
自分を置いていきそうなザハグランロッテにロスは焦った。
「お前は…私と関係ない所で死ぬんじゃないのよ?」
不安そうな彼女の言葉に…なぜか胸が締め付けられた気がした…。
「だ、大丈夫大丈夫!独りなのはザハグランロッテちゃんだけじゃないよ?俺もザハグランロッテちゃんがいないと独りなんだからさ」
ロスは彼女を安心させたかった。
情けない…。
肝心なときほど、肝心な言葉が出て来ない…。
自分の不甲斐なさを恨めしく思いながら彼女の隣をロスは歩いた。




