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12 器…後編

18時投稿分…忘れてた。

「えっと…ミカド、コイツがホセで、女の子はエニアちゃんで合ってるんだよな?」


ロス達は蛇ちゃんの背に乗って移動しながら、改めて自己紹介をした。

とはいえ自己紹介を長々する余裕も無い。


なので自己紹介は簡単に済ませ、早々に話し合いを始める。


蛇ちゃんはミカドの言う事しか聞かないらしく、みんなで移動する場合、ミカドの協力は不可欠のようだ。


「えっと…目的地は廃村。方向は…」

磁石を見ながらロスは行き先を指差した。


「あの集落に戻るの?」

質問するザハグランロッテの周りを、蝿たちがブンブンと元気よく飛び回っている。


「いや、あそこはアイツに見られてそうで気に入らないから…次の集落を目指すよ。たぶん廃村だろうし」


結構な数の蝿を引き連れながら、蛇ちゃんはロスの指し示した方に向かってズンズン進んでいる。


移動しながら、説明出来るのは、蛇ちゃんに乗って移動しているおかげである。


「あんたら、初めて見てから間もないのに…よく平気だな…。俺なんか今でもちょっと怖いのに」

ホセは信じられないといった感じでロス達を見ている。


蛇ちゃんを可愛がるロスと、蛇に臆することなく不遜なザハグランロッテが異常に見えるらしい。


「何言ってんだ?こんなに世話になってて文句言うとか小っさい奴だな」


ロスは蛇ちゃんを撫でながら、猿との戦闘で傷ついた体を回復魔法で少しずつ治している。


「それに、お前の仲間が大事にしてる子だろ? 何を心配する必要があるんだよ?」


ミカドが言うには、この蛇ちゃん元は人間だって話だ。


「お前…ホセって言うんだっけか?蛇ちゃんにもミカドにも失礼だぞ?」

ロスの指摘にホセは『うっ…』と言って黙り込んでしまった。


まあいいか…。

俺はザハグランロッテちゃんさえ大事に出来ればそれで良いんだから…。



イビル種と一緒に行動しているおかげで大抵の魔物やら魔獣に襲われないというのは快適だ。


蛇ちゃんはかなりデカい。

こんなデカいイビル種の魔獣は、猿のように群れを作る奴ら以外はほぼ勝ち目が無いだろう。




「集落に着いたらキレイにするから、もう少しの辛抱だよ」


今も不機嫌なザハグランロッテの雰囲気を和ませようと、ロスはにっこりと笑顔を振りまいた。

顔に集まる蝿が多すぎて、笑顔も全然爽やかな感じにならない。


「ずいぶん蝿と仲良しね。やっぱり同族だからかしら?」


彼女の毒舌は、そのまま彼女自身にも当てはまってしまうのだが…。


「いやいや…汚れは服の外側だけだから、熱湯で煮れば匂いも取れるし…。これまでの集落を見た感じ、塀の中に川があるだろうから体もキレイにできるはず。髪は俺がキレイに洗うから安心だよ」


無理やり嫌な事をした分、それ以上に甘やかし、ケアしようと決めている。

早く集落に着かないかなと、ロスはそわそわと移動先に視線を向けた。


「おぉ…速いな。もう街道まで戻ったぞ…」


イビル種の蛇ちゃんがいればゴブリンみたいな雑魚に気を使う必要は一切無い。

街道という王道を気兼ね無しに通る事が出来る。


つまり…ここから更に加速するという事だ。


「と、いう事で…はい、到着〜!このまま中をぐるりと調べてからゆっくりしよう!」


これまでの、命を削りながらの危険な旅が、気を抜いても大丈夫なほど安全な旅に変わったのだ。


あとはあのボス猿だな…。


表面で軽薄な態度を取り続けているロスの顔が一瞬だけ真剣になった…。





「じゃあザハグランロッテちゃんと俺は順番に水浴びして来るから、ミカド達は寝床に出来そうな家の確保と掃除をよろしく!」


「なんで俺達が…!」


予想通りにホセが噛み付いてきたが、ロスは視線だけで黙らせた。

あんまり煩いようなら、殺してもいいかなとも思っている。


こいつはザハグランロッテちゃんを馬鹿にしやがったからな…。

仄暗い怒りは収まっていなかった。


「これくらい、命を助けた礼だと思えば安すぎるだろ?」


ホセの抗議を軽く黙らせ、ロスはザハグランロッテの手を引き川へと向かった。


「見張りは俺がするから、お先にどうぞ。着替えはコレね。それとザハグランロッテちゃんの髪は俺がお湯で洗うからそのままで」


説明しながらテキパキと準備し、着替えを手渡す。


「仕上げはこれ!ステンレス!これ使いながら川の中で擦るとニオイが取れるから使ってみて?」


手渡されたステンレスをザハグランロッテは疑いの目で見ている。


「まあまあ、減るもんじゃないし試しておいでよ!」


無言のまま、冷たい目で睨んでくる彼女を優しく送り出したロスは、お湯を用意しておこうと準備しておいた薪に火を着けた。


水を張った大きめの入れ物を火にかけてじっと待つ…。




『パチンッ!』


「終わったわよ…」


ビクッとしてロスは目覚めた。

火を眺めていたら眠くなってしまい、そのまま寝ていたらしい。


「ていうか俺、叩かれたの?」


「当たり前でしょ?」


「そうか…当たり前か、なら良いんだ」


寝ぼけているロスはいったん納得した。


「…やっぱりおかしく」


理不尽に気づいたロスが抗議しようと彼女を見たところで先手を取られた。


「臭い。お前もさっさとキレイにしなさい」


抗議は遮られ、正論で反論の機会を奪われる。

ザハグランロッテちゃん、なかなかの策士だな…。


「はい喜んで!その前に服を綺麗にしないとなぁ…」


ザハグランロッテから受け取った服を、用意しておいた熱湯に入れ煮沸消毒する。

ついでに自分の服も入れようと、ロスは着ていた服を脱ぎ始める。


「…お前、汚いものを私に見せるな」


「あぁ、ごめんごめん。ついでだと思ってつい」


キレイになって落ち着いたのか、あまり怒られなかった。

ようやくいつものザハグランロッテに戻り、ロスは軽やかな気持ちで水浴びに向かった。







「ザハグランロッテちゃんは髪もとても綺麗だね」


沸かし直したお湯を使って彼女の髪を綺麗に洗っていく。

彼女も気持ちが良いのかいつもの澄まし顔も、なんだか満足気に感じる。


『ちゃぷ。ちゃぷ…。ちゃぷ』

お湯で髪を梳くたびに鳴る水の音は心を穏やかにする。


「今日はごめんね。嫌な事して…でも俺も割と余裕なくてさ…猿がザハグランロッテちゃんを傷つけるのが…守れないよりは…そう思うと止まらなかったんだ」


お湯を何度も換えながら彼女の髪を綺麗にしていく。

塀の中は静かで心も落ち着いている。


「おーい!家の確保と掃除終わったぞー!」


ホセの声が響き、ロスは返事をして待たせた。


「向こうの準備もいいみたいだからそろそろ行こうか。鼻がバカになってるからちゃんとニオイが落ちたか教えてもらわないといけないしね」


新しい布を出し、ザハグランロッテの髪についた水分を丁寧に拭き取っていく。


これで機嫌が良くなればいいけど…。

ロスはザハグランロッテの不機嫌が治っていると良いなと思いながら、彼女の澄まし顔をチラリと覗く。


分かんねぇなぁ…。

彼女の澄まし顔は鉄壁で、その表情からは何も読み取れなかった。





ミカド達の所に行くと女の子は目を覚ましていた。


「おっ、目が覚めたのか!体調はどう?痛いとか、変な所とか無い!?」


「……大丈夫」


「そうか、君はエニアと言うんだろう?俺はロスだ、よろしくな!」


軽く会釈をすると、エニアはホセの後ろに隠れてしまった。


そりゃ…起きたら知らない場所だし、知らない人がいるし…戸惑うよな…。


ロスの考えを読み取ったのか、ザハグランロッテが横から口を挟んだ。


「起きたら服ははだけてるし、知らない男がいるしで、警戒するのは当然ね」


「ちょっとザハグランロッテちゃん!?誤解を生むような発言は止めてもらえるかな…?」


どうやら彼女はまだ怒っているようだ。


いや…いつものザハグランロッテちゃんはこんな感じか…?


「まぁいいや、大丈夫ならエニアちゃんにお願いがあるんだけど…」


「エニアにお願い…って何?」

警戒心を露わにしたホセが、エニアの代わりに前に出てきた。


へぇ…仲間を庇う態度にロスはホセを少し見直した…。


「あぁ、さっき魚臭いの落としてきたんだけど、鼻がバカになってるからさ…。ちゃんと落ちてんのかなって思って。残ってる場所もあると思うんだよなぁ…」


「…だから確認してほしいのさ」


「…それに男にザハグランロッテちゃんの匂いを嗅がせるなんてあり得ないし…。あと、エニアちゃんも水浴びしたいだろ?」


別に無理な頼みでは無いだろう。

だから了承を前提にロスは言葉を続けた。


「それと、お前らも水浴びしろ。お前ら臭いんだよ!!」


そう、ミカド達も猿から逃げながら、余裕など無かったのだろう。

全身から結構な異臭を漂わせているのだ。


「くそ!さっきまで1番臭かった奴が偉そうにしやがって!」


「はぁ?なんの事かなぁ?いま臭いのはお前らだけなんですけど?」


ミカドもエニアも警戒はしているが、ホセのようにキャンキャン吠えてこない。

なんでだ…?

何か原因でもあるのか…?


「すみません…ホセはちょっと空気が読めない所があって…」


ホセの態度と比較していただけなのだが、ミカドが気にして謝ってきた。


「あぁ、大丈夫大丈夫」


初めだけかと思ったが、ホセはあまり俺の事が好きじゃないらしい…。

というか嫌いっぽいな…。


とはいえエニアの了承を得る事はできた。

ロスはザハグランロッテに、エニアを連れてもう一度水浴びに行くよう送り出した。


「俺は飯の準備するから、お前らも水浴びに行ってこい。あ…その前に俺もニオイが残ってないか確認してくれ」


ホセは断固として嫌がったのでミカドに確認してもらった。


「本当に…いつもは臭くなかったんだ…」

ミカドの失礼な驚きにロスはギョッとした。


「おいおい…当たり前だろ!そう言うお前こそ臭いからな!さあ、行ってこい!」


「……………やっと行ったか」


一人になったロスは、腰を下ろすと辺りを確認してから気を抜いた。


やれやれ…。

これからやるべき事を考えるとゲンナリしてしまう。


「こんな姿は見せらんないからな…あ、いや…蛇ちゃんがいたな」

ロスは呟きながら蛇ちゃんを撫でようと手を伸ばした。


伸ばされた手を、蛇は避けなかった。

魚の汚臭を纏っていた時と違い、今度は頭も動かなかった。


やっぱ臭いのが嫌だったんだなぁ…。

蛇ちゃんに感情があるんだなと分かり、ロスは少し親近感を覚えた。

そして、おもむろに背伸びして気持ちを切り替える。


次は夕食か…。


ミカドにホセにエニア。

彼らの信用を得るために、心に余裕を持たせなければならない。

今日の夕食の役割は特に重要になるだろう。




この集落も、嬉しいことに放置された畑で野生化した作物が実っていた。

新鮮な肉は無いので、あの大きな猪肉の燻製で我慢する。

今日は新たな出会いもあったので、親睦会の意味も兼ねて秘蔵の品も用意した。


これが今日初めて会った俺達に一体感を生むキッカケになってくれるはず…。






「さて、今日初めて会った俺達だが、まだヘイナスという脅威は依然として残っている。だけど…今日は安心しても大丈夫だ!奴らは警戒心が強いから容易には襲ってこない。それに…猿避けの壺も用意してある。だからゆっくり、沢山食べてくれ!」


猿避けの壺とは、中に発酵臭のする魚を詰めた物だ。

これを結界のように居住範囲に置くと、あの猿達は嫌がって近づいて来ないのだ。


安心して良いと言ってから、威勢よく始めた夕食だが、予想通り盛り上がりに欠けるものだった。


「はい、これはスープね」

そう言いながらザハグランロッテにスープを手渡す。


「これは野菜を焼いただけなんだけど、甘いし食べると肌にいいよ」

と言い、今度は野菜を器に取って手渡す。


「緑茶にできる葉っぱがあったから今日の飲み物はお茶を用意したよ」

と言って、お茶を彼女の近くに置いた。


彼女は澄まし顔で当然の様に受け取っているが、ロスの尽くし具合にミカドたち3人は驚いた様な、呆れたような顔をしてる。


「あの…それでヘイナスを倒す方法が有るっていうのは…」

ロスの献身も気になるが、ミカドは本題を優先して切り出した。


「はあ?アイツを倒す!?」

大きな声で驚いたホセ。

次第に顔は険しくなり、そしてついに怒り始めた。


「は…あ、アイツを!アイツを倒す!?そんなのアイツを知らねぇから、そんな簡単に言えんだよ!!だいたいっ…」


続けようとしたホセは急に大人しくなり、お茶を啜りだし目を少し泳がせた。


おぉ…?

何だ…?


ロスはその変化に興味を引かれ、原因を探した。

状況から判断して、ホセがエニアに睨まれているのが原因だとロスは推測する。


ははぁ…ホセはエニアに弱いのか…。

さっきエニアはホセの後ろに隠れていたし…。

たぶん2人の仲はだいぶ良いんだろうな…。


「その疑問が解決するようにこれから説明するんだよ。だから、まぁ…焦らないでまずは聞けよ。飯の時間だし、飯を食いながら…文句があるなら聞いた後で言えよ」


落ち着くように言い聞かせる。


「それから、ミカドには伝えたが、この方法はヘイナスに散々煮え湯を飲まされてきたお前らには…たぶん納得出来ない方法…だと思う…」


ロスは三人の決意を見極めようと、順に顔を確認していく。


なるほど…。


表情から各々の考えを読み取ったロスは、頷いて納得しながらザハグランロッテの顔に付いた食べこぼしを拭き取った。


「いいから早く言えよ!」

我慢できずにホセは前のめりになった。


「普通の猿ならそこに準備した壺に腐った魚を入れておけば、何時でも対処できる。効果はお前らも体験したから分かるだろ?」


強烈な出来事を思い出したザハグランロッテは嫌そうに顔を歪ませた。


「問題はヘイナスだ。執着される前なら良かったけど、執着した猿の…それもイビル種ならその対策も長くは持たないし、簡単に突破されるだろうな…」


ロスはいつまでも安全では無いと説明した。


「そもそも…逃げたい訳じゃない」

ミカドは体を震わせながらそう言った。


「そうだ!アイツは殺す!絶対に…!その為なら俺は死んでもいい!」

ホセも怒りを隠さない。


「みんな殺された…」

エニアの声も震えていた。


「どうやったら良い!?どうやったらアイツを殺せるんだ!?」

どれほど憎いと思っているか、その声色だけで伝わってくる。


「奴を倒す方法は簡単だよ…薬を使う…つまり、薬殺だ」


「…薬殺?」


ロスが静かに伝えた薬殺という言葉は、誰の頭にもすんなり入っていかなかった。


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■内容はほぼ同じですが、性的描写を省いていないバージョンです


【R18】因果の否定、混沌の世界でハッピーエンドを渇望する物語



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