8 選択…前編②
じっとりとした不快感で、私の目は覚めた………。
静かで人の気配はしなかった。
急激な不安に襲われ、私は必死に周囲を見回しロスを探した。
探したそれはすぐ側にいて、それを目にした瞬間、私の中にあった不安はスッと無くなった。
依存…。
これまで誰にも頼って来なかった自分の変化に危機感を感じる。
とはいえ、街に居たときとは状況が違いすぎて頼らざるを得ないのが現実だった。
寝汗を吸い込んだ服が、肌に貼りついた不快感と自分の不甲斐なさと合わさって気分をより重くした。
目の前で、倒れるように横になって眠るロスがいる。
姿勢から寝るつもりが無いのに寝てしまったのだろうと推測できる。
私の為に無理をしていたのだろう。
焚火が消えていないから、寝てまだ間もないのだと分かる。
私のため…。
私のためか…。
起きたとき、居なかったらどうしようと不安になった。
私にどうしてこんなに良くするの…?
寝顔のロスに心の中で問いかけた。
すると『ビクン』と動いてロスが目を覚ました。
「あ、あぶねっ…寝るところだった!」
意識を取り戻したロスが焦りながら倒れていた体を起こした。
瞼が目一杯見開いて眼孔まで見開いている。
恐らく急速に覚醒しているのだろう。
そして、私を見て驚きが継続し、開いた眼孔は治まりを見せず、目も見開いたままになっていた。
「思いっきり寝てたわよ」
私は作りなれた素知らぬ顔でそう言ってやった。
「何を見てるのよ」
無言だが、ロスの大きく見開いた目が自然な大きさまで閉じていく。
何も喋らない。
ロスが動かないので、ザハグランロッテも身動きが取れなかった。
「あぁ…いや、ちょっと見惚れてた…。いや、そうじゃないな!まだ動かない方が良いな」
何をまた馬鹿な事を…。
私は照れと呆れを同時に感じながら、もの凄く冷たい視線を返しておいた。
ロスは落ち着きを取り戻そうと、顔を赤らめながら彼女が寝ている間に集めておいた木の実の殻を剥き始めた。
「まだ食欲が無いかも知れないけど、これなら少しでも栄養摂れるから」
そう言って、殻を剥いた木の実を彼女の手のひらに乗せる。
「汗もかいてるからコレも飲んで」
塩を少し溶かした水を渡し、飲むように促した。
彼女と話している…。
その事実に安堵したロスは表情がこれまでにないほど緩むのを抑えられなかった。
「熱は…だいぶ下がってる…良かった…ほんとに…」
「お前…鼻がヒクヒク動いてるわよ…」
ザハグランロッテはロスの鼻の動きにイライラしながら、止めさせる意図を持って伝えた。
「え、あ…いや、ごめん。ちょっと、良い匂いだったからッ…」
「お前ッ!…本当に最低ね!!」
ロスの行動が、自分の汗が原因だと気付いたザハグランロッテは、恥ずかしさと悔しさで怒りが込み上げてきた。
「お前ッ!…もう…嫌いだ…」
ついさっきまでの感謝など、きれいサッパリどこかに消えていってしまった。
「ごごご、ごめん!本当にごめん…でも…俺、ザハグランロッテちゃんの匂いが好きなんだよ!」
「本当になんの告白よッ!お前のそういう所…本当に嫌い!!」
ザハグランロッテは更に恥ずかしくなって…でも嫌と思えない思いに困惑した。
腹も立つし、悔しいし…。
彼女の頭の中は混乱し、グチャグチャになっていた。
ついさっきまで、ロスが消えたんじゃないかと不安になったのに、今はどこかに行ってしまえと思っている。
でも、本当にどこかに行くのは絶対に許さないと思っていた。
私はわがままになったのか…?
自身の変化にザハグランロッテは戸惑っていた…。




