8.遠征① -移動-
「レオ、そういえば狩りに行っていたのでは?」
「おおそうだ、美味そうな鹿をとってきたぞ!」
どん、と目の前に出した動物には見覚えがあった。昨日コマが捕まえてきたやつだ。こちらはかなり大きいが。…と思っているとレオも気づいたようで、なーんだ、と少し不貞腐れた顔になった。笑いながら一緒に食べような、と声をかけると、
「オレは食べなくても大丈夫なんだが食べると嬉しい!」
とこれまた前に聞いたことのあるようなことを言って機嫌が戻った。コロコロ変わる表情は見ていてかわいい。この二人は行動が似ていることを考えるとかなり長い付き合いなんだろう。レオが解体は任せろというので眺めていたがなんとも手際がいい。人化している時は猟師として過ごしている時間が長かったそうだ。獣の姿で見られても剥製のふりや死んだふりをしてやり過ごせるらしい。よく見ると人型ではあるものの人差し指だけ元の姿になっており、爪だけ出して肉を切っている。なんとも器用なものだ。レオの直感や経験的にも内臓は食べない方が良いものらしく、きれいに捌かれた肉の塊が次々とできてきた。なお水筒として使う分にはOKをもらった。
レオは抜け目なく塩草もとってきており、この辺りでは見かけない大きな葉を使って蒸し焼きを作ってくれた。美味い!
三人で食事を取りエネルギーを補充したところで、2人の前の主なる気配へ向かうこととした。
「で、どこへ向かうんだ?」
「気配はあちらだ。」
二人が指さした先は俺が目を覚ました荒野だった。
「あの辺にはなにもなかったと思うんだが…」
「主よ、気配はあの荒野を抜けた反対側にある。」
「ええ…結構遠いな…泊まりがけは覚悟してたけど気合い入れないと。」
「主様よ、狛犬なら難しいかもしれんがオレなら主様を運べるぞ!そもそもさっきの獣も2つ隣の山で捕らえて運んだんだ!この山には獲物が見当たらなくてな!」
そう言って二人は元の姿に戻った。俺は最低限の干し肉と水を持ってレオの背に乗り立派なたてがみを掴んだ。
「しっかり掴むまっとけよぉ!!」
二人は風のように山を駆け下り、荒野を横切って行った。荒野のど真ん中にはいくつかの岩が転がっていた。そういえばこの辺りで目を覚ましたな、と思いながらその場所を抜けて正反対の山裾に差し掛かったあたりで、先行していたコマが止まった。
「コマ、何かあったか?」
「主よ、何者かの話し声が聞こえる。用心しよう。」
レオの背から降り、念の為結界を張ってもらい巨木の影に隠れ息を潜めた。声が聞きたいため音は通してもらうようにしていた。顔が見えるほど近くは通らなかったが、やはり理解できる言語は聞こえてこず、さらに以前聞いた言葉とはまた違うようだった。二人に聞いてみたが首を横に振り、
「我らも神格の端くれ、長く在った中でも言葉が分からないということはなかったのだが。」
「言葉がわからんだけで何とも不気味に感じてしまうもんだなぁ。」
なるほど神格にもなると言葉の壁は超えられるのか。しかしその二人の経験上で例がないということは、何かしらの異常事態が起こっていると考えるべきだろう。あるいは我々全員が異世界へ飛んだかだ。二人は結界を解き、俺はまたレオの背に乗った。
「主よ…聞こえているか?」
「話し声か?もうだいぶ小さくなったがまだ少し聞こえるな。」
「ほかの音は聞こえないか?」
「………なにも聞こえないが。」
「ならいい。」
怖いことを言わないで欲しい。俺はレオのたてがみを握る力を強めた。