6.相方探し②
コマが捕らえた獣の恵みは大きかった。
骨を焼き、爪は俺が使えるナイフになったし、硬い角は槍になった。毛皮は肉を綺麗に取って乾燥させている。胃袋らしき臓器は乾かすと水筒になった。肉をできる限り取って大きなものは焼き、細かいものは燻製にした。つまり靴と武器、保存食ができたのだ。ちなみにスリッパはコマの毛の長い部分を少しだけもらい紐を結って補強し、走ることができるようになった。
これで準備は出来た。いざコマの相方探しへ!と思ったが…そのころには日が傾いてきていた。見知らぬ地で夜に動くのは良くない。
「今日はとりあえず休むか。」
「主の命に従うのみよ。」
コマは夜でも関係なく動けるようだったが、俺に合わせて動いてくれるようだ。
「我は領域の守護者ゆえ、主が寝ている間は寝室の前で見張りをしよう。」
「確かにそうなんだろうけど、一緒に寝てたら守れないのか?」
俺は大型犬と眠るという夢をここで叶えようともくろんでいた。
「!!。その発想はなかった。我は敵意であれば数町先でも捉えられる故、そういう意味では部屋の中でも外でも変わらぬ。」
「なら一緒に寝よう!ほらほら横になってさあ。一緒に寝るといい感じだよ絶対!」
段々と言葉が怪しく鼻息も荒くなってきた。俺にこんな肉食要素があったとは。コマは若干引いていたようにも見えたが一緒に寝るのは嬉しそうだ。枯れ草を敷いた寝室に丸まったコマに引っ付いて寝る。これは幸せだ!!!
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………じ……るじ………あるじ!!
耳元で囁く声で覚醒した。もう朝だろうか。
「主、敵意のある者が近づいている。」
「なんだって?」
急に目の前がクリアになった。さっと肌が冷えるような感覚とともに全身の毛が逆立つのを感じた。
「真っ直ぐではないが、着実にこちらに近づいてきている。」
俺は槍を持ち、洞窟の入口から外へでた。肌寒い澄んだ空気を白と青の月が照らし、空は遠く見えた。
「すごい勢いでこっちに向かってくる。主は我の後ろへ。」
少し開けた場所に出て構えていると、山の上から樹の間を縫って黒い塊が飛び出してきた。凄いスピードでこちらに向かい、もうすぐぶつかる…!となる時だった。
「吽っ!!!!!」
コマの閉じた口から凄まじい衝撃波が放たれ周りの木々と共に黒い影を吹き飛ばした。黒い影はひるんだように見えたが、すぐに体勢を立て直し真っ直ぐこちらに向かい、大砲のような、ビームのような咆哮をこちらへ飛ばしてきた。
「主避けよ!!吽!!!!!」
コマは先程よりも少しコンパクトな衝撃波を飛ばし、俺は言われるがままに横へ飛びのくと、背後の木々が何本か倒れた音がした。コマは黒い影にまっすぐに向かうと飛びかかり、押さえ込んだ。
「主!!今のうちに遠くへ離れるのだ!我ではこいつを抑えることしかできん!」
俺は逃げ出したい気持ちをぐっと抑え、ガクガクと震える足で背後へ回り影へ問いかけた。
「…おまえは誰だ?どこから来た?」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァ!!!」
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぉぁ!!!!!!」
急にこちらを向いて叫ばれたため腰が抜けるかと思った。コマにいいところを見せようとして冷静を装っていた分尋常でない大声が出たため、黒い影がややひるんだように見えた。口を開けようとしたのか顔の下あたりが光るその瞬間にもう一度叫んだ。
「おまえは『獅子』か!!!?」
黒い影はシルエットが大きく膨らんだ後霧が晴れるように色づいていき、たてがみを纏った獅子が現れた。
「オレは…なにをしてたんだ??」
獅子はポカンと口を開けている。もう敵意はないようだ。上に乗って抑えていたコマが獅子の正面に回り話しかける。
「獅子よ、お前だったのか。我をもわからず攻撃してくるとはどういう了見か。」
「いや…オレは気づいたらここにきて…しばらくさまよっていたんだがなんとなく狛犬の雰囲気を感じ取ったあたりで何がなにか分からなくなったんだ。それよりも、お前なんか強くねえか?」
「…どうも主に名を貰って位階が上がったようだ。」
「それはずるいぞお前!!…主様…でいいのか?オレも今さっきあなたの守護者となったみてえだ。狛犬みたいにオレにも名をくれないか?」
獅子はこちらを見ているようだが、生憎木の影となっており暗くて表情はよくわからない。コマのほうを見ると目が合い、こくりとうなずいた。
「もちろんだ。お前は…じゃあレオで。」
「!!! オレがレオ?レオがオレ!?」
その瞬間レオの身体がふわっと光り、少し大きくなった感覚があった。そして黒緑の体毛に橙色のたてがみが薄闇の中で綺麗に見えるようになった。思い返すとコマの姿は暗闇でもはっきりと見えていた。
「改めてレオだ!よろしくな主様。」
獅子のレオが仲間になった!
注:1町=約109mです