5.相方探し①
「相方とは?」
「…相方がいたということは分かるのだが、それ以上はもやがかかって思い出せんのだ。」
「でも多分…俺が思ってる奴なんだろうな。何処にいるかはわかる?」
「この山の反対側に気配がある。索敵は得意なほうだ。」
「頼もしい。でも、その前に装備を整えたいところだ。昨日木の実しか食べてないからお腹も空いたし。」
「我に食事は必須でないが、美味いものは好きだ。」
「うーむ、どうしようか。狩り…?」
「我に任せよ!行ってこよう!」
狛犬は風のように山の中に消えていった。任せろと言っていた以上期待していよう。その間に出来ることをと思い焚き木を集めていたところ、川に目が行った。山の中の清流なわけなんだが、やはり魚がいる気配がない。よく考えればこれほどの山の奥地なのに、虫も、またその死骸も見つけられない。ほかにもこの森になんとなく違和感があるものの、それがなにからくるものなのかはわからなかった。
寝床から洞窟の奥へ出て改めて洞窟の前に火を起こしていると、狛犬が小鹿のような獣を咥えて戻ってきた。
「主!少し遠くまで行ったため遅くなった。小さい獣だが立派な角と肉だ!」
確かに捻れた立派な二本角と、しっかりとした胴体、足からは不相応な鋭い爪が生えている。顔は鹿に似ているが姿かたちは小柄のオリックスのようだ。
「この角も爪も使えそうだな。…いつの間に主呼びとなったんだ?」
「なんとなく主というのがしっくりくる。爪は我も立派だぞ。」
そう答えながら狛犬は自前の鋭い爪で器用に2本の爪を切り取った。まるでナイフのような切れ味!そのまま俺も手伝いながら皮を剥ぎ、食べられそうな肉の部位だけを炙り始めた。内臓については知識が乏しく、狛犬も微妙な顔をしていたため、勿体ない気もしたが袋として使えそうな部位のみを残し、森の中へ捨てた。これを食べに来る動物もおびき寄せられるかもしれない。
香ばしいにおいがあたりに立ち込める。寄生虫を殺せるよう表面を少し焦がすくらいにしっかりと焼いて、もうそろそろいいかというところで狛犬に声をかけた。
「一緒に食べよう。」
「もちろん!」
「「いただきます。」」
二人で肉にかぶりつく。…よく焼けていたが、味がない。よく考えれば味付けの塩がないのだ。戦国時代敵に塩を送るなんて言葉が出来るのが実感される。狛犬は喜んで食べているが味覚の違いだろうか。だが、俺はこんなこともあろうと塩味の強い野草を見つけたくさん摘んでいたのだ!勝手に塩草と名付けたその草をちぎって一緒に食べると…美味い!!ジビエ料理はいろいろと食べたことがあるが、この肉は癖もなくいくらでもいけそうだ。
初めての二人での食事は大変満足出来るものとなり、狛犬との親密度が上がるのを感じた。やはり同じ釜の飯を食うというのは大事なことなのかもしれない。
「狛犬が主と呼ぶなら…狛犬、コマって呼んでもいいか?」
俺は先程から思っていた事を切り出した。なんとなく狛犬って呼び方は俺が人間って呼ばれてるようなものかなと感じたからだ。
「なんと、名前を賜るなど初めてのことだ!コマ…われはコマか!いい響きだ!!」
コマは思いがけず喜び、コマ…コマと何度も反芻している。気に入ってもらえたようでなによりだ。その途端少し雰囲気が変わる感じがした。
「…主にの存在に我が近づいたようだ。一人称もコマがいいか!」
なんとなく威厳が無くなりそうだったため一人称は我のままでお願いしたところ、コマは駄目か…と少しだけ悲しそうな顔をしていた。