19.沿海の決戦⑦ -決着-
ひっそりと、としたのはまだ気づかれていない可能性があったからだ。結界は張ってあるし、そもそも船も沿海の精が導いているため漕いでいない。もし攻撃されるならもっと前にされていただろう、というのもある。
月明かりに照らされているはずの影は、やはり照らされることなく深い闇だ。海岸線にゆらめいている影とはそもそもの濃さが違う。やはり本体はこちらで間違いないだろう。
頭の中で海の神々を思いかえす。…と言ってもあまり知らない。それっぽいのを並べてみることしかできない。
おそらく声を出すと攻撃を食らうだろう。俺は腹をくくった。
「ワタツミ!スサノオ!ウミサチヒコ!」
声を出した瞬間、影は大きく膨らみ、船のほうへ伸びてきた。が、結界に阻まれて俺達には届かない。
「ミズハメ!ハヤアキツヒメ!!」
影はさらに触手のように伸び、船の周りを囲っていく。船がだんだんと揺れるようになってきた。これはまずい。
「ポポポセイドン、ネプチューン、カリプソ…」
焦って言葉にならなくなってきた。というよりもはや日本の神々は思いつかず、海外にまで及んでいる。しかし、影の猛攻は増すばかりだ。結界をたたく音がどんどん増え、大きくなっていく。
その時船が大きく揺らいだ。
(主…結界が破られた!!)
コマが吽波に切り替え応戦するが、触手のような影はどんどん伸びてくる。
ドン!!
大きな音とともに沿海の精が船から切り離された。
「あああああああああ!!!」
俺はもはや思考停止し言葉にならない叫びしか出てこない。コマは舳先へ立ち、なんとか俺だけでも助けようと頑張ってくれている。だが、沿海の精のいない今、この船は推進力がなくここから逃げることはできない。
海から黒い触手が伸び、俺の首根っこをつかんだ。コマはもう影に囲まれて見えない。
(主っ!!!!!)
俺の体が浮いた。山の民たちよ…すまない…。ミュイ…
その時、奇妙な光景を目の端に捕らえた。触手が”ワラダ”をつかみ、船の端の水面で上下し、海水をパシャパシャと打っている。お守りを嫌がっているのか…?いやこの動きは…!
「わかった…!おまえは船幽霊!海坊主!黒坊主!!」
その瞬間、影が大きく膨張したかと思うと、すっとしぼんで消えた。すると海中が光り周囲が明るくなり、その光が近づいて、海面で大きくはじけた。
「よくやった!タケルよ!!二人とも無事じゃぞ」
山の精とミュイ、ガトウが船の上に着地した。二人は気を失っているようだ。
そして他にも海のなかから人魚のような者たちや大きな亀、サメ、ピンクの河童…
河童?海に?しかもピンク??
その瞬間大きなうねりが見え、俺は気を失った。




