13.沿海の決戦①
海から盛り上がるように浮いている影は、深夜の暗闇よりも一層濃く、ゆらゆらと動く気配がなかった。
我々は周囲を警戒しながら海辺へゆっくりと近づいた。いつでも結界を張れるようにしていたが攻撃は飛んでこない。まず火のついた木を投げてみたが、素通りして海に落ちた。実体がないということか…?少なくとも火では何ともできないようだ。
ミュイが矢を射かけた。矢には草毒を塗ってある。…影は少し揺らいで嫌がったようだが、やはり動かすことはできなかった。毒に嫌がったのか、矢が嫌だったのか。今更だが、山の民たちの文明レベルは石器期である。青銅、鉄には至っていないようだがそれはこの豊富な山の資源と断絶された環境によるものだろう。
今度はコトシロが言霊で攻撃した。真名のわからないものには縛ることができない、ということで精神攻撃を中心としたものだったが、案の定何も起こらなかった。ということは精神体でもない…?あるいはもうすでに狂化しているかだ。
その刹那、レオが阿砲を放った。影に命中し、ゆらめいて、霧が晴れるように消えた。やった!!レオは得意そうにしている。今度は効いたようだ。やはりエネルギー体だったということだろうか。…手帳には名を得て、協力を得よと言われているのだが倒してしまってもいいのだろうか。
ひと仕事終えた感じで焚き火の近くに戻ってきたころ、嫌な感じがして影がいた場所を振り返った。
すると…そこには2つの影があった。さらには少しこちらに近づいたのではないだろうか。これは思ったよりもヤバいものかもしれない。もともと立っていた鳥肌がさらに強くなった。
一度焚火まで撤退し作戦会議をと、注視しながら後ずさりした。炎の傍まで撤退しても攻撃は飛んでこなかった。それもまた不気味な話である。5人で360度見渡せるようにしながら動いていたが新手が出てくることもなかった。
…5人?
コマ、レオ、コトシロ、ミュイ、俺。
「ガトウはどこへ行った?」
俺は皆に問いかけた。その時に初めて仲間たちはガトウがいないことに気づいたようだった。確かミュイが矢を射かけた時には今にも飛び掛からんほどの怒気を海に放っていたが、実際に飛び掛かってはないはずだ。俺達は全員が全員一度もその影から目を離せなかったのだから。
「お父さん…?お父さん!!?」
ミュイは混乱して周りを走り始めた。落ち着くんだ!と叫びを上げるが恐怖と怒りの混ざった状態なのか声は届かない。弓を構え凄い速さで砂浜を駆け巡っている。
「ミュイ…ミュイ!!」
砂浜に父の姿が見えないと悟り海に向かい走り出したミュイを追いかけた。
「主!!!」
炎の明かりを背に、やや遠のいたと感じた瞬間、何か見えない壁に衝突して意識が飛びそうになった。敵の攻撃か。…と思ったがやっと見慣れてきた、見えにくい壁だった。
「主様よ、独断で結界を張らせてもらったぜ。落ち着きなよ。」
顔を上げると、影が大きくなっている。いや、俺が近づいていたのか。そんなに走った記憶はないのだが…ミュイは…?
「タケル…ミュイは消えてしまった。影がふわっと広がりタケルに近づいたかと思ったがその瞬間にはミュイの姿はなかった。」
「なんでだよ…海へ向かったのか?コマ!気配はどうなってる?」
「…言いにくいのだが、我の索敵にその影はかからんのだ。ミュイの気配は遠くにあるのはわかるのだが…実はガトウも、海にいるように感じられる。」
コマはとてつもなく嫌な情報を言ってのけた。
休みが終わってしまったので、仕事の合間に更新します。




