10.海へ!①
「海へ…?海へ行くのは禁止されているのでは?」
「わっしが禁止したわけではない。洞窟もな。わが子らが危険を回避するために勝手に決めた事柄だ。」
「危ないところに俺達が行って大丈夫なのか…?」
「海を渡るのでなければ問題なかろう。…実はな、海に厄介なものが住み着いたようなのだ。そう、まるでコトシロ、おぬしのようなの。…おい、凹むな。おぬしはほんに立派な神じゃぞ。よく考えるのじゃ。半年前に言葉が通じなくなったが、この山に実際に現れたのは数日前のことじゃ。これがどういうことかわかるか?おぬしはあの呪いを拒絶し、半年近くこらえておったのだ。誰にでもできることではない。精霊と神、同軸で語れるものではないが、わっしはおぬしを敬い、わが子らへの狼藉を許そう。」
コトシロは手を合わせ感じ入っている。しっかりしているように見えたが自分への不信感などもあったのだろう、まさに今ようやく赦されたと感じたようだ。
「さて、海へはわっしも同行しよう。古い知り合いもおるしの。あとはそうじゃな、わが子らも何人か連れていけ。後のためになろう。」
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海へ行こうと思う、と告げるとザァンの家に集まったダリク、ガトウそしてザァンの有力者たちは全員軒並み反対だった。それはそうか。こういう伝統を守ることは民を守ることにもつながるもんな。
山の精の話をするともっと怪訝な顔になった。なんせ長老のザァンですら聞いたことのない話なのだ。信仰が分かれた話などしても、むしろ年長者であればあるほど信じられない様子だ。ここにいるんだがと話してもより冷ややかな目で見られてしまう。
「おいタケル、埒が明かん。わっしの言うことをそのまま伝えよ。」
「えー。山の精様の言葉をそのままお伝えする。ザァン、おぬしは小さいころ自分の母の山菜料理が嫌いでこっそり捨てていたな。次にガトウ、若いころ途中から体の傷が増えればかっこいいと思いわざと傷つきに行っていたな。そしてダリク、お主はいなくなった妻のことがまだ忘れられないようだな…フィルは死んではおらん。だがお前には見つけられんぞ。わっしらに任せよ。」
しばらく全員が雷に打たれたかのように動けなかった。ザァンの家に一緒に呼ばれていたラトゥ、ミュイも村長達の様子を固唾をのんで見守っていた。まずザァンが声を上げた。
「もう…おらの幼少期、さらには母のことを知っているものなんていねえ。あのまずい山菜料理もすたれちまった…精霊様はそこにいるんですな?そうか、おら達をずっと見守ってくださっていたか…ありがとうございますだ。」
次にガトウは恥ずかしそうに、
「ばれていた…はずはない。が…やはりばれて…?いや少なくともタケルが知ることでは…」
と言葉にならないつぶやきを始めた。もはや反対する気力はないようだ。そしてミュイがその秘密を知ったことに気づき絶望の表情を浮かべていた。一方でミュイは涼しい顔をしている。…これは薄々気づいていたな…!
ダリクはずっと一点を見つめて動かない。ラトゥが心配そうに見守っている。しばらくして絞り出すように声をだした。
「山の精様…いやタケル…失踪した私の妻フィルを探してくれないか…これは村長ではなく、個人でのお願いだ。時間はかかってもいい…」
「「もちろんだ!!!」」
コトシロとレオが声を上げた。そういえばこいつらはこういう人情者に弱かったな。だが俺も心は同じだ。
「全力を尽くさせてもらおう。ではその前に海へ行くことを許してもらえるだろうか。」
三人は今度こそ力強くうなずいた。




