4.山の民③
「どういう…ことだ…?」
ラトゥ達はもはや隠すことなく殺気立っている。コトシロはそれを真正面に受け止め、説明を始めた。
「私はもともと外つ国で祭られていた存在だ。訳あってかはわからないがこの地に顕現し、その際に何者かに操られ、呪いを振りまくようになってしまった。そして言葉を惑わし、近づいたものの意識を刈り取ってしまったのだろう。その呪いを解いたのがここにいるタケルだ。」
飛び掛からんとしそうな勢いのラトゥ達は俺に矛先を向けた。
「なら…お前たちは……なんだ…我等を笑いに来たのか…!」
瞳には先ほどまでとは違う憎しみの炎が宿っている。両側の女性も同じようだ。一人に至っては息も荒くなっている。コマとレオはいつでも結界を張れるよう姿勢を正した。
「タケルなら皆を救うことができる。」
なにを…?コトシロがとんでもないこと言っている。俺にどうしろというのか。
(ここは私に任せてくれ。)
念話が飛んできた。ここまで来たら取り繕える領域ではないためもう任せるしかない。
「私はタケルに救われ正気を取り戻したのだ。そしてタケルは私の罪を全て受け入れ、害を与えてしまった人々をも救おうとしている。」
「本当に…皆を戻せるのか…?」
憎しみの炎はまだ消えていないが、先程見せていた縋るような様相も混ざってきた。今置かれている現実と自身の感情とを秤にかけているのだろう。もう一押しだ。
「もし戻せなければ私の命を捧げよう。」
「では…民たちを助けてくれ!!」
コトシロが言い放ったとんでもない一言にラトゥは折れた。実に優秀なリーダーだ。とはいえ、3人からは依然として刺すような視線が飛んできている。
俺とコトシロは最も体格のいい男が横たわっている傍に移動した。コトシロは俺に念話で両手を顔の上にかざすよう指示し、俺がその通りにすると男の耳元でぶつぶつと何かをつぶやいた。
すると、苦悶の表情だった男の顔がみるみる穏やかになり、穏やかな寝息を立て始めた。
「これで一晩すれば目覚めるはずだ。」
念話で言われた通りのことを話した。そして同じようにほかの6人にも解呪?を施すと、そのころにはラトゥ達の表情も柔らかくなっていた。
「本当に目覚めるまでは信用はできない…。だが、苦しんでいるのが和らいでいるようにみえる。ほかの人々のところも回ってくれないか。」
もちろん快く了承し、他の家も訪問した。比較的大きな家に数人から十人ほどまとまって寝かされており、合計200人ほどにも及んだ。その世話をしているのは女性、子供と老人ばかりだ。なるほど、全体の半分、しかも働き手ばかりが倒れてしまい、世話にも手を取られ、村としての存続が本当に限界だったのか。
全員に解呪を施し終わるころにはあたりは真っ暗になっていた。
「お疲れ様だ、タケル。ありがたく思う気持ちが大きいが、その原因であったというのも事実。本当に皆が目覚めるか確認できるまで牢に入ってもらう。」
ラトゥは何とも読めない表情で、俺達を牢へ連れて行った。山の斜面に口を開けた狭い洞窟を利用した牢で、表には格子が嵌められている。そしてその前には傍に仕えていた二人が見張りについた。
(主様、脱獄するなら命じてくれ。このくらいの牢なら破れるぜ。)
(主、寒くないか。こっそりと元の姿に戻ろうか。)
(二人ともありがとう。大丈夫だ。明日の朝になれば事態は好転する…はずだよな、コトシロ。あれは何をしていたんだ?)
(協力に感謝する、タケル。意識が飛んでいた者たちはつまり、言霊を一気に詰め込まれた結果、脳がその膨大な情報を処理するため動き続け、覚醒できず発熱し、強い頭痛と苦悶の中にいたのだ。だからその言霊を吸い取ってやり逆に脳を休ませように言霊を上書きしたのだ。個人差はあるだろうが明日中には目を覚ますだろう。)
(俺がコトシロと対峙した時の強化版か。あの時はすぐにコマとレオが遮ってくれたからすぐに戻ってこれたが、聞き続けるといつまでも起きなくなっていたかもしれないな。強い力だ。)
念話での会話を重ねているうちに夜は一層深くなっていった。




