11.遠征④ -決着-
意識を失っていたようだ。三人で叫んだ瞬間、耳元にぺちんという嫌な音が届いてしまった。すると頭の中にあらゆる言語が無秩序にあふれ出し、響いていた頭痛はさらに強度を増して耐え切れず、目の前が真っ暗になった。
そして今目を開けたのだが、真っ暗だった。倒れたのは外だったはずで、せめて二つの月や、星空は広がっていてもいいようなものだが。視界に何も映らず、もふもふしている…もふもふ?
「主様!起きたか!」
頭を上げると光が目に入った。なるほど、もとの拠点に戻ってきて寝所に寝かされていたようだ。レオが運びそのまま添い寝してくれていたのだろう。…コマの姿が見えないのが不安になり、心の中で呼びかけてみる。
(コマ…大丈夫か?)
(主!無事だったか!!我も平気だ。今は事代主と共にある。)
(やはり事代主だったか。ということはあの黒い靄は晴れているんだな。)
(然り。力尽きたようにそのまま主と同時に倒れてしまった。主が濡れており冷えてはまずいと思ったため拠点に戻ろうとしたが、事代主を動かしていいかわからず主だけ帰すことにしたのだ。)
(その判断が正しいだろうな。ありがとう二人とも。コマ、事代主が目覚めたら教えてくれ。)
(了解した。)
漏らした…?わけではなさそうだ。全身冷や汗で濡れていたのか。そう言わないのはコマの優しさだろうな。恥ずかしい!
「主様。ひとまず大きな出来事が終わったんだ。もう少し休んどきな。」
「そうさせてもらおう。」
顔と体を洗い、冷えた下着を干してウインドブレーカーを着なおしてレオにくっついた。温かく穏やかな気持ちで眠りにつくことができた。
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朝になってもコマからの連絡はなかった。
(コマ!どうだ!)
(主よ、まだ起きぬ。大丈夫だろうか。)
(今から向かおう。)
水と干し肉を持ってレオと出発した。ほどなくしてコマから連絡が入った。
(事代主が起きたようだ。)
(もうすぐ着くから見張っておいてくれ!)
(了解した。)
昨日と同じように森を抜け、開けた草原の端の木陰にコマが座っていた。その向かいには白い狩衣風の衣装に身を包んだ小柄な青年が静座している。
「はじめまして。俺は紙本健だ。」
「私は大国主子、の事代主だ。事の次第は先ほど狛犬から聞いた。今はコマと呼んでいるのだったな。コマ、レオとは以前に私の社を守護してもらったことがあり長年の知己である。私を救ってくれたのだな、タケル。」
「救ったというか、反撃したというか。」
「結果ととして私を救ってくれたのだろう。そなたらに最大の感謝を。」
コマとレオは恭しく頭を垂れた。
「ご助力できたようで光栄です。…一体何が起こったのでしょう?」
「私にも見当がつかない。どうもかなり前からこの地に顕現し、さまよっていたようだ。混濁した記憶から推察すると、顕現するときに異物が混ざり、私の能力が暴走して漏れ出してしまったのだろう。近くの生き物には言葉を無理やり詰め込んで思考力を破壊し、もう少し遠い範囲にも言葉を混乱させる程度の影響が及んだのだ。」
「なるほど。だから神獣たる狛犬や獅子にもわからない言葉があったのか。…あのぺちんっていうのはやはり?」
「…そう、天の逆手だ。もともとは私の反抗心の意思表示で今考えれば恥ずべき感情だが、結果私を代表するしぐさになった。基本的には呪術増幅や防御、接続などの時に使う暗示みたいなもので、そんなに怖いものではない。これで私の正体にたどり着いたか?」
「これもあったんですが、実はまだ自信がなくて。…最後の最後に魚のにおいがしたので間違いないと思いました。」
「なるほど。釣りは私の代名詞でもあるからな。よくぞ看破してくれた。…この世界での私の使命がわからない以上、私もそなたと共に往こう、タケルよ。私のことも特別に呼びやすいように呼ぶことを許そう。」
「いや…神獣でも抵抗があるのに神様に名づけをするのはちょっと畏れ多すぎて…。」
「これにも理由があるのだ。後で説明はしよう。」
「まあでもそういわれるのであれば。コトシロヌシノカミ様だから、コトシロ様でどうでしょうか。」
その瞬間、事代主の体が少し光った。
「なんと…神格が上がったぞ。格上の相手と繋がるとその格に近づくと言われるが…私は従一位、神階では2番目にいる。ということはタケルは正一位以上、最高位ということではないか。何者だそなたは?」
「何が起こっているんでしょうね…俺が一番びっくりしていますよ…」
本当に何が起こっているのだろうか。謎は深まるばかりだ。
注:神階は超-正一位-従一位-正二位-従二位-正三位-従三位の順になっています。今後登場するかどうかは未定です。




