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羞恥と高揚。痛みと充足。体温と湿度。親愛と執着。情欲と献身。
あらゆるものがないまぜになって、私はもう訳がわからなくなっていた。
壱己の背中に腕を回して、縋り付くだけで精一杯だった。その行為がいつ終わったのかも、私にはわからなかった。
壱己はいつまでも私の上に覆い被さっている。ぎゅっと抱き締めたかと思えば、頬に額に首筋に胸に、何度も何度も、唇をあてがう。頭を撫でて髪を梳いて、背骨の形を確かめるように背中に手のひらを這わせる。名残惜しげに体を離したかと思うと、今度は隣に横臥して、背中側から私をしっかりと抱き直した。それでようやく心からの安堵を得たとでもように、深く息を吐いた。
そのひとつひとつの仕草から、壱己がどれだけの恋情を私に抱いていたのかが伝わってくる。壱己の気持ちはとっくに、同性だったら良かったなんて言い合っていた頃とは、まるで別のものに変わっていたんだ。
これから私たちはどうなるんだろう。
不安な気持ちもあったけれど、壱己の腕の中で微睡む心地良さが、それを打ち消してくれる。触れられたところから意識が溶け出していくように、頭がぼんやりしてくる。
これでいいのかもしれない。
動きの鈍った頭で、私はそんなことを考えた。
私たちはもしかしたら、これから恋人とかそういうものに、なるのかもしれない。でもそんなのは呼び方が変わるだけのことだ。こうして体を重ねることも、またあるかもしれない。でもそれも、それだけのこと。
きっと、何も変わらない。今まで通り、いや、それよりももっと近くでもっと深く、寄り添うことが出来るかもしれない。
だからきっと、これで──これでいいんだ。
しばらくして、壱己はむくりと上半身を起こした。背中にそっと両手を添えて支え、私のことも抱き起こす。ベッドの上に二人、ぺたんと膝をついて座り、向かい合う形になった。
「……灯里。聞いて」
壱己が私の頬に、両掌をあてがう。その指先から慈しみが流れ込み、溢れて、私は胸が苦しくなった。
あぁ、壱己は私に気持ちを伝えるつもりだ。これ以上ないくらい真剣に、これからの私たちの話をするつもりだ。
真っ直ぐに、私を見つめて。
壱己の黒目がちなアーモンド型の瞳。
長い間一緒にいたのに、こんなに純粋で深い黒を宿していることを知らなかった。目が離せなかった。
(決して誰とも見つめ合ってはいけない)
それすら忘れるほど引き寄せられていた。その時の私の目には、壱己しか映らなかった。
「俺は、ずっとお前を───」
壱己の言葉は、最後まで聞けなかった。
その瞬間、私の意識はふつりと途切れた。
足元の地面をすっと取り除かれたみたいに、一瞬で落ちる。
壱己の、夢の中に──。




