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第8話 盗賊団をぶっ潰せ!

 いよいよ、猫カフェ予定の城へ向かう日がやってきた。領都までやってきた私の馬車と護衛の馬車の二台に加えて、各作業員と荷物を積んだ馬車が三台、それらの護衛として、さらに一台を追加して合計六台の馬車による移動となる。


「けっこう大掛かりになってしまいましたね」

「しかたありませんよ。どのくらい必要か分かりませんからね」


 荷物の大半は工具。ベッドなどの家具はかさばるので、現地で木材を採集して調達するわけだ。それでも、釘などは必要になるので、あらかじめ多めに用意しておいてある。


「あれが城ですか」

「たしかに、不審な男たちがあちこちにいますね」


 馬車に揺られること数時間、山と森に挟まれた狭い道を進んで目的地の城に辿り着いた。魔物に遭遇しなかったのはキャトラのおかげだろう。


「そうですわね。突撃班と援護班と包囲班の三つに分けましょうか。突撃班は盗賊たちに突撃して撃退する。援護班は突撃班の取りこぼしを撃破する。包囲班は城に存在するであろう隠し通路で逃げようとした盗賊を捕獲する。という形でいかがでしょうか?」

「いいですね」

「妥当ですな」

「意外とまともだニャー」

「ふふん、見直しましたか。とりあえず、私は突撃班――」

「「「えっっっっ?!」」」


 三班分けの感触は良い感じ。その上で突撃班に自薦した結果、三人とも驚いた表情を浮かべていた。この三つであれば、消去法で突撃班なんだけど理解してもらえないようだ。


「お嬢様、正気ですか?」

「城の修理に人員を連れてくればよかったですかな」

「お前、壊すことしかできないじゃないかニャー」

「いやいや、私が援護班とか包囲班になったら、取りこぼしが怖いでしょ」

「「「それは……」」」


 三人とも私の魔力操作が雑なのを知っているせいか、まるで破壊神のような言いようである。だけど、雑な私が援護班とか包囲班になるのはリスクが高いことを説明したら、逆に納得する有様だった。解せぬ……。


「えっと……。お嬢様は、私たちのリーダーですよね。全体の指揮をお願いできないでしょうか?」

「「それだッッ!」」


 サラの提案にロバートとキャトラが乗っかる。三班の上に総指揮として私が上に立つという構図。たしかに私の下にキャトラとサラとロバートが三つの班のリーダーとして立ち回る形だときれいに収まっているように見える。


 ――だが、それでいいのだろうか?


 どんなに力があっても、見せつける場面が無ければ埋もれていくのが世の常である。私は裏ボスで、強大な力を持っているかもしれない。しかし、それを振るわなければそこら辺の悪役令嬢と同じである。


「やはり、私も突撃班に……」

「これは、お嬢様にとっての試練なのです。次期辺境伯となるための試練なのです!」

「左様でございます。なぜお父上が領地をお嬢様に預けられたか。意味を考えた方がよろしいかと」

「そうニャー。仮にも俺のマスターだったら、後ろでふんぞり返っていればいいニャー」


 私が前線に出ようとすると、三人の激しい説得を受ける。たしかに、婚約破棄が現実味を帯びてきた以上、私が辺境伯を継ぐ可能性が極めて高い。それを見越したイベントだと考えれば、彼らの言うことももっともだろう。


「わかりました。それで私は総指揮として頑張ります!」

「さすがです。私たちもサポートしますから!」


 彼らの説得を受けて、私が総指揮になることを決定すると、三人は胸を撫で下ろし、諸手を挙げて歓迎する。最終的に、突撃班がキャトラ、援護班がサラ、包囲班がロバートという鉄壁の布陣が完成した。もちろん彼らの下に護衛の人を数名ずつ付けている。


 あまりにバランスが良すぎて、自分の居場所は最初からなかったんじゃないかと思えてしまうが、気にしたら負けだろう。


「それじゃあ、包囲班、周囲に展開! 入口の見張りは二人か……キャトラ以外の突撃班、正面突破! 援護班、正面以外の扉の確保!」

「包囲班は展開完了でございます」

「援護班、正面以外の扉をロックオンしました」

「総員、突撃ニャー!」


 キャトラの掛け声と共に、突撃班の護衛が正面入口に殺到する。予想通り、一人が応援を呼びに行き、もう一人が迎撃に回る。最初にキャトラを投入しないのは、彼らに迎え撃てる程度の戦力であると認識させるため。


 いきなりキャトラを出したら、相手も全力逃亡を選択する可能性がある。そのため、突撃班に割り振った護衛は三人のみ、それも比較的防衛戦を得意とする者たちだ。


「よし、キャトラ。突撃だ!」


 中から盗賊が四人ほど出てきて、六名がかりで護衛を取り囲む。数的優位を得た彼らの表情には余裕が見える。その程度の優位など、キャトラという強大な個の前には単なる誤差。突然のキャトラの登場に盗賊の包囲が緩む。護衛は、その隙を見逃さず後退。


「追え! 逃がすな!」


 護衛がキャトラの方へと逃げ出したことで、キャトラは脅威ではないと認識した盗賊が護衛を追いかける。護衛がキャトラの後方で反転。彼らの逃亡が罠だったことに気付いても、もう遅い。


「ご苦労だったニャー!」

「なっ、バカな!」


 護衛を追いかけていた六人の盗賊は、キャトラが前足を横一文字に薙いだだけで吹き飛ばされて意識を失う。


「クリア!」

「一気に中へ突入ニャー!」

「援護部隊、出入り口を封鎖しつつ、中に突入です!」

「包囲部隊、逃亡兵の監視を強化!」


 キャトラが撃破したのを確認した護衛の一人が合図を飛ばす。それを受けてキャトラが突入指示を出した。その突入指示に呼応するように、サラとロバートも隊員への指示を飛ばす。


「あれ、これって私の指示いらなくない……?」


 ふと湧きあがる疑問。しかし、その答えを教えてくれる人間は、作戦決行中のため、私の周りには誰もいない。逡巡している間にも、三人は容赦なく作戦を進めて、盗賊を壊滅へと導く。


「もしかして、謀られた?!」


 総指揮という役割、それは私という戦略核兵器並みの戦力を封じるためのものだった。三人の策略により、まんまとおだてられた私は今、活躍の機会もないまま作戦完了を迎えようとしていた。


「くっ、今さら入って暴れ回ったところで、活躍どころか邪魔したとした思われないじゃないですか!」


 私が誇れるところと言えば、圧倒的な身体能力と膨大な魔力、そして猫カフェへの情熱だけ。特に今回は身体能力と魔力による活躍を見せつける絶好の機会。それを無駄にしてしまったことは痛恨の事態といえる。


「むむむ、何とかして挽回しなければ……。ん?」


 手遅れも手遅れの状況ながら、何とか挽回のチャンスを求めて、目を皿のようにして戦場を眺める。視界の端に、何かが動いたような気がした。


「あれは……。もしかして、盗賊団のボスってやつですか?!」


 予想していた通り、城には隠し通路があったのだろう。包囲班の外から地面に現れたガタイのいい男が、城を背に走り去っていくのが見える。


「キマシタワー! アレをやっちまえば一発逆転、私の存在感もバッチリアピールできますわー!」


 お飾りの総指揮にこだわって放置していいはずがない。次の瞬間、私は男に向かって全力疾走していた。

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