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第5話 ホワイトタイガーを勧誘します!

 父と入れ替わりにサラを呼んで、具体的な計画に移していくことにした。


「建物は用意してもらいましたし、次は猫の調達です。ここは現地に向かいながら、ついでに捕獲しましょう」

「現地に向かうのでしたら、いったん領都で準備を整えるのがよろしいかと」

「そうですね。それでは準備をお願いできますか?」

「おまかせください」


 恭しくお辞儀をして、サラは準備のために部屋から出ていった。準備が終わる翌日の昼前まで、静養しながら身体能力と魔力を強化する鍛錬をしておくことにした。何もしなくてもチートなエリザベスだけど、ここから鍛錬をすることで、さらに伸ばせるようだ。


「気を付けて行ってくるんだぞ!」

「心配はいりませんわ」


 準備が整い、私たちは心配する父の見送りを受けながら馬車に乗り込む。父に微笑みかけると、少しだけ表情が柔らかくなったように見えた。私の乗る馬車にはサラとロバートが乗り、護衛たちは前の馬車。全員が乗り終えたところで、馬車は辺境伯領に向けて走り出した。


「す、すごい揺れますね……」

「これでも私たちの馬車はだいぶマシですよ」


 王都の舗装された道とは違って、土がむき出しになった街道に入ると馬車の揺れが酷くなる。私からしてみると、ありえないくらいの振動に戸惑いを隠せない。


「サラは平気そうね」

「慣れておりますからね。でも、よろしいのですか? 街道ではなく山道を行くなんて……」

「ええ、移動だけに時間を費やすなんてもったいないわ」


 馬車は街道を外れて山道へと進んでいく。馬車の揺れはさらに酷くなっているみたいだけど、揺れすぎて私には違いがわからなかった。


 私は周囲を猫に使えそうな動物とかいないかなと周囲を見回しているけど、あまり生き物の姿が見つからなかった。


「これは道中で捕まえるのは厳しそうですね」

「……まあ、まだ出発したばかりですから」


 なかなか獲物が見つからないことに落胆していると、突然馬車が止まった。しばらく待っていると、護衛の一人が私の馬車にやってきた。


「前方にホワイトタイガー! 進路をふさがれております!」


 その言葉を聞いて、私は馬車から飛び降りる。華麗に着地をして前方を眺めると、山道の少し先の方に巨大な白いトラが寝そべっているのが見えた。向こうも私たちの存在に気付いたのか、立ち上がり、こちらをにらみつけてくる。


「お嬢様、下がっていてください。危険でございます。」

「安心ください。我々が排除いたしますので……」


 サラとロバート、そして護衛が私たちの前に出ようとする。ホワイトタイガーはかなり強い魔物なのか、護衛たちの表情には緊張の色が見えた。


「待ちなさい。ここは私に任せて先に行ってくださいませ!」

「えっと……。あのホワイトタイガーに道を塞がれて先に進めませんが」

「……そうでしたわね。戻っていて待っててくださいませ!」


 ここは猫スタッフをスカウトするチャンス。私が出るより他にはないだろう。ついでにセリフもカッコつけてみたけど失敗だった。他の人たちを下がらせて、私一人でホワイトタイガーに向かって歩いていく。


「「……」」


 私とホワイトタイガーが黙って視線を交わす。一歩進むたびに緊張感が高まる。あと一歩、進めば衝突は必至。ゆえに私もホワイトタイガーも、そこから先へは一歩たりとも進めない。


「ほーらほら、怖くないですわ」

「……?」


 私は身を屈めながら、ホワイトタイガーに向かって語りかける。猫は警戒心の非常に強い生き物だ。ゆえに、こうして小さく見えるように身を屈め、優しく語りかけることで無害であることをアピールする。ホワイトタイガーも私の方を見て首を傾げる。心なしか緊張感も少しだけ緩んだ気がした。


「ほら、いい子にするのですわ。大人しくしないといけませんのよ」

「……ガルル……」


 語り掛けながら少しずつ距離を詰めていく。一時的に緩んだ緊張感がふたたび高まっていくのを肌で感じながら、慎重に、一歩ずつ近づいていく。しかし、それも互いの攻撃射程範囲まで。


「これ以上は、一気に攻めるしかありませんわね……」

「ガルル……」


 先制して相手に反撃の隙を与えず制すか、カウンターで相手の虚を突いて制すか。いずれにしても次の一瞬が勝負の分かれ目。


「グオォォォ!」


 先に耐えきれなくなったのはホワイトタイガーだった。わずかに力量が劣る故の苦し紛れとなる攻撃。一歩踏み出し、振り上げた右の前足を私の頭上から叩きつける。


「甘いですわ!」


 準備万端に構えていた私を捉えるには何もかも足りない。振り下ろされる前足を舞うように回転しながら掴み、振り下ろす勢いに己の力を足して振り切らせる。


「ガアッ?!」

「隙あり、ですわぁぁ!」


 勢い余らせ体勢を崩したホワイトタイガーがたたらを踏む。同時に私はホワイト

 タイガーの首の付け根にしがみつき、執拗に撫でまわした。


「うおぉぉぉ、よしよしよしよし!」


 振りほどこうと暴れ回るホワイトタイガーをものともせず、ひたすら撫でる。指先から伝わるフカフカな毛皮の感触に、うっとりとしそうになるのを耐えていると、次第にホワイトタイガーの体からも力が抜けてくるのがわかる。


「ここですわッッ!」

「ニャッッ?!」


 すかさず右前足を掴むと、ホワイトタイガーの巨体を一本背負い。背中を地面に打ち付けたことに驚いて声を上げる。地面に打ち付けるのが目的ではないため、そこまで痛くはないはず。


 だけど、背中が地面に着いているということは、無防備なお腹が露になっているということでもある。


「これで、トドメですわッッッ!」


 お腹の上に馬乗りになって、ホワイトタイガーのお腹を勢いよく撫でまわす。


「ニャー、やめるニャー、降参するニャー!」

「しゃべった?!」

「しゃべれるニャー、当たり前ニャー!」


 急に人の言葉で話しかけてきたホワイトタイガーに驚いて飛び退いてしまう。


 ホワイトタイガーは人間の言葉が理解できないはず。だけど、目の前の彼は理解するだけではなくて、人の言葉で話している。


 私が驚いているスキにホワイトタイガーが立ち上がり、私と相対する。


「まさか、最初から私の言葉を……」

「当たり前ニャー。なんかキモかったニャー」


 呆れたような表情で語るホワイトタイガーに、私は試合に勝って勝負に負けた気分になる。


 だけど、それでも勝ちは勝ちだ。


「降参、ってことは、私の勝ちでよろしいのですのよね?」

「もちろんニャー。俺はお前に手も足も出なかったニャー。殺そうと思えばいつでも殺せてたはずニャー」


 野生の勘で理解しているのだろう。自分が生きているのは、私が何らかの理由で殺すつもりが無いからだということに。もし、本気でぶつかっていたとしたら自分は生きてはいないだろうと。


「そうですわね。私は、これから猫カフェを開く予定なのです。ですが、そこで働いてくれる猫ちゃんがいないので、スカウトしようと思っていたのですわ」

「俺は猫じゃないニャー!」

「問題ありません。その圧倒的なもふもふ感、才能の片鱗を感じますわ!」


 わずかに躊躇っていたホワイトタイガーも、私の熱意ある説得によって、少しずつ心を動かされていった。


「わかったニャー。お前を手伝ってやるニャー。お前の従魔になってやるから、まずは俺に名前を付けるニャー」

「それじゃあ、キャトラというのはいかがでしょうか?」

「トラか、わかってるじゃないかニャー。それでいいニャー。よろしくニャー」


 キャトラが私に手を差し出す。私も手を差し出し、堅く握手を交わした。


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